第703話
片膝をついたナナ達が立ち上がった代わりに、今度はその大きな魔物と白雪が玉座に座ったドモンに向かって片膝をつく。
そして他の魔物らも次々とその後ろに片膝をついて並んでいき、胸に右手を当てるようなポーズで頭を下げていった。
後から入ってきたと思われる何らかの部隊と部隊長、各魔物の長老やそれに次ぐ者達、あのトロールの家族達も真剣な顔で片膝をついた。
壇上に上がってドモンの横に立ったナナも思わず口あんぐり。
「この度謁見の場を設けていただき、なんと感謝を申し上げればよいのやら・・・」と先頭の大きな魔物。
「待て待て待って。謁見のお願いって、俺がする方じゃなくされる方だっていうの?イヤイヤイヤ・・・」ドモン大困惑。
「はい。これまでドモン様の代理として魔王を名乗らせていただいていた閻魔と申します。こちらはもうご存知かと思いますが、妻の白雪で」
「うんうん、状況からしてそうだよね?閻魔大王だよね?ネットで見たことあるような風貌してるし。分かるよそれは、うん。え?俺の代理??」
「はい。お恥ずかしながら」
玉座に座りながら、これは一旦置いといて・・・のポーズを何度もしつつ、頭の中を整理したドモンだったが、どうにも理解するスピードが追いつかない。
「俺の代理ってことは俺が本物の王様?魔物の?ってことは俺が魔王ってことになるんじゃ」
「はい」
「はいって簡単に言ってくれるなよ。そんなもん納得出来るはずねぇだろう!」
「大変申し訳ございません。どうかお怒りをお鎮めください」
身を竦めながら謝罪する『元』魔王の姿に思わず魔物達からどよめきが上がり、ドモンはますます気まずい気持ち。
閻魔大王がしょんぼりしてる姿など見たくはない。
「わかったわかった!いいから頭上げてくれ。で?どうして俺がこうなるのかとか知ってんだろ?なんとなく想像はつくけど、それをまず教えてくれよ」
「はい。ドモン様のお父様である、偉大なるグレーターデーモン様がお作りになられたこの世界は、おふたりの理想郷を、いえドモン様の夢を叶えるべく作られた世界であり・・・」
「ちょちょちょ!ちょいちょいちょい!つ、つまり、ど、どういう事?」
「簡単に言うなれば、元々あるお父様の棲家を、ドモン様の理想通りに育て上げた世界でございます。とは申しても、魂だけは生み出すことは出来ませんし、文化の発展もそこで生まれた生き物任せ。なのでドモン様の世界から奪い取った魂に肉体と思考を分け与え、この世界に放ちながら発展を見守っておられました。ドモン様はこの世界の管理者となるべく・・・」
「あー待った待った!待ってくれ!」
閻魔大王の言葉に、今まであった数々のことや出会いにある程度合点がいったドモンだったが、慌てて閻魔大王の言葉を止めた。
だとするならば、ドモンが出会ってきた人々の中の『会いたかった人』は全て作られたものであるということ。
その中にはナナ達も含まれる可能性もあるからだ。
自身が悪魔によって作り生み出された存在であると知れば、パニックを起こしてもおかしくはない。
ナナ自身はまだピンときていなくて、シンシアはまだ半信半疑。サンは何かを察したのか青い顔。
「話を変えよう。この世界がオヤジの棲家だってことはわかったよ。納得はいかないけど。そこにどうして人や魔物が住んでるんだ?自分の家に他人が住むようなもんだろ?」
「それはその・・・増えた魂を間引きして、お父様とドモン様の食事とす・・・」
「待ったぁ!!え?俺も?」
「・・・はい」
話を変えた結果、最も恐ろしい、最も聞きたくない話が出てきてしまった。
まさかの食用、まさかの魂の養殖。まさに悪魔の所業。
ここは夢を叶える楽しい異世界などではない。
流石のドモンを吐き気を催した。
「でも俺は多分、どっちかと言うと喰う方じゃなく喰われていた方だった気がするんだけど・・・」無くしていた夢での父親とのやり取りが、会話によって少しだけ思い出せた。
「え、えぇそれはあの・・・ドモン様のお父様がその・・・我が息子からの魂が一番の栄養だと、ドモン様に死者の魂を蓄えさせ、ドモン様に命の危険があるごとに、延命と引き換えにそれを引き出していたようでございます」
「・・・・」
ドモンが誰かに忌み嫌われる理由は、悪魔としての存在から。
ドモンが誰かに好意を持たれるのは、サキュバスとしての血から。
ナナやケーコが弱ったドモンをたまに痛めつけてしまうのは、人として悪魔に抵抗し得る絶好の機会だったためだ。
そうして命を削られたドモンを救い、代償として蓄えた魂と寿命を奪っていく。それがドモンの父親のやり口だった。
「俺にはよくわかんないよ・・・魂なんて集めてる自覚なんてないし、人だって殺しちゃいないし」殺させたことはあるが。
「わかっております。ドモン様がそのような方ではないことは。ドモン様は新しく宿した命から、受胎した本人に気づかれる前に奪い取るようにお父様が仕向けているそうです。なので・・・」
「う、嘘だろ・・・サ、サン!!」
「だだだ大丈夫です御主人様!サンは覚悟しておりますキャッ!」
話を聞いて慌ててサンの方を振り向いたドモンだったが、その瞬間、サンを押しのけるようにしてアーサーの腰から奪った剣を持ったシンシアが、ドモンを斬りつけようとした。




