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第679話

「ガリガリさんじゃねーか!どういうことだよ!」

「それはなんですの?」「きれいな氷ですね、御主人様」「ガリガリさん??食べられたりして・・・」

「俺が知ってるあれと一緒なら食えるはずだ。袋に入ってりゃわかりやすいけど・・・まあこれは本物を参考に再現したんだろな。どれ」


ドモンは見覚えのある水色のアイスキャンディーをガリッと噛んだ。

見た目を裏切るなんてことはなく、見た目通り、懐かしい向こうの世界のあの味だった。



整備された道を車で進むこと半日。また休憩所のような場所を発見した一行。

今度のログハウスは最初のものよりも立派で、簡易的な湯船もついた風呂場と言えるものがあったり、貯水方式ではあるが水道も使用出来るようになっていた。トイレも和式ではあるが水洗だ。


そしてキッチンにはどこから手に入れたのか、少し古い型の魔石製の小さな冷蔵庫が置かれてあり、そこの冷凍庫のドアを開けた瞬間、先のアイスキャンディーがトレーの上に山積みにされていたのが目に入り、ドモンは叫んだのだった。


「んむぅ~・・・なんて表現をすれば良いんだろう?味のついた氷なんだけど、なんとも口の中が爽やかで・・・」ペロペロと子供のように舐めながら感想を言ったアーサー。

「ほらもう口から垂れているわよ。夢中になっちゃって・・・あなた勇者なのよ?」ハンカチでアーサーの口元を拭きながら、角の方を小さくサクッとかじるソフィア。

「こうすれば垂れないよ!ンボォゥ!ほあ!ほうやっへ!ふぁ?」ミレイは口を大きく開いて、ズボッと突っ込むタイプの食べ方。

「ワシは少し歯にしみるのう・・・」と大魔法使いは眉間にシワを寄せる。


食べ慣れているドモンは早々と食べ終わり、おかわりをしているナナ達の様子を見ながら、タバコに火をつけて何度も首を捻っていた。

ドモンがこの世界に伝えた記憶はないし、偶然作られたにしてはあまりにもそっくり過ぎる。


他にもドモンにとって気になる点がいくつかある。

風呂場やいくつかある部屋の出入り口が、この世界ではかなり珍しい引き戸になっていたのだ。

これは高級宿などでドモンが作らせたこともあるが、高級宿故にそれを知る者も少ないし、知っていたとしてもわざわざこんな辺鄙なところで、その技術を使用する意味もあまりない。


蝶番部分の部品がないから仕方なくかと思いきや、建物の出入り口は、木製の小さな杭のようなものを使用したドアになっていたからだ。

つまり部品がなくともドアを作る技術があるにも関わらず、わざわざこの世界では珍しい引き戸にしたということ。

こんな事はドモンがリクエストでもしなければ、わざわざ作るはずがないのである。


壁にある大きな引き戸を左右に開けると、日本の田舎の一軒家にあるような縁側があった。


「サン!シンシア!ここに座ろうよ。風が気持ちいいわよ」と、アイスを片手に裸足で縁側に座るナナ。

「向こうに柵があるので、獣も簡単に入ってこられないようになっているんですね」サンはナナの右側へ。

「お風呂のあとに寛ぐには、丁度良い場所ですわね」ワインを片手にシンシアもナナの左側へ。


ところどころ中途半端ではあったものの、日本の田舎にあっても違和感がない家。あとは瓦屋根にでもするだけだ。

縁側に並んで座っているメンバーには違和感しかないが。

ともかく、偶然作ったにしては出来すぎだ。


「これは一体何?」縁側の傍にあった木箱を開けたソフィア。

「うーんわからないな。ドモンさんわかる?藁かなんかに黒いものが付いているんだけど」世界を巡ってきたアーサーも見たことがない。


「どれ?ん?あれこれはもしかして・・・」

「知ってるのかい?流石だなハハハ」


ドモンはそれを一本手に取り、縁側の庭先へと下りた。

そしてポケットからライターを取り出し火を付けた瞬間、皆が一斉に叫び声を上げた。


「あー!!ドモンついに火の魔法を?!」

「でもなんだか少し違うみたいです。魔法にしては小さすぎますし」

「どういうことじゃ?!火が丸く固まっていきおったぞ?!」

「だ、大丈夫なのか?!ドモン様、火花が出始めてるよ??」


パチパチパチと静かな森に小さな火の花が咲き始める。

ドモンが今手にしているのは、線香花火だった。


「美しい・・・美しいですわ・・・なぜでしょう?涙が溢れてしまいました」

「あ!火花の形がまた変わった!なんて不思議なんだ・・・」

「あぁ落ちてしまいましたね。これでおしまいでしょうか?なんとも儚い・・・」

「・・・」「・・・」「・・・」「・・・」「・・・」「・・・」


ほんの数十秒。小さな小さな花火。

だがこの世界の人々を感動させるにはこれで十分。


「線香花火っていうんだこれは。面白いだろ。始めはまるで命が魂を持って生まれるように、火が燻りながら一箇所に集まって光を放ちはじめ、次に人生を謳歌するかのように大輪の花を咲かせる。今のお前達みたいにな」

「うん・・・」「そうだな」


「その後は年老いて、放つ火花も小さくなっていって、最後は満足したかのようにぽとりと落ちる」

「まるで人生の縮図のようですわね。ワタクシの涙の理由がわかった気がしますわ」


人数分はあったので、何人かずつ順番で線香花火を楽しんだ。

ドモンにとっては珍しくもない花火の内のひとつというだけだが、みんなにとっては初めての大挑戦。


真剣な眼差しで腕を振るわせないよう、更には突風が吹かぬように、ソフィアが特別な結界まで張ってまでの花火遊び。

あちらの世界と同じように、誰が一番長く出来るかと競い合っている。


「サーン、思っているよりずっと安全だから、サンもやってみなさいよ。これ火花は全く熱くないの」

「腕をきちんと伸ばしていれば、まったく問題ないですわよ。煙も少ないですし、お腹の子にも影響はないでしょう」


ナナとシンシアにも促され、見守られながら最後にサンも挑戦。輪になってしゃがんだサンをみんなが囲む。

ドモンが改めて持ち方説明をしながら、サンが持つ最後の線香花火に火を付けた。


「わぁ~・・・本当に炎に命が宿っているみたいです・・・」


だがサンの線香花火は大輪の花を咲かせること無く、すぐに土の地面へポトリと落ちた。





車なんてひょいと選んで、ぽいって買えばいいだろ・・・

なんて面倒なんだ。



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