【幕間】確率の波・コインの表と裏の話
今回は昔書いた文章をストーリーに乗せて改変したもの。
今までの文章の誤字や文脈の修正をある程度しないとならないのと、その上でドモンさんが酒飲みで今日の本編、そして明日の更新はお休み。申し訳ない。
とりあえずストーリーにはさほど関係がないので、読み飛ばしても問題なし。
「ハハハ!そろそろ流れが変わると思ってたぜ!!」
店の奥の方でコインを投げ、賭けをしている客の一人が叫ぶ。
それをカウンターで振り向きながらドモンとカールが見ていた。
夕日も完全に落ちた頃。
ドモンのところへとやってきたカールが無理やりドモンにエールを奢らされ、3杯目の酒を飲み干したところだった。
何も注文していないのにエリーが4杯目のエールを持ってきて、ドモンは喜び、カールはうんざりした顔をしている。
「なあカール、この街では賭博は許可されているのか?」
「一応禁止されてはおるが、個人で少し楽しむくらいなら目をつぶっている状況だ」
「どこも似たようなものなんだな」
そう言ってまだコインを投げている若者達を見つめていたふたり。
「しかしドモンよ、賭け事において『流れ』などというものが本当に存在するのか?」
「おお、確かにそれはよく聞くよなぁ。何も根拠はなさそうなんだけどな。どうなんだドモン」
カールの疑問にヨハンも同意した。
「そうだなぁ」と答えを考えながらドモンが一度厨房に入り、つまみを持って戻ってきた。
スポーツなら説明というか、納得できる部分はある。
相手があってのものだから、お互いの感情の変化で有利不利が入れ替わる可能性があるからだ。
例えば野球だと「ピンチのあとにチャンスあり」なんて事をよく言われるけれども、きちんとした根拠がある・・・かどうかはわからないが、こういうことなんじゃないか?という推測くらいなら出来る。
例えば味方がノーアウト満塁のチャンスで0点に終わったとする。
当然味方のピッチャーは落胆し、自分も0点に抑えなければならないという感情が生まれる。
そうなると力んでコントロールを乱すことに繋がり、四球を出してしまったり、逆に四球を出さないように意識しすぎて、ど真ん中に失投してしまったりする可能性が高まる事が考えられる。
結果「チャンスのあとにピンチあり」相手にとっては「ピンチのあとにチャンスあり」ということになってしまう。
ただそんな事をこちらの世界で説明してもわからない。野球がないからだ。
ドモンはウーンとうなる。
ギャンブルで言うところの「波が来た」「いい流れになった」
この説明は可能なのか?
実際にギャンブルをやっている人は「それ」があるのは確実に肌で感じているはずだが、それを説明しろと言われるとよくわからないのが現状だ。
ドモンはそれを考えながら、その説明や仕組みを話し始める。
いつの間にか、賭け事をやっていた若者達もドモンのそばへとやって話を聞いていた。
コインの表と裏の話で説明をはじめたドモン。
「コインを投げた時、第一投目の表と裏の出る確率は2分の1だ。それはわかるな?」
皆頷く。確かにこれは間違いない。
「そこで表が出たとする。じゃあ第二投目の表裏の確率はどうなる?」
「当然そこでも2分の1になるはずだ」とカール。
裏と表が出る確率は2分の1で確定しているのだから、どこまで行っても2分の1は変わらない。
・・・はずなのである。
だが実際は違う。
なんと神はそれを許さないのだ。
極端な例を出すと、コインを1万回投げた時、限りなく結果は5000:5000に近くなるということはわかると思う。
じゃあその1万回のうち最初の5000回が偶然にも表だけ出たとする。
すると神はなんとか5000:5000に戻そうと確率のより戻しを始めるのである。
当然今度は裏が5000回続く・・なんて都合のいいことは起こらない。
それでもなんとか近づけるよう裏の出る確率を上げ始める。
最終的に2分の1であろうとして確率が偏りだす。
実はこの現象は『第二投目』から起きている。
一投目が表なら二投目は裏になる確率が僅かに上がる。
三度表が続けば更に裏になる確率は上がる。
そしてどこかで裏が出る。すると2分の1に近付こうと表が出た分だけ裏が出始める。
これがギャンブルで言う「流れ」の正体。
不確かなのに確かにそこに「流れ」はあるという事実。
ドモンがその説明をし終えると「神の仕業かよ」と、ヨハンが禿頭をペチンと叩いた。
「まさかそんな・・・だがそうではないと確かに辻褄が合わんな」とカール、そして若者達も唸る。
そこでドモンが不意に銅貨を出し、賭けが始まった。
「裏!」「表だ!」「裏」
領主がいる手前本当に賭けはしなかったが、各々が楽しげにドモンに勝負を挑む。
結果は、表、表、表、表、表と5度『表』が続いた。
「貴様、またイカサマをしているのではあるまいな?」とカールが眉をひそめ、ドモンが首筋をポリポリと掻く。
「じゃあほら見てみろよ」と銅貨をカールに渡し、それを皆が一緒に確認した。
仕掛けは何も見つからなかった。
「そろそろ裏が出るであろう。先程の貴様の理論であるならばな」
「俺も裏だ」
「表が6度連続で出る確率は64分の1だ。ありえねぇ!裏だ!」
皆が裏に賭けるのを聞き「一度くらい本当に賭けるか?」と、ドモンはまた首筋をポリポリと掻いた。
「よかろう!私が負けたならば、ここにいる全員と貴様にエールを奢ってやる!」
「そりゃ悪かないね。じゃあエリー、エールを全員に入れてくれる?」
「まだ勝負はしていないだろうが!!!」
カールが叫んだところでドモンがピンと銅貨を弾き、左手の手の甲で受け止め、ゆっくりと右手をどかすとコインはまた『表』だった。
「くそ!何故だ!どうなっておる!!」
絶叫するカール。そして若者達。
後ろでエリーが「やっぱり」とクスクス笑いながらエールを入れていた。
「いくらそうは言ってもよ、俺の言うことをそのまま鵜呑みにすんなよな」とドモンがゲラゲラと笑う。
「表が5回続いたからそろそろ裏だろうなんて思うな。何度も表が続いたなら、そのコインをまず疑え」
「さっき見た時は何も仕掛けはなかったように見えたけど・・・」と若者。
ドモンはまた首筋をポリポリと掻く・・・・ふりをしながら、襟のところから一枚の銅貨を出す。
「これがさっき見せた仕掛けのない銅貨だ」
「なんだと?!」
「お前らが賭けていた銅貨はこれだ」
そう言って二枚の銅貨の裏と裏をくっつけたイカサマ銅貨をカールの目の前へと差し出した。
ドモンはつまみを作ってくると言って、このイカサマ銅貨を作ってきていたのだ。
「何度もコインを投げて表が出続ける時点でそのコインを疑った方が良い。流れとか確率よりも。カールは流石だな。ただそれで見破れなかった時は次に人を疑え。俺はかなりわかりやすく合図を出していたんだぞ?」
ドモンがタバコを吹かし、エールをゴクゴクと飲みながらそう説明した。
「そもそもな、最初から俺の話を聞いて『へー』と素直に思った奴はギャンブルには向いてないよ。最初から全部デタラメの嘘だからな」
「!!!!!!!!」
全員絶句である。だがドモンが言っている嘘だということも・・・また嘘である。
「人の話をすぐに信じる奴は良い奴だ。善人にギャンブルは向かない」
ドモンはそう言ってエールを飲み干し、一足先に水浴びをしていたサンとナナの元へと階段を上っていった。
そしてそこにいた全員がもう二度と賭け事はしないと誓った。
夏場は更新ペースが遅れる可能性大。
暖かくなると散歩が趣味のドモンさんは、すぐに酒飲みに行っちゃうので・・・
戻ってきた時に高評価やブックマーク数が増えていると、ドモンさんもやる気になるかと思われます。
ちなみにこの『第二投目からの確率の偏り』は、実際に行った実験結果から参考にしたもの。
理系のドモンさん的には未だにまだ納得がいっていないものの、結果そうなってしまうのだから受け入れるしかないと無理やり納得したもの。
まあ与太話として楽しむ程度で。




