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第664話

プロレスの魅力を知り、どっぷりとハマった観客達。

もうすでに「あれは演出だ」だの「実際に技を受けているのは間違いないんだ」だのと議論を交わしている。


ただそれが何であれ、今目の前で見た闘いが、これまで見てきたどの試合よりも熱く燃えたものだったのは間違いない。


ウェダーの名声は一気に跳ね上がり、審判長の鼻はコロシアム五階席にまで届かんばかりに高々と伸びた。

今まで他人に自分の娘の紹介をすることが殆どなかったくせに、突然「実は私の娘なのだガッハッハ!」と自慢しながら、周りに酒を奢る父親の姿に、ウェダーは呆れるやら恥ずかしいやら。ただそれ以上に嬉しくて仕方ないが。


「信じられないよドモンさん・・・こんなになるだなんてさ」そばにいたドモンに話しかけたウェダー。

「俺は何もやっちゃいないよ。お前と、協力してくれたみんなの力だ。しかし凄かったなぁ。ウェダーなら俺の世界に来ても、プロレスで大金持ちになれるよきっと。いや、こっちの世界の方が儲かるか。これから大変だぞ?忙しくなるだろうし、巨万の富を狙った男達が寄ってくるしで」

「平気だよ。そんじょそこらの男達には負けるつもりないし、それに・・・頼りになるお父さんもいるしね」

「お前の父親に『娘さんを下さい』って言いに行く奴が気の毒だよハハハ」



プロレスが終わり、舞台はリングからコロシアム内の反対側にある土俵へと移った。


今はまだ前座である練習生達が土俵で勝負しているが、すでに観客達は大熱狂。

単純なルールだけに理解のしやすさが手伝ったことも関係しているが、何より一瞬で決まるかもしれないという緊張感が新鮮で、皆息を呑んで見守っては、叫び声に近い歓声を上げるの繰り返し。


大きな体の者が圧倒する大迫力に驚愕し、小さな体の者が技で番狂わせを起こして大興奮。

廻し姿のお尻や、何度か廻しが外れて『モロ出し』をしてしまった姿も、一部の者達に大好評。

隙間からモロ出しのまま入場してきた者もいたので、廻しの締め方は再度検討し直さなければならない。


そうこうしている内に相撲は最後の一番、審判長対ライデンを残すのみに。


「弟のライデンは幼い頃、身体も小さくて細かったのよ。それでバカにされていつもイジメられていたんだ」


実況席のドモンの横に座っているウェダー。

少しだけ話をして裏に戻るはずが、皆に大歓迎され、結局ゲスト解説者として居残ることになったのだ。

本来横に座る予定だったナナは今頃裏で、般若のような顔になっていることだろう。


「それでお父さんがたくさん食べさせて大きくしようとしたんだけど、お母さんも死んじゃってたから、栄養の偏ったものばかり食べさせちゃって・・・」

「ふぅん、それで太っちゃったと」

「えぇ。今度は太ったことでまたイジメられていたんだけど、弟は自分のために食べさせてくれたお父さんをバカにされたと思ったみたいで」

「へぇ~良いとこあるじゃないか」


それぞれ別の入場口から、審判長とライデンがやってきた。

今までも凄い身体をした者が何人もいたが、今こうしてみると、このふたりは桁外れの体つきで、見る者全てを圧倒する勢い。


少しふくよかなライデンの身体を馬鹿にする者も、今はもういない。

この相撲という競技では、この身体こそが武器であり鎧であることを知ったためだ。


「あの体型を維持しながら、誰よりも強くなってやると鍛え始めたの。でもパンクラチオンではそれもなかなか上手くいかなくて。お父さんはお父さんでそれをずっと気に病んで、自分のような身体になって欲しいと・・・」

「なるほどね。だから負けられないって言ってたんだ。最強の座をずっと維持してるのもそのためか」

「そう。弟はお父さんが間違っていなかったことを本人に証明したいし、お父さんはお父さんで、ライデンの目を覚まさせるんだって意地になってて」

「お互いに家族思いのまま、気持ちがすれ違っちゃうこともあるんだなぁ。俺にはよくわかんないけど」


親の理想と、子供なりの考えと尊厳。

親はある程度答えを知っているから子供に押し付けたがるが、子供の方が先にその間違いに気がつくこともある。もしくはどちらも正解であったり。


ドモンは子供の頃、借金で大変だった母に気を使い、「蛍光灯はあまり点けたり消したりすると電気代がかかるよ」と親切心で教えたが全く信じてもらえず、少し移動するたびに蛍光灯をカチカチ点けたり消したりしながら「貧乏だからこうした方が良いの」という母に閉口したことをふと思い出した。

思い出して、この親子らとの話のスケールの違いに、絶対にウェダーには話さないでおこうと決めた。


そんな中、ついに土俵で対峙するふたり。観客達は息を呑む。


「親父・・・今日は親父を超えるために来たよ。勝って認めさせてやる」

「そんな事は絶対にさせん!お前のためにもな」


お互いに自分の頬を両手でパーンパーンと叩いて気合を入れ、蹲踞の姿勢で手を土俵に下ろした。




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