第681話
「床板に使った石板で人数分の皿を作れっていうのか?」
「まあ面白いじゃないか。すぐに作ってやるよ」
「皿の形に彫って磨けば良いんだな?焼いても割れないくらいの厚みで」
「焼いた皿を置くための木枠が必要なんじゃないかい?アタシ達もちょっと準備してくるよ!」「皿の幅は200くらいかい?形は楕円だろ?」
「縁の厚みを考えたら230は必要だ。縦が150の15の15で180ってとこだな。それぞれの皿に合わせてもう一度削るだろうから、まずはひと回り小さくな」
「わかってるよ!」「任せときな!」
散々文句は言ってたはずが、モノ作りとなるとその血が疼く。
ドモンが少し説明しただけでドワーフ達の頭の中にそのイメージが湧き、後はもうこの通り。
ホビット達は手先が器用だけれども、ドワーフ達のモノ作りのパワーにはまだ適わない。
どちらも凄いが、精密機器職人と大工・モノ作り職人との違いといったところか?
「ナナとシンシアは、悪いけど今回ばかりは手伝いはいらない。きつい作業になるし、お前らの手は少し温かすぎるんだ。サンは牛肉を3、豚肉を1の割合で肉を挽いて冷やしておいてくれ」
「わかったわ」「仕方ありませんわね」「はい!」
真剣な表情で料理の準備に取り掛かるドモンに、ナナも流石に文句が言えない。
サンが作業をしている間、ドモンは先に特別なソース作り。この時点でもう、ナナ達もドワーフ達もそのニオイに頭がクラクラ。
「ご、御主人様、なぜ手を氷水なんかに?!手が真っ赤になってます!大変!!」慌てるサン。
「いいんだ。肉の脂を少しでも溶かさないように、俺の手も氷みたいに冷やしてるんだよ」
「で、でも・・・とてもお辛いのでは・・・」
「ハハハ、かなりきついね。手が千切れそうだ。だから普段作る時は絶対にやらないんだけど、まあ今日ばかりはやんなきゃならないんだ。どっかのお嬢とかいう奴のためにもな」
感覚が麻痺するほど手を冷やしてから、ひき肉を捏ねていく。
サンが居る手前なるべく平然を装ってはいたが、ひとりならば叫び散らかすほど辛い。
なので普段は絶対にこの製法では作らない。
塩と胡椒を入れて捏ねてまた少し冷やし、その間に少量の炒めた玉ねぎとミルクに浸したパン粉を溶き卵に合わせる。
それを冷やしていた肉に加え、またも捏ねる。
歯ごたえとなる粗挽きの部分すら無くし、ペースト状と言っていいくらいまで捏ね上げて、中の空気を抜きながら楕円形に整え、丁寧に肉の表面に油を塗っていった。
「お、お肉がツヤツヤになって光っています・・・」
「ほらほらじっと見てないで、サンは石の皿に油を塗っていってくれ」
「は、はいすみません。つい見とれてしまいました」
そうして石の皿を火のついた釜の中へ。
ドモンは丸めたハンバーグをフライパンに並べ、肉汁を閉じ込めるべく表面にのみ焼き目をつけていく。
焼けた石の皿を木枠にはめ、ハンバーグと付け合わせのじゃがいもと人参を乗せて、鉄製のボウルを蓋代わりに被せれば出来上がり。
あとはその予熱で勝手に火が通る。
中でジュウジュウジリジリと肉が焼ける音がしたプレートが、大きなテーブルに座る全員の前に並べられ、ドモンとサンが順番に蓋を取っていくと、その順番通りに感嘆の声が上がってゆく。
「なんだ?!この丸い肉は??これがハンバァグだっていうのか?」
「お嬢の作る物と形から違うじゃないか!もっと薄い・・・」
「これじゃパンに挟んで食えないんじゃ???」
「それにしてもなんだ、この食欲をそそる香ばしいニオイ、そしてこの音は!」
ドワーフ達、そしてナナ達もハンバーグに負けず劣らず目が真ん丸。
フォークとナイフを片手に今にも飛びかからんばかりの勢い。
「まだ少し待ってくれ。最後に仕上げをしなくちゃならないんだけど・・・かなり跳ねるからナプキン代わりの紙が必要なんだ」
「普通にナプキンを皆様にお配りすれば宜しいのではないですか?」不思議顔のサン。
「かなり油ハネするから洗濯が大変なんだよ。今のサンはほら・・・あまり大変な思いさせられないし」
「それならお嬢から貰った貴重な食器を包んでいた紙があるから、それを使ったらどうだ?」と、ドワーフの親方。
この世界では紙が貴重ということもあるので、一応取っておいたものがあった。
ただドモンからすれば、どこからどう見てもただの新聞紙。
見せてもらった食器も、100円ショップで売っている絵柄のついたマグカップで、恐らくその『お嬢』がサッカー台で、せっせせっせと新聞紙で包んできたのだろうと思われた。
ドモンはその新聞紙の端に『北海道タイムス』の文字を発見。
それによりきっとあの人物がこの世界にやってきたのだろうとの想像もついた。
「じゃあみんな、その紙を持って料理の前に立ててくれ。あまり顔を覗かせるなよ?火傷しちゃうからな」
「よしわかった」「ドモン!早く早く!」「どうなるんだいこりゃ」「心臓が口から飛び出してしまいそうですわ」
ドモンとサンがテーブルの端から順番にソースを掛けていくと、ジュワァバチバチ!と特製ソースが跳ね上がる。
その瞬間、今まで嗅いでいた食欲のそそる匂いをずっと上回る香ばしい匂いを放ちながら、ドモン特製の究極のハンバーグが完成した。
「しばらく跳ねるから気を付けてな。落ち着いたら食べ始めてくれ。火は通してるから大丈夫だけど、肉が赤いのが気になる場合は、石の皿に赤い部分を押し付けて焼きながら食べてくれ」
「もう何から何まで初めてだよ、こんなのは」「あ~もう早く食べたいよドモーン!」「ど、どんなものなのか?」
ナイフでハンバーグに切込みを入れると、溢れ出た肉汁が特製ソースと混じり合い、またジュウジュウと音を立てながら、付け合わせのじゃがいもと人参に滲みていく。
シンシアは思わずハンバーグよりも先にじゃがいもを口にして、恍惚とした表情を浮かべながら目を閉じた。
「う、うめぇ!信じられねぇ!!」「こりゃ驚いた・・・」
「お嬢の作る物も美味しいけど、これはもう別格さ!」
「これがハンバーグ・・・これがドモン・・・城ひとつ建てたくらいじゃ割に合わねぇかもしれんな」と親方。
究極の料理。至高のひと時。生涯で得た収入全てを払っても、もう二度と食べられそうにない絶品。
それが今自分の目の前にある事実。
ドワーフ達は何かにつけてどうにか不満を言おうとしていたが、どうあがいても文句のつけようがなく、ナイフとフォークを持つ手はもう止まらない。
ナナは箸を持つ手が止まらず、口いっぱいにお米を詰め込んでいる。
「まぁあいつが作るハンバーグ、いやハンバーガーは、あれはあれで美味いんだけどな。俺のハンバーグもこれはこれで美味いだろ・・・って、もう誰も聞いちゃいねぇな。ほらサンもそろそろ座って食べろ」
「・・・??はい!」
皆が食事に夢中になっているのをドモンは眺めながら、一体なぜそんな事になってしまったのか?と『お嬢』なる人物の身を案じていた。
本当に申し訳ないけど、多分また車関係で更新休みになる可能性がある。
ならない可能性もあるけども、正直よくわからない。




