第688話
ドワーフ達が建てた城は立派だったが、ベッドなどもない上に水回りや内装工事は未完成で、結局ドモン達は車の中で眠りについた。
食事だけはドワーフ達に悪いので城の中で取ったものの、前の日本家屋での快適さと比べるとやはりイマイチ。
翌朝早朝、簡単な食事を取り直ぐに出発。
アーサー達の話では、距離的にはここからそう遠くないものの、馬車などの行方を阻む岩がゴロゴロと転がっており、途中からは徒歩で進まなくてはならないらしい。
その為多くの食料を持ってはいけず、魔王の城へと続くダンジョン攻略の難易度が跳ね上がっているとのこと。
夜になれば徒歩で進むのにも困難で、その為早朝からの出発となったのだ。
「・・・なんかその割には、そこまで道は悪くないような・・・アーサーどうなってるんだ?」今はドモンが運転中。
「いやぁおかしいな?そもそも道なんて物自体存在しなかったんだ」何度も地図を確認するアーサー。
「火山の噴火によって出来た荒れ果てた土地や、背丈ほどある雑草が生い茂る沼地だったりで、下手をすれば進んでいる方向も見失い、戻ることすら出来ない場所だったのよ」とソフィアも同調した。
魔王の棲む洞窟のダンジョンも難攻不落。
そしてそこに行くまでの道中が酷すぎるのが、軍隊などで攻め入れない一番の理由。
なので各国の勇者パーティーが攻略を任されていたのだ。
だがドモンが進んでいる道は、大きな岩は取り除かれ、小さな穴も砂利で埋められている。
沼地の草も刈られているし、ぬかるみには木の板や平らな石が敷かれていた。
「どこらへんなんだ?魔王の居る城だか洞窟だかってのは」
「・・・そこだよ」バツの悪い顔で目の前の小さな山を指差すアーサー。
「え?ちっさ!」「え?!」「えぇ???」「着いてしまいましたね御主人様・・・」
「・・・」「・・・」「・・・」「・・・」
驚くドモン達と言葉もない勇者達。
岩山の麓の洞窟入口には、丁寧にも『魔王城入口』と真新しい看板までかけられていた。
その前に居たお城のこともあって、ドモンにはまるでテーマパークにしか見えない。
「こ、ここからが大変なんだ。地下奥深くまで下っていくんだけど、足場もすごく悪いし、いくつもの分かれ道があって、間違えれば落とし穴などの罠が仕掛けられていたりするんだよ!」アーサーは今まで散々してきた苦労話が嘘だと思われるのが悔しい。
「ありゃ、それは脚の悪い俺には大変だな。それに今のサンには・・・サンは車でお留守番かな?」
「い、いやですぅ!!サンも行きます!気をつけますから!きっと大丈夫ですよっ!」
正直サンもすでにアトラクション気分。
今までの様子で危機感は全く無くなってしまっていたが、実際に洞窟内に突入した際に、その思いはより一層強くなった。
『歓迎・ドモン御一行様』
洞窟に入ってすぐ、大きな木の板に書かれていたのがこれだった。
よく見ると右下にものすごく小さな文字で『と勇者達』とも書かれている。
少し奥まで進むと、岩が飛び出しているところには『頭上注意』の看板。段差には『足元注意』の看板も。
高級ホテルのロビーのように広々とした空間の上には『祝・初謁見』だの『暮田土門・ナナ・サン・シンシアご夫妻様 御来城ありがとうございます』だのといった、ふざけたような垂れ幕も掲げられていた。
「洞窟の中なのに随分明るくて広いのね。進む方向に矢印まで書かれてるし。なんならすごくキレイで、このままここに住めちゃえそう」ナナは『ご夫妻様』と書かれた垂れ幕にすっかり上機嫌。
「そんなはずはないんだ・・・こんな照明なんて無かったし、暗くてジメジメとした・・・それに上階は蒸し暑くて、息も吸えないような感じだったのに」
誰もアーサーの言葉が信じられないくらい現在は快適。そよそよとした風が眠気を誘う。
「油断を誘ってるのかもしれない。今までのも全部。突然何者かが現れて、襲われることも考えておいたほうがいい。油断は禁物だ!」剣を抜いたアーサー。
「現れるってあの人達のこと?なんかいっぱい来たけど・・・」
ナナがちょんちょんと指差した方向に、ひときわ大きな体を持つ者達がズラリと並んで待ち構えていた。




