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第650話

「バカバカ!ドモンのバカ!勝手にどこ行ったのよ!!うっうっ・・・」


エルフの能力でドモンの気配を探るも、動揺していているのかどこにいるのかわからない。

エルはエルフの里を出て迷いの森の中に入り、何度も「ドモーン」と叫びながら、それらしき足跡を探しつつその後を追った。


「うん?これは・・・ドモンのタバコのニオイ?・・・近くにいるの?」


新鮮な森の空気の中で薄っすらと感じる異臭。

目を瞑り集中し、スンスンクンクンと鼻を頼りにニオイを追う。


「ニオイが近い・・・近いわ・・・ドモン?いるんでしょ?私伝えたいことがあるの」

「バ、バカ!来るな!」

「どこ?どこなの?クンクン」

「あぁ~こっち来ちゃ駄目だってば!あー」

「スンスンスン・・・クッサ!!あ、うんち・・・」


倒木に腰掛け、ペロンとお尻を出して座っていたドモンを見つけたエル。

スープばかりで完全にお腹を壊しドモンはひどい下痢になっていて、何度もトイレに駆け込もうとしたものの、里中のエルフが集まっていた為なかなかトイレが空かず、意を決し手紙に別れの言葉を書いて飛び出したのだった。


エルは完全に『お食事中の方はお気をつけください』のシーンを目撃してしまった。

胸いっぱいにそのニオイまで吸い込んで。


「い、今魔法で綺麗にしてあげるから」

「いやまだ出るから・・・ハァ・・・あのあっち見ててくれる?」


ドモンは両手で顔を隠すも、もう地獄にいる気分。

お尻洗浄機のように起用な水魔法で、エルにお尻を洗ってもらった。

そそくさとパンツとズボンを上げ、ドモンはもう一度大きなため息。


「それで伝えたいことって?」

「う、うん・・・ほら・・・ドモンの寿命についてのことなんだけど・・・」

「それはまた今度でいいよ。好きな人がいるんだろう?どこにいるのかとかわかってるんだったら、一度会いに行ってこいよ。それでもしフラれたら、その時は宜しく頼むからさ」

「あ、会えるわけないじゃない!それにどこにいるのかも知らないし。きっと今も世界を旅してるんじゃないかしら?でももういいのよそれは」

「良かないよ」


ドモンの汚物もエルの魔法で流し、倒木に腰掛けたふたり。

ドモンがタバコを咥えると、エルは指先から小さな炎を出して火をつけた。


「名前とか何をしてる人とかはわかるのか?有名な人とかそうじゃないとか。ある程度わかるなら、俺から王様に頼んで探し出してもらえるかも知れないしな。で、見つかったらここまで来てもらえばいいじゃないか」

「探し出したとしても、もうこんなところには来てくれるはずないよ。だって前に迷った森なのよ?それに忙しいわよ絶対」

「なんで忙しいってわかるんだよ。どこにいるのかもわからないってのに」

「だって勇者様だもん」


ブッと吹き出し、火のついたタバコを1メートルほど飛ばしたドモン。

エルが拾いに行って、軽く土を払ったあとドモンの口へ戻す。

ちなみにエルフは魔物側でも人間側でもないため、勇者が魔王と敵対していても特に何も思わない。


「それだったら・・・きっとすぐに会えるぞ。でもあいつはもう結婚もして・・・」

「知っているわ。パーティーの賢者様と勇者様を、どこかの誰かが結ばせたって噂を聞いたし。だから私ますます塞ぎ込んじゃって」

「・・・・」

「それでもやっぱり一目会いたいというか、少しだけでもお話できればなぁってずーっと考えてたんだ~エヘヘ。ま、もう別にいいんだけどね」


当然アーサーとソフィアを結んだのは、ほぼドモンの仕業である。

気まずいどころの話ではない。


「迷いの森ってあとどのくらいで抜けられるんだ?」

「私がいれば五分もかからないわよ。だからついて行ってあげる。もし獣が出ても、私が特大のファイヤーボールをお見舞いしちゃうから安心して。私の魔法はエルフの中でも結構すごいんだから。私を怒らせたら、この森ごと一瞬で燃やし尽くせるほどなの」

「あ、そ、そう。それは助かるなぁ・・・助かるのか?俺」

「うん?なぁに?」

「いやなんでもない」


歩くこと十五分で森の出口へ到着。

予定よりも遅くなったのは、ドモンの膝が悪いことも原因であったが、一番はドモンの足取りが重かったから。


アーサーと対面すれば、ドモンのせいだったという事もすぐにバレるだろうし、自分の事を多少なりとも好いてくれているんだろうなぁとドモンも察していたが、考えてみれば自分が既婚者だということも話していない。

そもそもサッと行ってエルフの秘薬をサッと頂いて、すぐに帰るつもりだった。だから余計なことは話さない方が得策だと考えていたのだ。



「やあドモンさん!無事戻ってきたんだね」「無事たどり着けたのね」と言いながら、アーサーとソフィアがドモンの元へ。

「随分かかったじゃないの!大丈夫だった?その娘に送ってもらったの?エルフなの?」ナナもドモンに駆け寄った。


それらの様子をポカーンとした顔で見つめるエル。

誰かが待っているというのは知っていたが、目の前にあの勇者が立っていたからだ。


「あ・・・のさ、アーサー・・・この女の子はエルフのエルっていうんだけどその~・・・」まごまごとエルに紹介したドモン。

「あぁはじめまして、俺はアーサー。一応勇者を名乗らせてもらっているよ。そしてこっちは妻のソフィアだ。同じパーティーなんだけど、ドモンさんのお陰で最近結婚したという縁もあって、ドモンさんと仲良くさせてもらってるんだ」


言って欲しくない全てのことを一気に言い放つアーサー。


「私はナナよ。あなたがドモンのことを治してくれたの?変なことされなかった?うちの人本っ当にスケベなもんだから」握手をしようと右手を差し出したナナ。

「私はサンです。この度はありがとうございました!すごくお綺麗な方で驚きました~」駆け寄るサン。

「ワタクシはシンシア。このナナとサンと共に、ドモン様の妻としてお傍に置いていただいている者ですわ。一応第三夫人・・・ということになっておりますが、ワタクシの心も体もドモン様の一番であると自負しておりますの」エルの美しさを見ていち早く危険を察知し、少しでも優位に立とうとしたシンシア。


伝えなくてもいい情報をすべて伝えていくドモンの妻達。

「一番は私に決まってるでしょ!」「サンは三番でいいです」ナナはすぐに怒り、サンはニコニコ笑顔でドモンの荷物を受け取った。


エルは手を差し出した勇者と握手することもなく、両手を腰に当てて空を見上げ「フゥ~・・・なるほどね」と大きなため息を吐いた。





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