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第689話

「あれは・・・ト、トロールか?!」「デ、デカい・・・」


オークやオーガをも凌駕する大きさの伝説的な魔物に、勇者やミレイも驚いた。

魔王の城に通ずるこの洞窟に棲むと言われているが、文献でしかその存在は知られておらず、勇者達も出会ったのはこれが初めて。


実際に見たトロールは魔王ほどではないものの、文献に書かれていた大きさよりも遥かに大きく、とても力では敵いそうもない。

長髪で体毛も濃く、全身毛むくじゃら。それ故に毛で表情があまり読み取れないのがなんとも不気味。

見た目はどこかで見たことがあるような森の妖精か何かの着ぐるみのようだが、2メートル以上は優にある背丈と、樹齢数百年の大木のような四肢や胴体で、可愛げはまるでない。

ひとり人間山脈と呼ばれた伝説のプロレスラーの、身長以外の全てを十数倍にすればこうなるとドモンも思った。


額に脂汗を滲ませた大魔法使いとソフィアが、どの魔法を使用すれば有効なのかを考えながら、アーサーとミレイの前に出た。

がその時、ひとりのトロールが洞窟内の天井の岩盤に頭をぶつけ、硬い岩盤がトロールの頭の形に砕けた。

トロールは恥ずかしそうに持っていた松明を素手でゴシゴシと消してから、素手で欠けた岩盤をガリガリと削って整えた。


轟々と燃えた松明を素手で造作もなく消したとこと、岩をまるで真綿か何かのように扱うその姿を見て、大魔法使いとソフィアも怯んだ。

そこらの魔法程度では、まるで勝負にならないと感じたからだ。


そんなのがひとりだけでも脅威だというのに、十数人がゾロゾロとやってきたのだからたまったものではない。

強さがわからないドモン達は大きいとしか感じなかったが、勇者達は完全に絶望。どの順でどうやって撤退するべきかを、目配せだけで相談していた。


その瞬間ナナも予想していた通りに、トロール達はドモンの前に片膝をつき大きな頭を下げた。

それでもまだ顔を見上げなければならないほど大きなトロールもいたが。


「お、おで達は、ま、魔王様お抱えのトロールだべ」

「バカオメェ!しっかり挨拶せねばならねて言われてたべ!」


「ようこそド、ドモン様ナナ様サン様シンシア様、お迎えに上がりますただエヘヘ」「ドモン様ドモン様、おで、ドモン様の作った料理さば食いたくて、それで・・・」「こんつは」「おはよす。あらま、奥様たつぁほんにめんこいでなぁ」

「オメェたつもバガか!そんな腑抜けた挨拶すね!申し訳ねっすドモン様、おら達の仲間さ失礼なことをば・・・ハァ頭も痛くなるもんさの。とにかくおら達は身重のサン様と足さ傷めとるドモン様さを、楽に魔王様のとこさ案内できねべかと籠を作って持ってきただ。急いでも半日、長けりゃ一日。道は長いだでな。だからどんぞこれさ乗っていってけろ」


「プッ!何言ってるかわかんないわよ!」


訛りのあるトロール達の言葉に思わず吹き出してしまったナナ。

失礼だとは思いつつも、どこか愛嬌があって優しさを感じるトロール達の滑稽なやり取りに、ナナは耐えきれなかった。

ちなみにドモン自身はテレビで言葉を覚えたためほぼ標準語だが、知り合い達や親戚は訛りがあったため、会話の内容は理解できる。


「まあとにかく敵じゃないみたいだ。俺とサンを気遣って、魔王のところまで運んでくれるみたいだな。あとナナのことは可愛いって褒めてるぞ」

「え?そうなの?なんだ、やっぱり良い人だったのねエヘヘ」


後ろのトロールがドモン達の前にふたつ籠を置いたが、時代劇で見るような籠屋のそれではなく、大きな岩をくり抜いて作った石臼のようなものだった。それともスーパー銭湯なんかでたまに見かける『壺湯』の壺を、石で作ったとでも言うべきか?

それを丸太のような太さの棒二本に何本ものロープで吊っていた。

総重量はどんな事になっているのか?ともかく並の人間では運べないような籠だった。


「ふたつしかないじゃない。私とシンシアのは?」それを見て急に不機嫌になったナナ。

「急なこって間に合わなんだで、すまんこってす・・・。相乗りでも良ければ、ドモン様とご一緒に乗ってくだせぇ。運ぶのに問題ねぇすから」

「それならワタクシはサンと一緒に乗りますわ!万が一がないようワタクシがサンを抱えていますから。トロールの皆様、丁寧かつ慎重に運ぶのですよ?宜しいですこと?」とシンシア。

「へい!」「お、お任せくだせぇ」「いやぁ光栄だなやぁ」「腹減っただ・・・」


ゴロリと壺、いや籠を斜めにしてもらい、まずはサンとシンシアが乗り込んだ。

シンシアはサンを後ろから優しく抱きかかえ、いつものようにスンスンと、赤ちゃんのようなサンの頭の匂いを嗅いだ。

一緒に寝る時はいつも嗅いでいる落ち着くニオイ。

シンシアにとってサンはもう、ドモンと同じくらい大切な存在。


ドモンとナナは何故か向かい合わせ。

あぐらをかいて乗り込んだドモンの両脚に、ナナが挟み込むように両足を乗せ向かい合った。


「なんでこっち向くんだよ」

「だって着くまで半日か一日かかるって言ってたでしょ?ドモンとおしゃべりするなら顔見えた方がいいもん。それにドモンとお尻くっつけて乗ったら、馬に乗る時みたいにドモンがすぐ・・・元気になっちゃうし」

「こっちの方がよっぽど元気になりそうだけどな。お前今・・・下着丸出しだからな?しかもよりによって、どうしてそんなもん穿いてんだよ」

「た、たまたまよ。なんかケーコさんの話してたらこんなのあったなって思い出して。いいでしょ別に。今まで散々中身見てんだから」

「・・・久々に見たなそのパンツ。ロープかなんかで隠した方がまだマシだぞ。これずっと見ながら移動するのか」

「見ないでよ!まあ別に見たきゃ見ればいいけど・・・」


ドモンとナナが乗る籠を持つトロール達は、少し前かがみになりながら赤い顔で出発。

それを見ながらアーサーは「俺達は・・・まあ徒歩だよねやっぱり」と、ヤレヤレのポーズをしながらサンとシンシアの籠の後ろをついて行った。




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