第677話
「それでその時、御主人様がふと思い出したんです。向こうの世界から買ってきて、私に預けていた大切な道具のことを」
「どうしてそんな時に思い出すのよ・・・どうかしてるわ」
サンの話に少し高い位置でのヤレヤレのポーズのナナ。
手の位置が高くなれば高くなるほど、呆れている気持ちが高め。
「それが大いに関係あるのです!その道具とは、おしっこをかけると妊娠しているかどうかがわかってしまう、魔法のような道具なのです!」
「ハァ?!」「えー!!」「バカバカしい・・・」「本当に?!絶対に嘘ですわ!!」
皆驚いたり信じてなかったり。
「それが本当なんだよ。20個くらいしか買ってないし、一回一回使い切りの道具だから、サンに預かってもらってたんだ。どういう物かは伏せてな。知ったらお前ら絶対すぐに全部使っちゃうだろ?」
「それは・・・まぁ確かに」「はい」「そうですわね」
「・・・私だって欲しいわよ。正直いくら積んでもいいわ」
賢者のソフィアですら三人に同意。
そのくらい女性にとってあまりにも大切なことであり、重要な道具だ。
「俺は正直こっちでは、ずっと子供が出来ないもんだと思い込んでいたところもあったんだよ。これまでの事知らなかったから、もうそういうもんなんだって・・・男の自分勝手な考えだよな。ごめん」
「それは私達も言い出せなかったから・・・」「ごめんなさい御主人様」「ドモン様が気に病むことはありませんわ!」
「そう言ってくれると助かるよ。で、この道具のこともすっかり忘れちゃってたんだよ、ほんのさっきまで。サンが変な事をして変な事言い出すまでな・・・。確かに向こうの病院では、おしっこで体調チェックするけどさ・・・」
「うっぷ!」「・・・・」「サンなら出来ます!」
「いや絶対にすんな!ほらサン立って!」
その場に片膝をついて目を瞑り、恍惚とした表情で大きな口を開けるサンをドモンが慌てて立たせた。
確かに味で健康を確かめることも可能だが、色やニオイでも十分わかる。
「と、とにかくお前達にもやるから、一度使ってみろよ。本当は朝一番のが良いんだけど。あとミレイとソフィアにもやるよ。でもお前らはその兆候があってからの方が良いぞ。もったいないからな」
「行ってくる!」「ここ、こちらに尿をかければ良いのですわね?!」水浴び場に走っていったナナとシンシア。
「やったぁ!スゲェのドモン様に貰っちまった!」「わかっているわ!貴重な物をありがとう!」ミレイとソフィアも大喜び。
サンの暴走を誤魔化すために大奮発。
残った物のいくつかはギドに回して、また研究させて量産させるつもり。
「ちょっとナナ!そんなに力むから放屁してしまうのですわ!」
「ほ、ほっといてよ!あんたこそそれ、おしっこかけ過ぎじゃないの?ドモンに少しでいいって言われたでしょ?!」
「そ、そうですの?そういえばドモン様は『お前達にも』って言ってましたわよね?サンはどうだったのかしら??」
「サンは多分そんな勢いでおしっこしないよ?」
「その事ではありませんわよ!結果のことですわ!!」
会話から何かの破裂音から、全てが全員に丸聞こえ。
仕切りに衝立があるだけで、ドアが付いていないのだから当然の話。気をつけていたドモン達ですら、多少なりとも会話がバレていたのだから。
「ねードモーン!ちょっときてぇ!おしっこちゃんとかけても何にも出ないんだけど、これ壊れてんじゃないの~?」大声でドモンを呼んだナナ。
その前の「ドモン呼んでみようか」「えぇ」という会話までドモン達には聞こえていた。
「お前ら・・・なんて格好でおしっこしてんだよ。ここにきちんとかけたんだろ?」「プフッ!」水浴び場だからなのか、なぜか全裸になってがに股の仁王立ちになっていたナナとシンシアに、ドモンについてきたサンも思わず吹き出した。
「だって足元汚れるし、水で流そうにも、この道具にかかったら駄目になっちゃうかと思って」がナナの言い分。
「万が一ドレスを汚してしまっては、また出発が遅れてしまいますもの。サンに手間はかけたくはありませんわ」サンに洗わせることが前提になっているのが気になるけれど、サンへの気遣いも一応ある。そんなシンシアの優しさがサンには嬉しい。
「何も出ないのは、今妊娠してないってことだよ。この道具の結果が絶対ってわけじゃないけれど、極めて確率は低いってことだな」
「ハァ~・・・あーあ。もしあの時これやってたら、反応してたのかな」ナナはがっかり。
「ワタクシも何もありませんわね。サン、あなたもこれをしたのでしょう?サンはどうでしたの?」珍しく自分で足元を流したシンシア。もちろん体はサンに洗ってもらうつもり。
「あ、あの・・・」サンがドモンの顔を覗き込むと、ドモンが軽くウンと頷いた。
白いエプロンの大きなポケットに両手を入れ、バツが悪そうに、でも少しだけ嬉しそうな顔をしながら、自身が使用した妊娠検査薬を取り出す。
そこにはナナやシンシアと違い、少し滲んだ赤紫色の縦線が浮かび上がっていた。




