第673話
「よくもまあお前らは、知らない家に勝手に入って、大きなベッドがあるからスケベしようってことになったな。呆れるよ」
「ドモンさんにだけは言われたくなかったよ。ただ俺達は、そこにある物をとことん利用するのには慣れていてね。そうしないと冒険なんて続けられないんだ」というのがアーサーの言い訳。
今夜は霜降り牛肉のステーキ。
あまりにも立派な肉で、どうせならそのまま食べようということになった。
獲れたてではないとアーサーは言ったけれど、肉はしっかり血抜きを行った熟成肉で、獲れたてのものよりも美味しく仕上げられたものだった。
火をつけた釜の上に鉄板を置き、順番にドモンが焼いてはサンが運ぶ。
味付けは塩コショウやステーキソース、わさび醤油など。お米は一皿ずつでおかわりはナシ。
料理を用意しながら、ドモンの冷やかしはまだ続く。
「ソフィアも意外と好き者なんだな。賢者でもやっぱり性欲には勝てないもんか。わかるわかる。実は大きなベッドでお尻振って、アーサーを誘ったんじゃないの?」
「そんなことあるはずがないでしょう?!確かに興味本位でベッドに上がっちゃったのは認めますけど、後ろからアーサーが掴みかかってきたのよ!このスケベ勇者!ングッ」
「なんとでも言ってくれ。もう捨てるものは何もないさ・・・フッ。あー美味しいこの肉」
ヤケ食いのソフィアとアーサー。米には限りがあるが、肉はあり余るほどある。
ドモンは何枚肉を焼いたのかわからない。
「四つん這いになってるところにお尻でも掴まれちゃったか。それじゃ逃げられないなハハハ。ほらおかわり焼けたよ、ナナ」「んんんん~」
「そうね。男の人の力で骨盤掴まれたらもうどうしようもないもの・・・ま、まあ求められていたのは知っていましたから、私だって多少はその・・・嬉しくもあったし」
赤い顔でモグモグとしながら、アーサーの方をチラッと見たソフィア。
「あぁ女だけにある、脇腹の下の取っ手みたいな形の骨盤な。あれを両手で掴まれたらどうしようもないもんな」
「え?これって男にはないのかい?!アタイ初めて知ったよ!」
自分の骨盤と横にいた大魔法使いの骨盤を触って確かめ、驚いたミレイ。
すっかり夜も更けてきて、雑談に華が咲く。
ソフィアも自分の骨盤を触って感触を確かめたあと、アーサーの骨盤も触って、その違いにびっくり。
ナナとシンシアもドモンの骨盤を触って驚いていた。自分にあるのは知っていたけれど、ここまで違うとは思っていなかったのだ。
「なぜ男性にはないのでしょう?なんとなく女性は出産のために骨盤の形が違うからと、どなたかから聞いたような気もいたしますが」とシンシア。
「俺も向こうにいる時、気になって調べたことがあるんだよ。いつも後ろからスケベする時に『持つとこ』って冗談言いながら、掴んでズッポシしてたからさイテテテテ!ナナ!昔の話だってば!」「まったく!」
「それでその骨盤の形の正体ってやつは判明したのかい?ドモン様」ゴンゴンゴンとミレイは乱暴に自分の骨盤を叩いた。
「あぁ、この取っ手みたいな形の骨盤の役割はなんと・・・本当に『持つところ』らしいんだ。もちろん諸説はあるけれど」
「えぇ~!」「えぇ?!」「えー!!」「え??」「ブッ!!」
驚きの正体に驚く女性陣。
ただ驚くよりも、自分に持つところがあるということが何よりもショック。
「スケベな話は一旦置いといて、動物として人間のオスがメスと交尾する場合に、オスがメスを逃さないようにするためなんだって。だからアーサーとソフィアは、動物として実に正しい交尾をしたことになる。お前らのように、後ろから交尾するのが本来動物のあるべき姿だしな」
「・・・・」「もうやだぁ!」
自分達の行いをドモンに淡々と説明され、恥ずかしさのあまりアーサーの肩をバシンバシンと叩くソフィア。
その様子をニヤニヤしながら見ていた一同だったが、ミレイだけが自分の骨盤を掴んだまま未だ不思議そうな顔。
「でもドモン様、試合でアタイもここを掴まれることあるけどさ、動けなくなるほどじゃないと思うよ?ちょっとアタイで試してみてよ」と小さなベッドで四つん這いになったミレイ。
「仕方ないな。実際にスケベするわけじゃないからいいよな?ナナ」「手加減してあげなさいよ?」ナナはよく知っている。その威力を。
「じゃあせーの、それっ!」ミレイの後ろから左右の骨盤をドモンががっしり掴む。
「ホゥッ!?あ・・・ダメだこれは・・・動かないんじゃあなくて、動けない・・・あ、あのドモン様ヤメ・・・」
赤い顔で脱力したミレイ。
拘束力だけで拘束されているわけじゃない。今自ら動けば激しくくすぐったくなってしまう感覚があり、動こうとする覚悟が生まれないのだ。
その上メスとしての本能が、勝手にオスを受け入れようとしてしまうことに理性が反発し、頭の中は大混乱。
動けるはずなのに体が勝手に停止して、逃げようとしても逃げられない。
お尻にドモンの下半身がくっついた瞬間、ゾワゾワとした背筋の寒さを感じ、ミレイは涙を流した。
今は性行為を受け入れたくないという気持ちを無視し、体が受け入れようとしてしまうことへの嫌悪感と悔しさと恐怖。
それを消すには、心も受け入れようと覚悟を決めるしか無い。
その覚悟を決める相手が愛する者であれば心への負担も軽くなるが、今のミレイは骨盤掴みから『逃れること』が第一に頭にあったため、その覚悟が決まらなかった。
それ故に精神が崩壊してしまったのだった。
「・・・とまあこんなもんだ。だからこそあっちの世界でもこっちの世界でも、そしていつの時代でも痴漢や強姦罪への罪は重いし、女性にとっての脅威なんだよ。この『取っ手』を少し掴まれただけでこうなるんだから」パッとミレイから手を放したドモン。
「ふぐぅ・・・」
オスに求められず、あっさり解き放たれることもメスにとっては屈辱。
「すまないソフィア、そんな事とは知らずに俺は・・・」アーサーも深く反省。
「私はその・・・まあ別に」ソフィアはそれほど気にしていない様子。
「好きな者同士で『掴んでちょうだい!』ってするのは、それはそれで良いものなのよ。同意した場合というか」「はい!」「そうですわね」とドモンの妻達も説明。
「自分の子供を産ませたいという気持ちの現われみたいなものだからな。女性の方もこの人の子を産みたいと思ったならば、しっかりとここを掴んでもらうことが、今度は嬉しさに変わるんだよ。この骨盤の形ひとつで、なかなか興味深い話だったろ。ほとんどの虫や動物が似たような仕組みで成り立ってるんだ」
「さすがドモン殿は博識だのう」と大魔法使い。
「いやいや全部ネットの受け売りだよ。ええとネットってのは・・・向こうでは調べたいことを機械に文字で入れれば、大抵のことがわかるんだ」
「それはすごいけど『スケベする時の女性の骨盤の持つところ』を調べようとするなんて、我が夫ながら呆れるわよ」ナナは呆れてステーキのおかわり。
「うるせぇな。普段はしっかり掴めだのなんだのうるさいくせに。どんだけ子供が欲しいんだ、お前は」
「フン!私とサンとシンシアで少なくとも十人ね。たくさん家族作ろうってみんなで決めたんだから。今夜もしっかり掴んでもらうわよ」
またギャーギャーと争い出したドモン達に、勇者達も皆苦笑。
今夜もなかなか寝付けそうにないだろうと、お互いの顔を見合わせた。
「だがそこまでお互い求めているのに、なかなか子宝には恵まれないのう。そなたらは」と大魔法使い。
「やめておこうよ。そればっかりは授かりものなんだから、俺達が余計な口出しするもんじゃない」意外なデリカシーを見せたアーサー。
「それに関しては私も不思議なのよねぇ。何度かそれかな?と思ったことはあったんだけど」
「!!!」「!!!」「!!!」
ナナの何気ない言葉にサンとシンシア、そしてドモンも驚きの表情を見せた。
帰った。歩き過ぎで筋肉痛が酷い。
疲れすぎて温泉で寝て溺れかけた。
それにしても女達って、旅先だとどうしてあんなにも食欲が湧くんだ?
寄る店寄る店であれもこれもと食べて、もうパンパンになってからのスイーツ巡り・・・