【幕間】温泉旅行にて その2
「あれ?ふたりとも戻ってきたのか?」ドモンは部屋で少しくつろいでいた。
「ちょちょちょっと!露天風呂は貸し切りだって言ってなかった?!」余程慌てたのか、服のボタンをかけちがえたまま戻ってきたナナ。
「ワタクシはまだタオルを巻いていましたけど、ナナったらタオルも持たずに露天風呂に飛び出して、たくさんの男性に裸を見られてしまいましたわ。だから様子がおかしいとワタクシも忠告したというのに」
シンシアはきちんと服を着ていたが、手にはタオルと下着が握られていたので、やはり相当慌てたのだろう。
サンが慌ててそれを受け取り、その場でシンシアに穿かせた。
「貸し切りの露天風呂はベランダ・・・そこの窓の外にあるのよ。あなた達は話を最後まで聞かないから。まあ私とドモンは慣れているから、混浴の方に行ってくるけどね」とケーコ。
「サ・・私も行きます!私は御主人様のお背中を流さなければなりませんし、それに混浴の経験もそれなりにありますから」
ケーコの予想に反して、サンが一緒に来ると言いだした。
ここでドモンと二人きりになれるだろうと考えていたケーコはやや動揺。
「サンちゃん、向こうの世界の混浴と違って、すっごくスケベな目で見られるわよ~?それにサンちゃんは日本人と違うから、珍しい目で見られると思うし、あとドモンが体を洗うのは混浴じゃなくて男湯の方なのよ・・・・私はこっそり入るけど」男湯の内湯は、はっきり言ってほぼ誰もいない。なぜならみんな混浴に一直線だからだ。
「平気です私。男性用のお風呂にも入ったことがありますし、それに私のような子供みたいな体は、誰も興味ないですよきっと!」
「・・・」「・・・」「・・・」「・・・」左からケーコ、ドモン、ナナ、シンシア。
一向に引き下がらないサン。なぜならサンにはドモンを見張るという使命があるからだ。
万が一こういった事になった場合、何がなんでもドモンについて行くように、ナナに厳命されていたのだ。
「そうだサンちゃん!休憩室にクレーンゲームがあるのよ!ほら前にナナが、サンちゃんの大事なカバンを取ってあげたって言ってたやつ。お小遣いあげるから、食事の時間までそこで遊んでおいでよ」財布から一万円札を出したケーコ。
「わーい、ありがと~ケーコさん!たっくさんお土産取ってくるわね!」「噂に聞いていたものですわね。ワタクシも一度経験してみたいと思ってましたの」はしゃぐナナとシンシア。
「あんた達じゃないわよ!まったくっ!!」
無駄に一万円を減らしてしまったケーコに、にっこりと金貨を一枚渡すサン。
この世界の金のレートを考えると、全員の宿泊費やガソリン代を考えても、これでお釣りがくる。
だがそのことよりも、そのサンの優しさと気遣いに、ケーコはもう降参する他無かった。
「ハァ・・・じゃあ行こうかサンちゃん」
「はい!」
入口は男女に分かれていて、脱衣所も男女別。
浴場に入ると内湯といくつかの洗い場があり、その奥のドアを開けると露天風呂に繋がっていて、そこが混浴になっている仕組み。
「あ、あのケーコ様・・・タオルは・・・」
「あぁ、お湯にタオルをつけちゃダメだから、この小さなタオルしか持っていかないのよ。持っていったところで頭の上に乗せるだけだから、サンちゃんはいらないわよ?」
「え?」
「やっぱりやめて、今から戻る?私は行くけど」
「い、行きます!フゥフゥ・・・」
裸で堂々と浴場に入っていったケーコを後ろを、サンが大事な部分を手で隠しながらちょこちょこ歩く。
洗い場にはやや年配と思われる女性がひとり。
サンの存在に気がつくやいなや、思わず「まぁー!」と嬌声を上げた。
「かっわいらしいわねぇ~!ガイジンさん?ハロー?わかる?」
「あのあの」「見た目は外国人みたいですけど、日本語がわかりますよ、この子」
突然話しかけられ、困惑していたサンにケーコが助け舟を出す。
「おいでおいでほら!横空いてるから。体洗うんでしょ?いやぁ~可愛いねぇホント。いくつなの?中学生くらい?」
「あの・・・私30歳で、学生ではなく召使いなんです・・・」
「まったぁ~やだよぉ~おばちゃん誂って!アハハハ」
日本だと海外女性の見た目は年齢よりも上に見られがちだが、サンはそのまま13~4歳程度の見た目。
しかもそのスベスベ肌は、ほぼ赤ちゃんと変わらない。
「キレイな肌ねぇ・・・ねぇおばちゃんが少し体洗ってあげてもいい?ねぇお姉さんダメかしら?もうお人形さんみたいで」変な意味はなく、とにかくスベスベ肌をスベスベしたいおばちゃん。他人の赤ちゃんのほっぺを触りたくなってしまうのと同じ。
「いや私は別に構わないけどサンちゃんが・・・」ケーコがサンの方をチラリ。
「と、とんでもございません!召使いの私なんかがそんな!それでは代わりに私が皆様のお背中をお流ししても宜しいでしょうか?それならば喜んで」
「え?私も?!」「そんなまさか!おばちゃんこそとんでもないよ!ちょっとちょっと本当に、あらららら」
ボディーソープを付けた柔らかな手で、座っているおばちゃんの背中から優しく洗い始めたサン。
ドモンに仕込まれた絶妙に気持ちが良い洗い方に、おばちゃんはすでに夢見心地。そしてケーコも・・・。
「あ~サンちゃん・・・あ、まずい、力抜けて・・・」
「しょーがないしょーがない。シャワーで流しちゃいなよ」
「???」
最後に結局サンもふたりに洗われ、おばちゃんともすっかり仲良くなり、それにつれて恥ずかしさも少し消えた。
おばちゃんは「ありがとねぇ・・・まるで孫が生き返ったみたいだわ。お礼はあとで必ずさせてよね?約束だわよ」と脱衣所の方へと去っていった。
「あの時・・・犠牲になった方のご家族でしょうか・・・」
「どうだろうね。でもサンちゃんが気に病むことはないんじゃない?あなた達はこの世界を救った英雄なんだし」
「はい」
笑顔が曇ったサンをケーコが励まし、ふたりは混浴へと移動した。