第690話
石で出来た籠は重いだけあって、多少揺れはするものの安定性は抜群。見た目に反して乗り心地もいい。
ゆりかごのようにゆらゆらと揺らされ、シンシアはいつしか夢の中。サンの頭のニオイを嗅いでいる安心感も手伝った。
そしてサンはいつものように眠れない。
ポヨンポヨンとシンシアの胸を枕にしながら、必死に変な動きをしないようにしていた。
元々シンシアも大きな胸が疎ましいと近しい人に愚痴をこぼしていたほどの胸だったが、ナナと出会ってからは一切言わなくなった。
あんなのがそばにいたら愚痴も言う気が失せるというもの。シンシアも凄いが、ナナやエリーが規格外すぎるだけ。
サンはそんなシンシアに抱きしめられながら、時折シンシアが寝ぼけて体をまさぐるのを、悶絶しながら耐えている。
一方ドモン達は揺られながら、その距離を徐々に詰めていた。
「どうしてお前は近づいてくるんだよ!なんか蒸し暑くなってきたっていうのに、体を押し付けるな!」
「おふ・・ドモンだって前にせり出してきてるよ!私だけじゃないもん!あふぁ」
壺状になっているため揺れるとどうしても体がずり落ちてしまうので、寝転がらないように両手をついて体を起こしているふたり。
そんな事をやっている内に双方が前に体をせり出してしまい、もうお互いの息がかかるほどの距離。つまりナナの大きく飛び出した一部分はすでに密着状態。
「この先に温泉があるもんだでそら暑いべなぁ。風通しは良くしたんだけんども、どうしてもこの辺は熱がこもってしまうんだでな」
「その温泉のある休憩場所まで行けば涼しい風も吹いてるから、それまでは薄着にでもなって堪えてくんなせ」「えっほ!えっほ!」「見えないように蓋もしとくべ」
竹のすだれのような蓋を乗せてくれたトロール達。
プライバシーを守る意味もあるが、一番は湯気が壺の中に入るのを避けるため。
「・・・裸になれだってドモン。私もう脱ぐわ」トロール達の言葉に上着を脱いだナナ。
「誰も裸になれだなんて言ってないだろ。薄着になれと言ったんだ薄着に。まあ俺も流石に脱ぐか」
「手伝ってあげるわよ。ほらお尻上げて」
「下はいいよ!あっバカ・・・もうどうなっても知らねぇからな!お前も脱がしてやる!」
「ちょっと!脱ぐから引っ張らないでよ」
周りから見えなくなったことを良いことに一気に大胆に。
涼しくなるために脱いだはずが、結局ふたりは汗だくになった。
出発してから三時間ほどで一度目の休憩場所へ。
道の横穴にそれると大きな空間があり、そこに調理器具や冷蔵庫、そしてこの空間のあちらこちらに温泉もいくつか湧いていた。
言うなれば、スーパー銭湯の浴場内といったところか?
先に籠から下りたサンがドモンとナナを出迎えた。シンシアはまだウトウト。
「御主人様、奥様、お疲れ様でした。トロールの皆様を労って差し上げるためにも、何かお料理を振る舞ってはいかがでしょうか?私もお手伝いいたしま・・・キャッ!な、なぜ裸に?!」ガバッと蓋を開けて、そそくさと元に戻したサン。
「おわっ!」「ち、違うのよサン!」
「トロールの皆さんも大変だというのに、ずっとお楽しみだったのですね・・・」
「そんなことないのよ!そ、そう!温泉に着いたからすぐに入ろうと思って、服を脱いでただけだから!ねぇドモン。さ、早速入りましょ!」脱いだ服の一枚で体の前を隠し、籠から飛び出したナナ。
「お、おう・・・って、え?このままで?!ちょっと待てっておい!」
ドモンも脱いだ下着で大事なところを隠し、ナナを追いかけ温泉に飛び込んだ。
飛び込んでからそばにあった大きな木の衝立で、そそくさと温泉自体を隠した。
「まったく・・・皆様驚かれていましたよ?あんな言い訳までして」サンもチャポチャポとお湯の中へ。
「ナナが体を押し付けてくるから」「ドモンが体を押し付けてくるから」ドモンとナナが息ぴったりの言い訳。
「体を押し付け合うと服が全て脱げてしまうと?ドモン様はともかく、女性であるナナがしっかりしなければクドクド・・・しかしドモン様も少しは我慢しないと駄目ですわ。確かにこんなものを押し付けられては、男性として欲情してしまうのも理解できますが、それにしてもクドクドクドクド・・・・」説教しながらシンシアも温泉に入り、片手でナナの右胸をバインバインと下から持ち上げた。
「わ、悪かったよ。それはともかくトロール達の話はみんなも聞いたか?あいつらも大変な思いしてきたみたいだし、何か美味いものくらいは作るつもりだよ」
「・・・・」「・・・・」「・・・・」
ここまでの道中でトロール達の現在の境遇の話を聞いたドモン達。
彼らもこれまで随分と大変だったらしい。
「でもドモンがなんとかするんでしょ?」
「そうだなぁ・・・」
天井の岩から落ちた雫がポチャンと音を立てた。