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第705話

「ナナを奪われたんじゃないのかい?」「いいのかよ、ヨハン」

「ワッハッハ!それならそれでいいじゃねぇか」

「何を笑ってるんだよ!」「そうよ」

「やだぁ~ドモンさんに騙されちゃったのねぇ~ウフフ」


ヨハンお店は大混雑。

その大半がドモンについての話。


だがヨハンもエリーも、ドモンへの信頼は揺るがない。

騙されようがなんだろうが、ドモンは自慢の息子であり、娘のナナが信じてついて行った男。

そんなナナを裏切るような真似は絶対にしない。そう決めていた。


「だって詐欺師みたいな悪魔に大事な娘をよぅ・・・」

「お前が今食ってる鶏の唐揚げ、美味いだろ?」

「え?そりゃここの鶏料理は世界一だけどよ」

「その『詐欺師みたいな悪魔』が教えてくれたんだ。作り方をよ。ほらおかわりだ。熱いうちに食え」

「・・・・」


ヨハンは目に涙を溜めながら、ドモンから教わった料理を次々と出していった。

店を手伝っている『ドモンに犯された』侍女三人も、胸を張ってそれを客に出している。

当然心中穏やかではなかったが、『この世界で一番の有名人とやってやった』と開き直ることに決めた。

もう家族とも呼べる関係のヨハンやエリーのためにも。



「悪魔を師事するような奴らの歌で感動なんてしてたまるか」「汚らわしいわ」

「お前らの師匠の悪魔が新たな魔王になって、人間を皆殺しにするって聞いたぞ!」

「よくも今まで騙してくれたわね。お金返しなさいよ」

「そうだそうだ!本当は目だって見えてるんじゃないのか?悪魔の手下どもがよ」


ドモンの噂は遠く離れたギルとミユのところにまで届いており、舞台に上がったふたりは、酷い誹謗中傷を受けていた。

飛んでくる石や酒の空き瓶をギルがミユに当たらぬよう必死に払い除けていたが、それだけではもう間に合わず、最後はミユを真正面から抱きしめる形で、背中で全てを受け止めることにした。


それでもミユは微動だにせず。ただ真っ直ぐ前を向く。何も見えない目に映るのは、眩いばかりの一点の光。


「私が間違っていたのか・・・あの人に関わったためにミユをこんな目に・・・ぐっ!」背中にまた空き瓶が当たったギル。

「いいえ、間違ってなんかいないわ。ギル、あたしはいいから離れてちょうだい」

「そんな事出来るもんか」

「じゃああと少しだけ抱きしめていてくれる?あたし今とても眩しくて眩しくて。あと少しできっと歌えるから」


ふたりの会話が拡声器に拾われ、会場内の一部の客の耳へと届いた。

野次を飛ばしていたはずの女性達がクッと唇を噛み締め、涙を浮かべながら物を投げる男達を必死に止めた。

その愛の深さを見て、それを壊そうとしている自分がとても恥ずかしく思えたのだ。


ようやく静かになった舞台上で、ミユはゆっくりと話を始めた。


「あたしね、迷子だったの。どこを見ても真っ暗闇で・・・まあ元から何も見えないんだけどねウフフ」

「・・・」「・・・」「・・・」「・・・」

「不安で、心細くて、家族にも見捨てられて悲しくて。涙ももう出なくなるくらい泣いて泣いて。どうやったら楽に死ねるんだろうっていつも考えてた。苦しい時、同じようなこと考えた人いるでしょ?そうして死ねたら、誰か悲しんくれるかなって。誰か見てくれるかなって。もう楽になりたいって」

「・・・」「・・・」「・・・そうね」「・・・うんまあ」


誰でも何かしら問題はある。思い通りに行かなくて、死にたくなる時だってある。

ミユの赤裸々な告白に、少しずつ同意する態度を取り始めた客達。


「でもね、あたし、死んで自分が正しいと思われたいだけだった」

「・・・」「・・・」「・・・」「・・・」

「良い人だと思われたくて、それだけが自分にとっての救いになると思ってた。みんなに褒められたいって。死ねば良い人だったって言われるじゃない?」

「まぁな」「少しだけ分かるわ」「確かに」「死人は無敵だからな」

「・・・そんなの自分も含めて誰も救われないのに。誰も救えない人間が、良い人なんてあるわけ無いのにね」


観客達は、いつしかミユの話に真剣に耳を傾け始めた。


「そんな風に思っていた時、あたしはあの人に救われた。あの人が善か悪かはわからないけど、でもそんなことはどうでもいいの。救えない善人かぶれのあたしなんかよりずっとずっとマシだわ」

「ミユ・・・涙を・・・」ポケットのハンカチを手渡すギル。


「あたしはそんな人になりたい。それで誰かが救われるなら、それで誰かが笑顔になれるなら、あたしは悪になったっていい。あたしに光を与え、道を示してくれたのはそんな人だったから」

「・・・」「・・・」「・・・」「・・・」


結局受け取ったハンカチを使うこと無く、ミユは涙のまま歌い始めた。

慌てて楽器を手に取るギルと演奏家達。


「♪君が涙の時には~」


ドモンに恩返しをするべく、全身全霊をかけミユは歌う。

この時のミユの歌の影響力は凄まじく、この場にいた観客全て、そしてこの国の民衆全てがドモンの味方となるほどだった。




またアップ前に寝てしまった。酒を飲む機会が多いので・・・

もう少し更新はできるとは思うけど、年末年始は休みます多分。

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