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第682話

「どういうことよ、これ」

買い物袋を手にぶら下げ、ケーコは呆然としていた。


ウオン内のワックでの仕事を終え、買い物を済ませ自動ドアを出ると、目の前には大きな湖。

ケーコの目の前どころか、足元で人間を恐れることもなく大きな白鳥がくつろいでいる。



時は遡り、ドモンが最後の買い出しに元に世界に戻ったしばらく後のこと。

ケーコの家にドモンがやってきた。


そんなはずはない。ドモンとは最後の別れを済ませたばかりだし、それに今はここまで来れるはずもない。

なんとか戻ってこられたのか?それなら先にスマホで連絡してくるはず。混乱するケーコの頭。


「よう、元気そうだな」

「どうしたのよ?また帰ってこられるようになったってわけ?」

「まあまあそんなのどうでもいいだろ。それよりさ、これから忙しくなるからちょっと抱かせろよ。子供らまだ迎えに行かねぇだろ?」

「ハァ?会うなり何よそれ。その前に理由を話しなさ・・・ちょっ!駄目もう!あぁ」


時折ドモンの性格が乱暴になる時があるが、今日はその時のドモン。

怒りっぽく強引で、そして強い。

普段はドモンを責めることが多いが、こういう日は逆になる。


「フゥ、スッキリした。おいケーコ、タバコ」

「・・・・あんた何者よ。ドモンの双子の兄弟?怒んないから正直に言って。今まで抱かれてたのも別にいいから」

「何言ってんだよ。俺は俺だよ」

「ドモンはエッチした後すぐタバコ吸えなくなったって言ってた。喘息の発作起こすからって。それに今のあんたは・・・」


ドモンであるがドモンじゃない。

女の勘だが最初からそんな気がしていて、抱かれてよりはっきりとそれが分かった。

そして自分の子供達の父親が、目の前にいるこの人物だということも直感で分かった。


「チッ・・・ま、いいかそろそろ。今回は俺も少し本気を出すつもりだからな。あいつから力も奪ってきたから、今頃あいつも大変だろうな。きっと言葉ももう通じてねぇだろクックック」

「ねぇ!ドモンを何処かにやったのはあんたなの?!ドモンをどうするつもり??」

「どうもこうもしない。あんな奴でも俺の息子だしな。それよりこっちぶっ壊す前にケーコもなんとかしねぇとなぁ。ガキ共は今預けてるあの女に任せるから心配しなくていいぞ」

「何言ってんの?!ドモンが息子って何??子供らをどうす・・・ちょ、ヤメ・・・オ、オホ・・・」


力や正体を隠す必要が無くなったこちら側のドモンに、記憶も感情も操作されたケーコ。

子供らは無事だのといった重要な部分の記憶だけを残され、あとは幸福と快楽の海に沈められてしまった。



ケーコが白鳥の横で立ち尽くしていたのは、その翌々日のことである。


頭の回転の早いドモンですら理解するのが困難だったくらいなのだから、実はナナにも負けず劣らずの天然なケーコには、理解の範疇を超えていた。

あれだけ話も聞いてきたし、実際に異世界人のナナと交流もしたが、それがいざ自分の身に降りかかれば、やはり現実とは思えない。


ゲームもしなければ、小説や漫画やアニメなんかも一切見ないケーコにとっての『異世界』は、その文字通りただの『異なる世界』だ。

北海道どころかドモンと一緒じゃなければ札幌からもあまり出ることもないので、ケーコには別の街に行くだけでもある意味そこは異世界。

にわかには信じ難いことだけれども、雪が積もったり夜になるだけでも違う世界に感じ、仕事帰りに家に帰れず迷子になったことも何度かあるほど。

そしてコンビニで買い物をすれば、右から来たのか左から来たのかも忘れてしまうくらいの方向音痴でもある。


そんなケーコが突然白鳥のいる湖の目の前に来てしまったのだから、何がどうなっているのか理解が出来ないのも当然の話。


「すみませーん!誰かいませんか~?あ、ごめんね驚かせて」

ケーコの横にいた白鳥が声に反応してムクリと首を上げた。


「いやー困ったな・・・車どこだろう」


スマホを見るが当然圏外。

しかしケーコは、たまたま今だけ圏外になっているだけとしか思えない。

目の前の湖も『もしかしたら今日完成した池かも?』と考えていた。


ちょこちょこと歩き回り車を停めた駐車場を探し、ふと『迷ったら歩き回らず一旦戻れ』というドモンの声を思い出して、元の場所へと向かう。が、いつものようにまるで見当違いの方向へ。最初に見た湖の場所すらもうわからない。


そこでウオンの看板を探さなければという考えに至り、ようやく建物自体がないということに気がついた。

こうなればもう自力じゃどうにもならないので、ケーコはキョロキョロと人探し。そしてたまたま歩いている二人組を発見した。


「あ、すみませ~・・・あ、あの・・・エクスキューズミー・・・」


歩いてきていた人に話しかけようと慌てて駆け寄ったものの、絶対に日本人ではない風貌に、ケーコの声は徐々に小さくなっていった。



挿絵(By みてみん)

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