第708話
「その情報は確かなものですの?白雪様。確かに兄ならばやりかねない気もしますが」
ドモンと同じ白のガウンをバッと羽織り、ドアを開けたシンシア。
ただ帯も結ばず前がはだけている状態だったため、胸の先端は隠れていたが、もっと大事な下半身部分は完全に丸出し。
白雪と、将来の夫となる近衛兵に目で合図を受けた侍女のひとりが、慌ててシンシアのガウンを直した。
シンシアはこういった非常事態の場合、自身のことなど後回しにして、まずは王の命と民の命を最優先するように教育を受けてきた。
「・・・奥様どいてください!息が吸えない・・・それにお手洗いに・・・もう頭がおかしくなっちゃう」
「むにゃあドモンってば・・・ぐぅ」
「サンは御主人様じゃないですぅ!あぁおしっこが」
サンの頭の方から覆いかぶさるように抱きついて寝ているナナ。
いわゆる柔道の上四方固めであり、胸の大きなナナの今の超必殺技である。
何も見えず身動きも出来ないまま、強制的にこの世のものとは思えない程のふわふわの中に包まれ、理性を破壊されてしまう恐怖の技。
その上乗っかっているナナは、下になっている者の体を触り放題。
若さ故に手加減も知らず、くすぐったり敏感になってる部分を触ったりするので、ドモンですら粗相をしたことがある。
「ドモン、元気出さないとこうなんだから・・・ムニャムニャ」寝ぼけ眼でサンの全身をくすぐり始めたナナ。
「や、やめ・・・オヒョヒョヒョイヒヒヒ!!」
「あれ?ドモンのドモンがないわね。どこー?ここかな?あれ?これかな?それとも・・・」
「オホッ?!あ?!あぁ~・・・」
何があったのかはさっぱりわからないが、みんなが見ているドアの方まで何かの液体を飛ばしてしまい、サンは不貞腐れた顔で侍女達と一緒に床掃除。
ナナはバツの悪そうな顔で白いガウンを着て、ドモンの横に来た。
ナナの場合、帯はきちんと結んだものの、上半身は閉じられずほぼハミ出している。が、さっきまでの裸よりはマシだと本人は意にも介さず。
「で、ドモンはどうするの?なんとかするんでしょ?」
「なんとかするも何も、流石にこれじゃどうにもならないだろ。その前にお前はそのおっぱいをどうにかしろ。デレデレした顔の閻魔大王が白雪さんに殺される前によ」
「し、失礼いたします!」「すぐに直しますので!」
「ちょ、ちょっと・・オホ?!私の胸をなんだと思ってるのよォオンッ!」
ドモンの言葉で慌てて侍女ふたりがナナに駆け寄り、ギュッギュとナナの胸をガウンに押し込んだが、何度押し込んでもハミ出てきてしまい、先っぽをギュウギュウと押されることになった。、
突然の刺激にナナは腰をヘコヘコと動かしながら、困惑した表情でドモンを見つめたが、ドモンはヤレヤレのポーズをするしかない。
「デ、デレデレとしていたわけでは・・えぇ。違うぞ白雪。オホン!それよりもこれからどうなさいますか?」
「あなた」
ナナの胸から目を逸らした閻魔大王だったが、今度は胸を押し込んだことでずり上がっていくガウンについ下半身の方を見てしまい、白雪の方を見ながらドモンと話をすることになった。
「俺は戦うつもりもないし、魔物達に戦わせる気持ちもないよ。だからほとぼりがさめるまで、何処かに雲隠れでもしようかなって思ってる」
「ならばすぐにご出立なされなければなりません。ここから地上へ、我々ならば数時間で上ることも可能ですが、こちらへ来る時と同じようなトロールの籠で移動ですと時間もかかり、敵軍勢と鉢合わせてしまう可能性もありますから」とドモンに答えた閻魔大王。
「え?今すぐ??」ナナは驚いた。さっきまで気持ちよく寝てたというのに。
確かにここまで降りてくるのに、ゆっくりとは言え数日かかったのだから、上りも同じだけ時間がかかっても不思議ではない。
トロール達の体力であれば、休みもなく外まで行くことも可能だが、同じ姿勢で揺らされ続けるドモン達の体の方がもたない。
ドモン達がその後に逃走する体力を残すことを考えれば、やはり休み休みで数日かけて戻るしかない。
だとすれば、あと数日で敵軍勢が到着しそうなのだから、今すぐ出発してギリギリだ。
倒木などで足止めをして、到着を一日遅らせられるかどうか?
その話を聞いて、ドモンも自分がどれだけ切羽詰まった状況なのかを本当に理解した。
頭ではわかっていたつもりだったが、心配はしていてもどこか現実味がないというか、楽観的に考えてる部分があったのだろう。
避難訓練はするけれど、頭の何処かで『津波なんて滅多にこない』『火事なんてきっと起こらない』と気を緩めていて、いざという時に真剣になれないようなもの。人の甘さ。
現実を突きつけられ、今自分が死刑台の上に立たされていることを知る。
「今から逃げるとして、ど、どこに逃げれば良いんだろ・・・」新魔王となったが、ドモンの中身はただのおじさんだ。
「まだ行ったことがない国はどうかしら?ドモンさんに関わった人達が敵対してるなら、反対にあまり関わっていない人達は大丈夫なはずでしょう?」と白雪。
「ではドワーフ王国などはいかがでしょうか?あそこは元々中立国ですし、先日多少関わったとは言え、ドモン様が恨まれるようなことはないでしょう。かといってまるで知らぬ顔ではないですし、それに・・・」考える人のようなポーズをとる閻魔大王。
「ケーコもいる!なるほどそれだ!」
閻魔大王の言葉を遮るようにドモンが叫んだ。
ケーコと同じように、ドモンもまたケーコに会えばなんとかなるのではないかと思えたのだ。
ケーコが無駄に買い物を繰り返してさえなければ、この世界からも逃げられる可能性がある。
「急がないと。あいつのことだから、タバコ切れたとか言って、何度も行ったり来たりしちゃうかもしれない。みんな!今すぐ出発するぞ!着替えなんて後だ!俺も最後にひとつ試したいことをやってからすぐに準備に取り掛かる」
「わ、わかった!」「はい!」「ワタクシは先に籠に乗っていますわ」
白いガウンのまま、三方向にワッと走り出しすナナ達。
ドモンは大きく深呼吸をし、タバコに火をつけてから右手を空中に掲げた。
「俺も魔王になったんだ。もしかしたら・・・もしかしたらもう本当に使えるかもしれない。この異世界でついに俺の能力が・・・」
「???」「???」不思議そうな顔で見つめる閻魔大王と白雪姫。
「無理だと思う」ナナが自分の着替えを持って走って戻ってきた。
「ステータスオープン!」
あけましておめでとうございます。
結構前に戻ってたけど、流石に正月に小説の続き書く気にはならなくて。
アホみたいに酒飲んだ。いや飲んでる。




