第655話
「ミレイ先輩はそこで見ていてください。さあいつでも来い!そんな短い棍棒で何が出来るというんだ!来ないならこちらから先に・・・」
「待て待て慌てるな!まずはこの武器が何かくらい知ってからにしてくれよ!」
有無も言わさずドモンの脚を蹴りに来た女の子。
ドモンは間一髪のところで避け、大慌てで女の子を止めた。観客達はその行為に大ブーイング。
「まずはそうだな・・・ミレイに使ってみるから、その反応を見てからでいいだろ?ミレイも『降参』したかったら素直に降参するんだぞ?」
「ハハハ!アタイが降参なんてするわけ無いだろう。そんな子供騙しの玩具なんかに負けはしないさ」
「おいおい・・・」
ドモンに挑発されたと勘違いをし、すっかりこの試合の趣旨を忘れてしまったミレイ。
やはり闘いの場に立てば、つい負けず嫌いで諦めない性格が出てしまう。
「ちょっと待って!アレって試作品の中で一番の失敗作じゃ?!」ドモンの手に持たれた道具を見てナナが叫ぶ。
「あぁ!本当ですぅ!危険ですよ御主人様!」思わずドモンに向かってサンも叫ぶも、ドモンはニヤリと笑うだけ。
「あれはなんなんだい?」と問うアーサー。
「あれはドモン様が道具屋のギドに製作させた、激しく振動する機械ですわ。ですが今持っているのは失敗した試作品で、少し皮膚に触れただけで、数分はその場所が痺れ続けてしまいますの」シンシアが懇切丁寧に説明。
「体の一部が痺れたくらいでは攻撃は止まんないと思うけど。パンクラティアストは腕が折れても闘い続けるからね」アーサーはヤレヤレのポーズ。
「そうね。それがお股じゃなければね。私からはそれ以上何も言えないわよ。サンとシンシアも言わないでよね!」ナナが目線を逸らしながらフンと鼻息をひとつ。
「はい・・・」「言えませんわ。いくらワタクシでも。サンにまで八つ当たりして同じ目に合わせたこと、ワタクシはまだ許してませんから」
「・・・・」「・・・・」「・・・・」
ナナとシンシアの会話と、真っ赤な顔を手で隠したサンの様子を見て、ある程度どのような惨状だったかを察したアーサー達。
本来は肩や腰のコリをほぐすものだとサンは説明したが、完全に焼け石に水で、もう誰も信じなかった。
「じゃあミレイ、両手を頭の後ろに組んで、両足を肩幅程度に開いてくれ。キツイ時は素直に降参しろよ?」
「だから降参はしないと言っただろう!さあ来い!」
「・・・ではまず右のワキから行くぞ。ナナにもやったことがない最大でっと・・・ほれ」
「ぬおっ!!!!!!!く・・くく・・・ぐは・・・」
ドモンがミレイのワキに当てたのは、魔石モーターを使用したマッサージ機。
手に持っているドモンの両腕すら痺れる超高速回転と超振動で、当てた部分とその周りの神経を揺さぶるものだ。
その加減をドモンはギドに上手く説明出来なかったため、試作品第一号は大失敗に終わった。
ドモンが今使用しているのがその一号機。
あのスケベなナナが地獄を見て「二度とごめんだわ」と言うほどの威力である。
観客達はあのミレイが初めて悶絶している姿に、驚きの声を上げた。
そしてその武器がとんでもない威力があることも理解した。
「次は反対側のワキだ」
「ま、待ってくれドモン様!まだ右の脇腹が痺れちまって、身体がおかしなことになってるんだ!ち、力が・・・」
「そりゃまあそうだろうな。ほら!あ、胸に当たっちまったか」
「ぬぅぅぅんっ!!だめっ・・・グギギギギギ!!」
ドモンも自ら少し試したことがあるが、ほんの数秒で正座を一時間して痺れた足と同じくらいの痺れが残せることを知った。
それを身体の至る所で起こすことが出来てしまう恐怖の機械である。
こんな物をもし大事なところなんかに使用すれば、しばらくは自分が小便をしているのかどうかもわからなくなるだろう。
お尻は特に危険であることは、どこかの誰かと誰かが身を持って証明済み。何があったのかは詳しく書けないけれども。
「次は腹かな?それともこの先っぽをイヒヒ」
「頼む待ってくれ!今日は両親も来ているはずなんだ!だから・・・」
「下腹部にしよう。ほーら」
「イヤァァァン!!ヤメテェ!!もう無理だぁ!!!」
聞いたことがないミレイの叫び声に、思わず目を見開いた対戦相手の女の子。
観客達も騒ぐどころか、静まり返った。
「降参かな?最後は更にこの下の敏感な場所にやろうと思ってんだけど」
「降参だ!降参する!!アタイの負けだドモン様!!もう勘弁してくれ!!ウゥゥゥ」
体のあちこちに痺れと苦痛と、そして得も言えぬほどの快感に襲われたミレイは、ついに降参した。
下腹部にマッサージ機を当てられて内臓を揺らされ、ミレイは心の底から恐怖を感じたのだ。
自分の体が自分のものではなくなる恐怖。
子を産めなくなるのではないかという恐怖。
人間の尊厳をすべて失う恐怖。
それらが死よりも恐ろしいと感じ、降参をした。
ドモンの最後の攻撃を受けていれば、どうなっていたかはあまりにも明白。
ミレイはついに意識を失い、その場に崩れ落ちた。
「さあ観客の皆さん!ミレイは勇者も逃げ出すほどのこの攻撃に三度も耐えた!当然三度耐えた者など、このミレイ以外にはいない!ミレイに盛大な拍手を!」
「よくやった!」「スゲェよあんたはやっぱり!」「ミレイ!ミレイ!」
ドモンの口車に乗せられて、なんだかよくわからないままミレイを称えた観客達。
裏では勇者が「くっ・・・そんな事やってないのに・・・いいよ!後でやってやる!」と息巻いていたが、「ヤメといたら?泣きべそかくわよ」とナナに煽られ真っ赤な顔。
「そして今からこのミレイに挑戦するのがこの娘だ!攻撃を四度耐えられれば、ミレイを超えた存在となれるぞ!」
「やれやれ!やってやれ!」「負けるなー!」「お前は期待の若手だ!」「素晴らしい勇気だぞ」
「え?あの・・・は?」
どんどんとドモンに乗せられていく観客。
一番近くでミレイの惨状を見て、どうやってこのドモンの攻撃を避けながら反撃をすべきか考えていた女の子は、思ってもいない展開に驚きの声を上げた。
そもそも、どんな武器かを知るためにミレイとのやり取りを見ていろと言われただけで、自分が攻撃を受けるとは一言も言っていないのだからそれも当然。
「みんなお前に期待してるみたいだぞ?さあ両手を頭の後ろに・・・」
「どうして!どうしてこんなことに?!」もうやるしかないと覚悟を決めた女の子。
「ミレイと同じように右のワキからだな。ミレイみたいなことになりたくないなら降参するんだぞ?」
「誰がするか!先輩だって最初は耐えたんだ!」
両手を頭の後ろにやり、女の子は歯を食いしばる。
女の子の来るなら来いの姿勢に、観客はこの日一番の歓声を上げた。