第707話
「全く呆れた。あんな事をサンにしてたなんて」とナナ。
「だから誤解なんだってば。なんでそんな話に・・・全部が全部本当じゃないよ。それに幼女趣味でもなくて、サンみたいな体型も好きだったってだけの話だよ。ケーコもそうだっただろ?」
確かにケーコはスレンダー。
胸よりも背中の肩甲骨の方が出っ張っているほどに。
「でも御主人様は酔ってサンに」ベッドに潜り込んで、ドモンの横で頬を膨らましたサン。
「そんな漫画が・・・本が向こうの世界にあったって言っただけだと思うぞ?まあサン相手に酔ってる時に冗談でちょっと試したのかもしれないけど、本気じゃないからな?サンが俺の話を自分がされたように思い込んじゃっただけじゃないか?」
・・・とドモンは言い訳したが、サンは納得のいかない様子。
何をされてもいいけれど、せめて覚えていて欲しい。
「サン相手に試したことには間違いないのですのね?酷いですわ!サンがどれだけ恥ずかしい思いをしたか、ワタクシも感じなくてはなりません」神妙な顔つきでベッドに潜り込んだシンシアが、サンを押しのけドモンの隣へ。
「そ、それなら私にもしてみなさいよ。さあ、どんなものか確かめないと」ナナもドモンに迫る。
「シンシア様奥様いけません!人としての尊厳をすべて失い、もう戻れなくなってしまいます!犠牲はサンだけに!さあ御主人様、あの時のようにサンを壊して!」裸になって、絶対に説明をしてはいけないポーズを取ったサン。
「やめろやめろ馬鹿野郎!それどころじゃねぇだろ今は!それにドアの向こうで見張りしてくれてる奴らもいるってのに」
ドモンが魔王となった夜。
こんなベッドは見たことがないというくらいの大きなベッドに気分が上がったナナ達が、ドモンとベッドを共にしていた。
横に7~8人が並んで寝てもまだ余るほどのベッドで、普通ならばそれだけで部屋がパンパンになりそうなものだが、そんなベッドを置いてもまだなお部屋のスペースにはゆとりがあるほど大きな部屋が、新魔王としてのドモン達に用意されていた部屋である。
初めに通された部屋も十分広かったが、この部屋は桁外れ。
巨大な魔石が使用された暖炉や照明がいくつも置かれた、元の世界の超一流ホテルのスイートルームもびっくりの部屋であった。
ドアの向こうには4名の近衛兵と4人の侍女が待機。
一声かければ全てが望みのまま・・・というより過剰すぎるほどのサービスで、トイレにも侍女が付いてきて全ての後始末をする。
ドモンは何度も断ったが、自身で後始末をするなんて以ての外だと諌められた。
すぐにそれを受け入れられたのは、普段から経験のあるシンシアのみ。
「ドレスの時は致し方ありませんわ」と平然とした態度。
ナナとサンは悶絶しながらも何度目かでようやく慣れたが、ドモンは毎回ナニかが元気に。軽く振るだけでいいというのに、毎度高級石鹸で丁寧に洗われてはたまったもんじゃない。
だがそんな状況だったが、ナナ達相手にスケベをする余裕も気持ちも、今のドモンにはなかった。
その理由のひとつが、いくつかのドモン討伐隊がすでに出発したという情報が入ってきたこと。
その為普段ふたりの見張り役の近衛兵が、今は四人になっている。
閻魔大王や白雪、そしてナナ達や勇者達までも、「流石にここまではそう簡単には来られないので」とドモンを落ち着かせていたが、命を狙われている本人としては、やはり気分が良いものではない。
そして理由のもう一つは今回のサンのこと。
サンは気持ちの整理をつけたようだけれども、やはりドモンの心中は穏やかではない。
また誰かを悲しませるかもしれないと頭に浮かぶ度、元気になったナニかもすぐに元気を失ってしまう。
そんなドモンを心配して、ナナ達はベッドでドモンに寄り添っていたのだ。誘っていたとも言えるけれども。
色んな意味でドモンを元気づけるため、自分でも恥ずかしくなるような卑猥な言葉と態度でドモンを挑発した結果、ドアの向こうで待機していた近衛兵と侍女4組のカップルが成立してしまった。
普通の恋愛と夫婦生活しか知らない純情な魔物達を発情させるには、過剰なほどの破壊力である。
しかし、そんな時間も長くは続かない。
ドモン擁護派に邪魔される前に、ドモンを排除しようと各国から出発した討伐隊や勇者パーティーは、皮肉にもドモンが生み出した新型馬車にて猛スピードで迫ってきていた。
ドモンを出迎えるために整備した道も、今では完全に裏目に。
「このままですと、あと数日で洞窟の入口へと到着するでしょう。なんとか邪魔をして到着を遅らせようとしたのですが、どうにも多勢に無勢の様子でして・・・」翌朝早くに部屋まで来た閻魔大王。
「多勢ってどれくらい?まさか俺を殺すためにジジイみたいにまた何百人も連れてきたとか・・・トロールやオーガで足止めするとかは?」
フカフカの白のガウンを着たドモンがドア越しに話を聞く。
ナナ達がまだあられもない格好で寝ているため、ドアは開けられない。
「それが・・・恐らく二万人から三万人ほどの騎士や勇者パーティーが向かっているようでして・・・加減をしなければ抵抗は出来ますが、相当数の犠牲者が出るかと思われます。その中にはドモン様のお知り合いも多数居るかと思われまして、手が出せぬ状況となっております」
「私の国の知り合いや家族、それにシンシアさんのお兄様やナナさんの街の冒険者なんかもいるそうよ。私は正直未練はないと言いたいところだけれど、出来れば・・・」閻魔大王の隣に白雪もいた。
「・・・・」
ドモンがGOサインを出せば、魔物達に討伐隊は皆殺しになるのだろうということは、白雪の言葉からすぐに想像はついた。
そしてそれをなんとか避けたいという思いも。
そうすればドモンの命は助かるかもしれないが、その時はこの世界の敵である本物の魔王として生きていくしかない。
神妙な顔つきでドモンはそっとドアを開けると、同じく神妙な顔つきでドアの前に立つ閻魔大王と白雪がいて、部屋の様子を見るなり白雪がすごい勢いでドアを締めた。
買い出しだの大掃除だのしつつ書いたけど、そろそろ帰省。
良いお年をってことで。




