第693話
「このキッチンにある小物を入れてるような木箱ってまだあるかな?」
「下の倉庫に行けばまだあるだよ」「持ってくるだか?」「いくつくらいいるんだべか?」
「人数分あればいいよ。出来た料理を入れるつもりだから、きれいに洗っておいてくれ」
「木箱を器代わりにするのが?」「いーからおめ、黙ってドモン様に従うべな」
トマトを煮込んでケチャップを作りながら、トロール達に指示を与えたドモン。
数人のトロールがゾロゾロと下の倉庫とやらに向かったが、実は倉庫はここより300メートルも地下深く。ビルにして百階相当である。
サンとシンシアは細かい作業。
海苔があれば一番だが、残念ながらここにはないので、適当な香草で代用。
ドモンが描いた絵と同じように、ハサミでチョキチョキと香草を切ってゆく。
ナナは当然応援係・・・かと思いきや、米炊き係に任命された。
ここの者達は米は普段食べないらしく、ドモン達が来るからと、どこからか特別に用意させたものだった。
ただそれが白米だなんてことはなく、玄米どころか脱穀すらしていない状態。
ドモンがかなり原始的な脱穀方法と精米方法をナナに説明すると、ナナが居残ったトロール達にそれを指示。
それはそれは大変な作業であったが、ナナに「力入れすぎよ!砕けてるじゃない!」だの「そんな感じそんな感じ!上手じゃない!」などと言われているトロール達は、皆揃って嬉しそうな顔。
自分達を怖れない。叱ってくれる。褒めてくれる。ただそれだけで涙が溢れそうになる。
「さぁて、ここからが大変だ。ハムでもあれば楽なんだけどないからな。チーズを薄く切って代用するかぁ。スライスチーズが恋しいぜ。それに付け合わせをこの材料でどうするか・・・」
ナナが大量の米を大鍋で炊いている間、ドモンとサンとシンシアは大忙し。
特にシンシアは普段料理をしないため、慣れない手つきで四苦八苦。だが少しでもサンの負担を減らしたい。
シンシアが卵を割ってかき混ぜて、サンが何度も薄く焼く。ドモンはフワフワの卵焼き作り。
それが済んだらニンジンとジャガイモを花の形に切って茹でたり、鶏の唐揚げやハンバーグ、肉団子などを作っていった。
様子を見に来たナナも、思わず気の毒な顔をしてしまったほど手間がかかる作業。なのでつまみ食いも珍しく我慢。
「器も揃ったし、米も炊けたみたいだな。じゃあ最後の仕上げと行くか」
「お米をトマトのソースで炒めるのですか?御主人様」サンは興味津々。ナナとシンシアは疲れてうたた寝中。
塩と胡椒で味を整えながら、ケチャップライスを作っていく。
コンソメスープは、ニンジンとジャガイモの茹で汁を使用した。
「よし出来た。じゃあ盛り付け方を教えるから覚えておいてくれ。まず器の中にレタスっぽいこの大きな葉っぱを敷いて・・・」
「はい!」
「小さなお椀に入れたケチャップライスをこの辺に・・・今度は三角おにぎりみたいな形に握ってここへ・・・で、ここにも・・・」
「は、はい!・・・でも御主人様、これは一体何なのでしょう??」
「それは出来てのお楽しみ」
木箱の器の中に前方後円墳のような、妙な形で盛り付けられていくケチャップライス。サンは不思議そうな顔。
更に上に二個、下にも二個、小さく丸めたケチャップライスをくっつけて、四角に切った薄焼き卵を乗せて、その後に更にケチャップライスを左右にふたつ。
「これは一体・・・?」
「最後にサンとシンシアに切ってもらった葉っぱをこうやってくっつけて・・・」
「あ?!これはくまのお人形さんです!!くまさんがお布団で寝てますよ!か、可愛い~」
「あとは隙間におかずを詰めて、茹でた野菜の花を添えてと」
ワーワーキャーキャーと騒ぐサンの様子に、目覚めたナナとシンシアもやってきた。
そしてやってくるなりふたりも一緒に大騒ぎ。
「こ、これは食べられるものなのですの?!いえ食べられませんわ!こんなにも可愛いんですもの。あぁ食べちゃいたいくらい可愛い。ん?」自分でも何を言っているのかわからないくらい混乱するシンシア。
「これがドモンの言っていた『キャラ弁』ってやつなのね・・・ごめんドモン、簡単に作ってなんて言って。こんなに凄いなんて思ってなかったから・・・やだもう泣けてきちゃった。ありがとねエヘヘ」手で涙を拭うナナ。
お弁当自体が珍しいこの世界で、生まれて初めて見た可愛いキャラ弁当。まるで夢を詰め込んだ魔法のよう。
誕生日に貰った大切なぬいぐるみのように抱きしめて眠りたいが、それが出来ないのがもどかしい。
勇者達やトロール達にはまだ見ないようにしてもらい、今度は四人で弁当作り。
蓋を開けた瞬間の皆の顔を想像し、女性陣は優しい母親のようにニコニコと笑顔で作業していた。
更新また遅れたけど、普通にガッツリ風邪ひいた・・・




