第660話
「サンもみんなの前でドモンに『サンのお股はキレイだよ』って、裸にされて脚をパカってされたら恥ずかしいでしょ?」ドモンにズボンを穿かせながら注意したナナ。
「ごめんなさい奥様・・・でも御主人様や奥様がそうしなさいとおっしゃられるならば、サンはうぅぅ・・・フゥフゥ・・・」
「ちょちょちょっと!そんな事言わないから!」「やめなさいサン!」
赤い顔でメイド服のスカートを持ち上げようとしたサンを、慌てて止めるナナとシンシア。
ちょっとだけ期待をしていた周囲の男性達は、バレないように小さな溜め息をひとつ吐いた。
「何を申すか。私がこの息子に負けるなど、この先十年、いや二十年はないだろう」自信満々の審判長。
「普通の格闘技・・・パンクラチオンだったっけ?その勝負ではそうかも知れないけど、相撲での勝負じゃわからないぞ?いい勝負すると思う」とドモン。
「す、相撲??」「なんだそれは」「どういった闘いだ?」
審判長やライデン、そして客達もざわざわと騒ぎ出す。
しかしそれでもなお、審判長と客達は、審判長の勝利を信じて疑わない。
そこでドモンは相撲のルールを皆に説明した。
「その土俵と呼ばれる円から相手を出すか、足裏以外を地面につければ良いのだな?目潰しや急所攻撃、髪を引っ張ったり拳で殴る以外何でもありと」
「そうだ。単純だろ?勝負は一瞬で決まるかもしれないし、力比べの長丁場になる場合もある。体当たりで一気に押し出したり、体当りしに来た奴をサッと躱して土俵の外へと追いやったり、単純だけどなかなか奥が深いんだ」
「ぬはは!面白いではないか!今すぐその相撲とやらで勝負してやろう!」
「まあ待てよ。土俵の準備も必要だし、相撲を取るには『廻し』という特別な衣装が必要なんだ。まあ丈夫な下着のようなもんだと思ってくれ。その準備に一週間は必要だ。その間に宣伝でもして、観客をたくさん集めてくれよ」
「うむ、良かろう」
ドモンと審判長のやり取りに盛り上がる客達。
だが当の本人であるライデンは不安げな顔。
突然あの無敵である父親との勝負が決まってしまったからだ。
「それとついでに、そっちの姉貴の方にも参加してもらうよ」
「なんですって?!私が??ちょっと待って!何の備えもしてないのよ??その相撲ってやつなら、私は勝負にならないわ!!私なんて軽いし、すぐに吹き飛ばされて・・・」
「お前は相撲じゃないよ。お前には別の舞台を用意する。正義の味方が活躍できる、最高の舞台をな」
「な、何を言っているの・・・?それに私はもう正義の味方なんて・・・」
ドモンの提案にウェダーは大反論。反論しながら、何故か薄っすら涙が出た。
不思議と今までの全てが報われるような気がして、高鳴る胸の鼓動を抑えきれなくなってしまったのだ。
それから数日間、ドモンはコロッセオに土俵などを作るために各方面に奔走。何せそれを知る者がドモンしかいないのだから仕方ない。
ウェダーとライデンの姉弟は、仲の良い格闘家達やアーサーやミレイにも協力してもらいながら猛特訓。もちろんその指示もドモンが行い、ドモンが知り得る全ての技を教えていった。
試合にはナナとサンも出場することが決まり、向こうで購入した水着を着て練習して汗を流し、シンシアと大魔法使いは審判として知識を身につけた。
そうして一週間はあっという間に過ぎた。
審判長が行った宣伝の効果もあるが、審判長が負けたことや、様々なことに尾ひれがついて噂はあっという間に広まり、かなりの田舎にある村だというのに、大勢の旅行者がやってきた。当然新型馬車も、それに一役買っている。
試合の行われる前夜は、数万人の観光客が村の名物である肉料理に舌鼓を打ちながら、試合について熱く語り合っていた。
料理の方もドモンが少しテコ入れし、カールの屋敷で子供らと作ったマーマレードを使用したスペアリブや、最近この村にも流通し始めた醤油を使用した角煮などの販売も開始。
元々良質な野生の猪肉を使用したとあって、それだけでも観光客は大満足。
村の長である審判長も税収が増え、ホクホク顔であった。
「ガッハッハ!やはりドモン殿にこの村を任せても良いのではないか?この村、いや、この街が発展していく未来しか見えんわ。見よウェダー、ライデンよ!すっかり夜も更けているというのに、街が昼間のように輝いておるぞ!」
高台の大きな屋敷の窓から、オレンジに輝く街を見下ろした審判長。
闘技場の収容人数は五万人を超えるが、少なくとも審判長には、満員になった記憶はない。
「まあ、あの人なら当然よ。一週間顔を合わせてよくわかったわ。異世界の知識も凄いけど、判断力と機転の利き方が異常なのよ」
「元々ギャンブラーだったって言っていたからな」
審判長の左右には、今日の特訓を終えたウェダーとライデンが並ぶ。
審判長とライデンは明日試合をやる者同士だが、別にわだかまりがあるわけではない。
母を早くに亡くし、どちらかと言えば『ある意味』過保護に育てられたとも言えよう。運動系の一家にありがちな。
「モグモグング・・・そりゃ無理ってもんだよ審判長。ドモン様は貴族どころか王族として迎え入れて、領地をやると言われても断るし、なんなら国王陛下直々にこの国を治めて欲しいと頼まれても、あっさり断るくらいなんだから」口いっぱいにスペアリブを頬張るミレイ。
「人の上に立ちたいって欲がないからな、ドモンさんは。こっちの肉も美味しいな」とアーサーも食事を楽しむ。
勇者パーティーは審判長の屋敷に宿泊中。
ドモンらも当然呼ばれていたが、久々に夫婦水入らずで過ごしたいというナナの願いで、車中泊となっている。
夫婦水入らずが四人というのもおかしな話だが。
「でも勘違いしてはダメよ?良いところもあるけど、中身はスケベな遊び人なんだから!一昨日は、お店で柔道とかいう異世界の格闘技の『抑え込み』という寝技を教えてやるって、店で働く女の子達全員にスケベなことをして、大変なことになったんだから!」現場を見てしまったソフィア。
「ま、まあ女の子らは皆喜んでおったしの・・・奥方達に見つかり、すっかり酷い目にあわされておったが・・・」大魔法使いもその凄惨な現場を目撃した。
「次の日、ナナさんの上四方固めで死にかけたってドモンさん言ってたっけ?どんな技なんだろ?」不思議顔のアーサー。
「さ、さあ」「あれは恐ろしい技だね。特にナナさんのあの技からは、男は絶対に逃げられないと思う」
翌日、道場でドモンが改めてお仕置きされていた現場に居合わせた姉弟。格闘技の技の世界の奥深さを知る。
窒息死寸前で「良い子は画像検索するなよ・・・絶対だぞ・・・」という謎の言葉を残し、幸せそうに意識を失ったドモンの顔が頭から離れない。
「まあ私もリングであの技を使うことあるかもしれないけどね。あんたはないだろうけど」
「確かに姉貴はそうだな」
「リング??そう言えば闘技場に、支柱のようなものが立てられていたが、あれのことか?」
「明日になればすべてわかるわ。さあ、明日に備えてそろそろ寝ましょう」
「そうだな。明日、俺は必ず・・・」
「まだ・・・まだ負けるわけには行かぬ」
それぞれがそれぞれの想いを胸に、皆眠りについた。
ようやく帰宅。これから2日に一度は更新するつもりだけど、話のストックが尽きているのにはかわりがないので、もし飛んだら普通に間に合わなかったと思って下さい。
時間だけはあったから、軽めのノートPCでもあれば進められたのにな。
あと序盤の入院中に書いた箇条書きっぽい文章の書き直しも同時進行中。