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第69話

「ど、どうすんの?ドモン」とナナが顔を引き攣らせている。エリーは絶句したまま。


「どうするって言われたって・・・・どうしよ?」


日本で言うならば、一庶民が財閥のような人達の屋敷の庭で結婚式をすることになり、そこに皇族の方がお祝いにやってくるようなものだ。しかもその人達に自分が料理を振る舞うというおまけ付き。



一庶民どころか、ただの遊び人のおじさんが、だ。



「あなた・・・流石に失礼なこと出来ないわよ?」と女の子がプレッシャーをかける。

「なんか僕達まで巻き込まれるんじゃ・・・」と不安そうな男の子。

何かあってお家取り潰し、領地没収なんて洒落にもならない。


どうしてこうなった・・・と、頭を抱える貴族達。

特にカールは痛恨の極みであった。

それを見たドモンがタバコを消しながら言い放つ。



「ま、いいか。なんとかするよ」



それを聞き、ハハハ・・・という乾いた笑いが一同から起きた。

ドモンが「なんとかする」と言うのなら、きっとなんとかするのだろう。そう信じて。

しかし・・・


「なんとかならなかったら、俺は向こうの世界へと逃げるだけだ」

「ドモン貴様・・・」

「だって悪いのは屋敷で結婚式やるといったカールだもん。俺は知らん!ワハハハ!イーッヒッヒッヒ!」

「この悪魔が!」


カールを指さし高笑いするドモン。困っているカールを見て、つい楽しくなってしまったのだ。

冷たい視線がドモンに集まった。


「ま、まあ自分達に今出来る最善のことをやるしかないよ。それで駄目なら俺の首でもハネりゃいいさ」


真面目な顔をしてドモンがそう言うと、ナナがピクッと反応した。

ただ今回ばかりは本当にそうなるかもしれないと覚悟したのだ。それは貴族達も同じだった。


そして万が一本当にそうなるくらいならば、異世界へとドモンを逃がそうと誰もが考えていた。



「さあそんな事はまずは置いといて、そろそろ出発するぞお前ら」と子供達へと話しかけるドモン。

「う、うん!」

「さっさと準備してこい。貰ったお小遣いも忘れるなよ?」

「わかってるわ!」


そう言うと慌てて子供らが屋敷へと駆けていく。

その間にドモンは、余ったスペアリブを30個ほど鍋の中へと詰め込んでいた。


「ちょっとドモン?飲み代稼ぎじゃないでしょうね?」

「ち、違うよ・・・」

「本当ね?」

「本当だよ信用ないな」

「あるわけ無いでしょ!!」


もうすぐ結婚式をする者達の会話とはとても思えないような会話をするふたり。

完全にドモンが悪いため、ドモンは反論が出来ない。


「もうナナもそろそろ許してあげなさいよぉ」とエリー。

「そうだよ。それにあのいかがわしい店に行きたいって言ってたのはヨハンなんだ」

「な、なんですって?!」


ドモンの言葉にエリーの目が吊り上がる。


「あとカールも」

「はぁ?!何を言ってる貴様・・・」

「あぁ悪い悪い、これは秘密だったな」


冷たい視線がカールへと突き刺さった。

だがもちろん、皆ドモンの冗談だということはわかっている。

ドモンがこの場の空気を和ませようとしたことも。


「ハァ・・・全く仕方ない人ね。いい?もしどうしても遊びに行く時は、きちんと私に言ってから遊びに行くこと。それともうひとつ、これだけは約束してください」ナナがいつになく真剣な目をした。

「うん?」


「必ず私の元へと帰ってきてください。怪我をせず無事に」

「怪我をしたくてしてるわけじゃないからそっちの約束はできないな」

「むぅ!」

「でも・・・必ずナナのところへ帰るよ。約束する」


ドモンがナナにそう誓うと、ナナの目から涙がこぼれた。


「もうこれが結婚の誓いの言葉でもよかろう。届けだけでも出していかぬか?」とカール。結婚などの届け出は貴族達が管理している。

「それは流石にヨハンも可哀想だろ。娘が出かけて帰ってきたら結婚してたなんて」とドモンが苦笑する。

それもそうかとカールが笑い、他の皆も笑顔になった。


「十日、いえ!一週間だけお時間をください!仮縫いの部分も残るかもしれませんが、必ずドレスを仕上げてまいります!お前達できるな?!」と仕立て屋の老紳士。

「出来ます!やります!」

「必ず!」

「親方様、早速ドレスのデザインと装飾に関しての相談があるのですが」

「うむ」


やる気満々な仕立て屋達。


「デザインなんて適当でいいよ適当で。ネグリジェ一枚で下着も付けずに街を出歩く女だぞ」

「だからあれはドモンのせいじゃない!大体あんただって、みんなの前でポロッと出したんでしょ?大丈夫?その時元気になってなかった?プクク」

「な、なってねぇよ!」

「だってこの前ギルドで見た時元気だったじゃない」

「うわぁやめろバカ!!」


子供らがこの場にいないことを神に感謝する一同。

しかし夫人達も言ってたように、本当にお似合いなふたりだと思った。色々な意味で。



「ま、まあほら、早めにドレスが出来たらさっさと結婚式やっちゃってさ。そしたら例のお父様も間に合わないなんてこともあるかもしれないしな」

「そ、そうであるならば助かるが・・・恐らくもう一度やれと言われるだけであろう」

「なるほどな・・・」


冗談を言ったドモンであったが、カールの返答で『冗談が通じぬ相手』だと逆に知らしめられた。

そんな話をしつつ、ドモンとナナの結婚式はドレスが出来次第すぐに行うこととなった。



そこへ子供達が屋敷から出てくる。

子供達は少しだけ庶民っぽい格好に着替えてやってきた。カールの指示で用意させたものだ。


「おーいドモーン!」

「準備できたわ」

「早く行きましょう?」

「あ~楽しみだなぁ」


お揃いの小さな肩掛けカバンの中に、貰った銀貨三枚と小銭の銅貨を少しだけ入れ、みんな笑顔でドモンの前へと並ぶ。

まるで修学旅行さながらの様子であった。

馬車に向かって歩き出そうとしていたその時、「あ、そうそう」と女の子がカールの元へと走っていく。



「ねえカルロス、ドモンに良いタバコとお酒をあげてほしいの」



そう言ってドモンの方を向き、フフンと鼻で笑う女の子。

深くため息をついたカールが「ならば仕方あるまい。今すぐに持たせよう」と侍女に指示を出すと、ドモンは「毎度あり~」と笑いながら右手を上げて、馬車の方へと去っていった。




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