第669話
「あの人達って、毎晩一緒に過ごしているのよね?」
「そりゃそうだよ。ナナさんは特にドモン様と必ず一緒に寝たがるからね。前にドモン様が一週間くらい死んじまった時があったらしいんだけど、その時も抱きついて添い寝してたって」
「し、知らないわよそんなの。とにかく飽きるほど毎日触れ合ってるってことでしょ?それがどうしてこうなるのよ?」
「そりゃあ・・・ドモン様がスケベだからじゃないか?わかんないよアタイにも」
ドモン達の様子に呆れるウェダーとミレイ。
そう言いつつも、ウェダーも男性用の重たい鎧を装着。ミレイはトレーニング用の最重量鎧を装着。
ミレイの場合は、一般的な男性用の鎧を装着した場合でも空中回転が出来てしまうほどの筋肉量なので、審判長が動くのにも苦労するほどの物を借りた。
ガシャンガシャン。ガシャンガシャン。
ドモンと同じくらいのスピードで逃げ続けるウェダー。
だが初日からは考えられないくらいのドモンの驚きのスピードにウェダーは思わず前につんのめり、先ほどサンが取ったポーズと同じ姿勢で固まってしまった。
サンの場合はわざとだけれども。
「え?ちょっと待ってよ!違・・・こんなはずじゃ!ねぇドモンさん、私まだ未経験だから!うごっ、動けない!!」
「スンスンスン・・・少し臭うなウェダー。鎧を着る前に用を足したのかな?」
「・・・終わった。最悪。もうお嫁に行けない・・・」
人生最大の屈辱と羞恥と興奮。ドモンの慰み者となる快感。
実際にこうしてみて、初めてナナ達の気持ちが少しだけわかった。
「あ~アタイも動けないぞ」とミレイ。
「ミレイは動けるだろ。さっきちょっと聞こえたぞ?『案外いけちゃうな』って」
「クソぅ!じゃあアタイを捕まえてみてよドモン様!捕まえたら好きなことしていいからさ!」
「ミレイは俺が捕まえてもすぐに振り切れるだろ」
ドモンは鎧のままガシャリとヤレヤレのポーズ。
「なんでだよ!じゃあアタイがドモン様を捕まえたら、ドモン様に好きなことをしていいだろ?」
「駄目だろ」「駄目に決まってるじゃない」「だめですぅ」「ダメに決まってますわ」「それはダメじゃないか?」全方向からの全否定。
「あーもうヤダヤダヤダ!どうしていつもアタイだけ除け者にされるんだよ!アタイがデカくて色気がないからか?!うわぁぁぁん!!」
「そんなことで泣くなよバカ。ほら起き上がれ。一緒に水浴びでもしてスッキリしようぜ。いいだろ?ナナ」
80kg近くある最重量鎧を着たまま、駄々をこねる子供のようにジタバタと暴れるミレイを手で引き起こしたドモン。
ナナの「仕方ないわね。でもスケベはダメよ」という返事を聞いた瞬間「やった!ナナさんわかってるよ、ありがとう!」と叫んで、同じく鎧を着ているドモンを、お姫様抱っこして走り去っていったミレイ。呆れるほどのパワーである。
ドモンの前にしゃがみ込み、ギュッギュとふくらはぎや腿の筋肉の付き具合をミレイが確かめる。
「う、うん。見た目はそんなに変わっちゃいないけど、ず、随分と硬くなっているな。確実に筋肉は付いていると思うよ。い、いやここは少し太くもなっているかな?フゥ」
「おいミレイ!どこ見て言ってんだよそれ。大体これはミレイが・・・それに今は・・・」
「アタイで興奮しちまったんだろ?なぁドモン様、そうなんだろう?!自信ついちまったよアタイ!ウフフ!でも約束だからな。これは扉の向こうのナナさんに譲るよ」
「やっぱナナか、そこにいるのは」
水浴び場の扉をバーンと開けると、こそ泥がコソコソ逃げる時のポーズで去ろうとしていたナナがいた。
ナナにも色々葛藤があり、すぐに飛び込むか黙って立ち去るか、ここでずっと悩み続けて、知らず知らずのうちにため息が漏れていたのだ。
ナナもミレイがどれだけドモンを慕っているのかを知っている。
この世界で一番、妻である自分はもとより、自己犠牲の塊であるサンよりもドモンの為に自分の命を捨てられる覚悟があり、実際に病院で命を落としかけたのもナナは覚えている。
見てわかるくらいその気持ちはダダ漏れなのに、ミレイがずっと堪えているのも理解していた。
だからこそ葛藤があった。
「ドモン様に女として見てもらえた。アタイはそれだけで満足さ。もう思い残すことだってないよハハハ」
「・・・・」「・・・・」
そう言い残して、ミレイはこの場をナナに譲り去っていった。
その様子にドモンもナナも、もう言葉もない。
覚悟を決めたミレイの発言により、ドモン達もようやく実感が湧く。これから魔王と対峙するその危険性を。
ナナの手により、身も心もスッキリとしたドモンが突然バーンと扉を開けると、こそ泥がコソコソ逃げる時のポーズで去ろうとしていたミレイとウェダーがいた。