第678話
「えぇ~!!!ホントにぃ~?!」「ドモン様!これはまさか?!」
「な、なんかそうみたいなんだ」「はい~」
森の中の鳥が飛び立つほど大きな声で叫んだナナと、動揺が隠しきれないシンシア。
その叫び声に勇者達もガタッと席を立った。
「あのあの・・・まだその可能性が高いというだけで、確実ではないそうなんですけども・・・あと奥様ごめんなさい・・・先程言い出せなくて」ペコペコ謝るサン。
「それはいいわよ別に。でもなるほど、サンはもう必要ないってそういうことだったのね。フゥ~先越されちゃったかぁ~」
「それもごめんなさい。でもまだ本当にわかりませんから」
ほんの少しの間があって。
それからナナとシンシアが、サンに向かって微笑んだ。
「おめでとうサン」「サン、よくやりましたわ。必ず元気な赤ちゃんを産むのですわよ?宜しくて?」
「あ、ありがとう・・・ございます・・・ウゥゥ・・・グス」
きっとこのふたりならばそう言ってくれると信じてはいたが、実際にその言葉を聞いて、サンは安堵で涙が溢れた。
そこへ話を聞いていた勇者達が「今の話は本当かい?!」と水浴び場に飛び込んできた。が、ナナとシンシアはまだ服を着ておらず裸のまま。
すぐにミレイに襟首を掴まれ、数メートル後ろにふっ飛ばされたアーサーと大魔法使い。
「ねえ本当に赤ちゃんが?私にもこれからの参考にそれ見せてもらえるかしら?」「アタイもアタイも!」とソフィアとミレイ。
「はいどうぞ。こちらです」
「こっちがナナの?でこれが・・・あ、本当に線が出てる。へぇ~世の中まだまだ知らないこともあるのですねぇ。なのに賢者だなんておこがましい。それはともかく、おふたりともおめでとう!」「わぁ~すっげぇなぁ」
「ありがとうございます!ありがとうございます!」
サンはペコペコしながら仕事に戻る。
シンシアが断ったにも関わらず、サンはシンシアの下半身を流し、タオルで拭き取った。
「あのさナナ・・・それにシンシアも・・・こればっかりは授かりものだしさ、仕方ないと思うんだよ。でも俺もその~頑張るから、ふたりにも・・・だから」言葉に詰まるドモン。特にナナには後ろめたい気持ちがあった。
「嫉妬しないでサンに優しくしてくれっていうんでしょ?」と一瞬真剣な顔をしたナナ。
「うん、頼むよ」
「どうしよっかなぁ~フフ!」「今夜もドモン様に頑張っていただければ考えましょう。オホホホ」
ナナとシンシアがイタズラに微笑むと、サンも目の涙を拭いながら大いに笑う。
こんな事で愛憎劇を繰り広げるような家族の絆ではない。だからこそこんな冗談も言える。
幸せなひととき。
だが嬉しさの中ででもドモンは、そしてアーサーや大魔法使いも最大限の警戒は怠らない。
本来こんな時に考えるのは間違っていることだが、最悪の事態を招く可能性があると心の準備をし、理解しておかなければならない。
察しの良いサンもそれを理解しているからこそ、ナナ達に確実ではないと言ったのだった。
この夜、ドモンが肉じゃがとスイートポテトもどきを作り、ささやかながらサンのお祝いパーティーを開いた。
「今夜は流石にアタイも混ぜてもらうわけにはいかないな。今日は下で寝よう」
「あのねぇミレイ、それが当然なの」呆れるソフィア。
「でもさぁ、下には寝床が三つしかないだろ?上に行けばあんなに大きなベッドがあるってのに」
「こ、今夜は私がアーサーと一緒に休むから、空いたベッドを使ってちょうだい」
ソフィアが赤い顔をしながら荷物の移動。
アーサーはついでにベッドの移動。ミレイ達のベッドと少し離れた壁際へ。
「こんな狭い寝床にふたりで?重ならないと寝られないよ??」
「・・・・」「・・・・」「・・・・休む気も寝る気もないかもしれんじゃろ」
「???まあアタイは先に休むとするよ。昨日あまり寝てないんだ」
「ワシも寝るとしようか。ふたりとも明日は早いのじゃから程々にな」
ドモンとアーサーの寝不足は、どうやら避けられそうにない。
しかし明日こそは再出発しなくてはならない。ここからは険しい道が続くのだから。
そう覚悟して出発したのだったが、完全に想定を外れることとなる。
あまりにも予想外。あまりにも想定外。
ドモンの理解の範疇すら飛び越える事態が次々と起こった。
またケーコの車でニセコの混浴に行ってきたんだけども、帰りにオルタネーター(バッテリーの充電器部分)が壊れパワステも効かない状態に。山の中で。
途中で止まれば終わりという緊張感の中(途中で鹿に二度出会いはした)、なんとか家まで到着したあと車はオシャカ。
車検がちょうど今月までだったので、結局車を買い替えることになったとのこと。
もちろん俺は付き添いさせられるため、更新は微妙。