第674話
ドモンはナナを含む妻達に対し、避妊は一切していない。
ドモンの年齢のことを考えたヨハンとエリーの望みでもあるが、ナナ本人がドモンに『家族を持つということ』を知って欲しいということもあり、すぐにでも子供を欲しがっていたためだ。
当然サンも同じ気持ちであり、シンシアも正直両親どころか、国民からも期待されていた程である。
「私って周期が狂うことってほとんどないんだけど、何度か女の子の日が来ないことがあったり、食欲が無くなったり妙に増えたりしたことがあって、お母さんに相談したことあるんだ」
「いつだよそれ・・・」
何も知らなかったドモンは大困惑。
「いつって言われても困るけど・・・あ!一度は覚えてるわよ。私が風邪ひいて寝込んじゃったことあったじゃない?ドモンがピザっての作って食べさせてくれた時。あの時もそうなのよ。だって普段風邪なんて引かないじゃない?私。最初食欲もなかったけど、一度食べ始めたらペロリと食べちゃって。でもまったくお腹が一杯にならないから、お母さんに相談したのよ。そしたら多分赤ちゃんじゃないかって」
「ば、馬鹿野郎!あの時飲ませた風邪薬、妊娠中はダメなんだぞ!」
「だってその時は知らなかったんだから仕方ないじゃない。でもその後もしばらく順調に育ってたと思うんだけど、ある日その感覚が突然スポッとなくなって、すっかり元に戻っちゃったの。・・・大きくなった胸は戻らなかったけど」
「それってお前、流産したんじゃ・・・?」
「ううん違うよ。悲しいけど、もしそうなったら赤ちゃん出てくるらしいの。でも出なかったから、お母さんもお医者さんも何か違っていたんだろうって」
「そ、そうか・・・てか急激な胸の成長はそういうことだったのか」
ドモンとナナの会話を聞き、サンがシンシアに不安そうな視線を送ると、シンシアが一度コクリと頷いたあと、意を決し口を開いた。
「ドモン様、実はワタクシとサンにも身に覚えがありますの」
「え?!」「嘘?!」ナナも初耳。
「サンは二度ほど、ワタクシは一度。ナナを気遣い今は秘密にしてほしいと言われ黙っておりましたが、ワタクシのかかりつけのお医者様に診せたところ、まず間違いなく子を宿していると。ですが・・・」
「ナナと同じように突然元に戻ったのか」
「えぇ。そしてワタクシもまるで一緒ですわ」
サンは火が出るほど真っ赤な顔をしながら「私は胸は成長しなかったんですが、そのぅ・・・、先の方だけ大きくなってしまいまして。うぅどうして」と顔を隠した。
「そういやある時期から急に先っぽが成長してたけど、あの時か」
「はい。今まで黙っていてごめんなさい御主人様、奥様・・・」
「まあ私も不安になる気持ちはわかるから、気にしなくていいわよ。確実に間違いないとわかるまで、変に心配や期待させたくないなって私も思ってたし。正直ドモンやみんなの態度が変わっちゃうんじゃないかなって、変なこと考えちゃったりね。だからドモン、怒らないであげて」
「いや怒ってなんかないよ。秘密にされたのはなんかあれだけど、その不安になる気持ちもなんとなくだけどわかるしな。それにしても・・・」
女性達の話に腕を組み目を瞑り、ドモンはうーんと唸り声を上げた。
ナナだけならば何かの体質や、勘違いも考えられる。
この世界の人々にはあまり馴染みのないであろう症状、例えばアレルギー物質を口にしていただとか、様々な要因を思い浮かべることが出来る。例のキノコの副作用なども。
だがドモンと近しい三人の全員が全員、違うタイミングで同じ経験をしているとなると話は変わる。
「これだけスケベしてりゃ、まあ普通なら誰かに当たってもおかしくはないよな。スケベな小説みたいに、いくらスケベなことをしても都合よく全く何も起こらないとかあり得ないし」
「そうなのよね。小説だとご都合主義だから、いくらしても『今日は大丈夫な日だから』で済んじゃうんだもん。欲しいと思えばすぐ妊娠するし・・・って、私がスケベな小説を熟読してるってわけじゃないのよ、みんな!たまたま!たまたまちょっぴりだけ読んじゃった小説がそうだったの!!」
うっかりドモンに同意したナナの苦しい言い訳。
ウンウンと頷いていたシンシアとソフィアも、ナナと一緒にハッとした表情に。サンだけがキョトン。
「以前読んだ肉棒がどうのというものでしょうか?御主人様」
「サン!ダメって言ってるでしょう!悪い子ね!」「ち、違うからサン!みんなの前で何言ってんだよ」焦るナナとドモン。
「サンの口からまさかそんな破廉恥な言葉・・・あ、ワタクシとしたことが鼻血が出てしまいそうに・・・」シンシアは鼻を押さえて首筋をトントントン。
「なあソフィア、その肉棒って何のことだい?賢者なら知ってるんだろ?アタイにも教えてくれよ!」としつこいミレイに、ソフィアが赤い顔でそっと耳打ちすると「え?!あれってどっちかというと骨だろ??えっ!なんだって?チンチンって骨が入ってないのかよ・・・じゃあどうしてあんな硬く・・・なあアーサーのチンチンも、あ、いや肉棒も骨入ってないのか?」と叫び散らかし、サンはようやく全てを把握した。
「と、ともかくだ!もし本当にそんな事が起こっていたとすれば、やはり何者かの仕業だと思うんだ。まあお腹の中の子の体や魂を奪うなんて、それこそあく・・・いやなんでもない」
「・・・・」「・・・・」
慌てていたアーサーは、とんでもない失言を行いそうになり、その言葉を飲み込んだ。
ドモンの妻達が子を持ちたいと熱望していることは、アーサーも当然知っていたからだ。
それがもし悪魔の仕業だとすれば、ドモンにまで犯人の可能性が出てきてしまう。
妻を妊娠させ、その胎児を喰らっていただなんて、疑いをかけるだけでも余りにも残酷な話。
女性陣は『骨が入っているかいないのか?』で盛り上がっており、幸いアーサーの言葉は届いてはいなかった。
不安そうにドモンに目配せをした大魔法使いに向かって、ドモンは小さく首を横に振った。
次回、幕間をちょっと挟みます。せっかく旅行行ったんだし。