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第645話

「挨拶しなさい!ドモン様がいらっしゃったのよ!」ドンドンとドアを叩く母親。

「・・・・」

「あー無理にそんな事しなくていいから。若い時は親のそんな態度にも嫌気が差すことあるんだ。俺なんて50だけど、今でも親にドンドンされるの嫌だものハハハ」そう言いながら、ドモンは両親に部屋に戻るように指示をした。

「・・・何よ、同い年じゃない・・・」


部屋の中から小さく聞こえた若い声。

ドアのこちら側でエッと驚いた顔をしたドモンと、ドアの向こう側で少しだけホッとした顔の娘。

ドアを挟んでお互いになにか勘違いをしている模様。

ともかくドモンはここがチャンスだとばかりに自ら話しかけた。


「少しだけ話をしてほしいんだけど・・・いいかな?」

「・・・・」

「なんかすまないな。俺のせいでもあるんだろ?本当なら俺もこんな無理強いなんかしたくないんだけどさ、ちょっと切羽詰まった事情があって、お前に助けてもらいたいんだよ」

「・・・・」


ドモンは何度か呼びかけ続けたが、娘からの返事はない。

完全に拗ねてひねくれ、恨んで投げやりの反抗期状態。まったくチャンスではなかった。


話すのが嫌なら手紙でのやり取りでもいいから、とにかく何か反応して欲しいと頼んでも駄目で、完全に手詰まりのお手上げ状態。

お近づきのしるしにと、いくつか持ってきたお土産の中のひとつを渡そうとしてもそれすら拒否。


たとえ異世界のお土産であっても、自分を襲いに来たのと変わらないような知らない人に対して、心のドアも実際のドアも開くわけがない。



どうにもならないまま数時間が過ぎ、ついには日も暮れてしまい、ドモンは平謝りする両親と共に食事を取った。

食事は素朴な味の野菜のスープだけで、ドモンの腹は満たされなかった。


エルフにとってはこれで十分で、食事を楽しむ習慣もあまりない。

人間の三大欲求である内の睡眠欲があるくらいで、食欲も性欲もそれほどない。

これは単に『何かを楽しむ』といった習慣が身についていないためで、しっかり身についてしまった占いの婆さん達の方が異例である。


楽しむことに無頓着で、そのため娯楽も少ない。

たまたま服飾用に溜めていた白と黒の小石が目に入ったドモンが『五目並べ』を夫婦に教えたところ、夢中になって遊び続けていた。

ただただ無頓着なだけで、娯楽に興味が全く無いわけではないのだ。


その後始まった娘との二回戦に、子供用のおもちゃをいくつかドアの隙間から差し込んでみたものの、すぐに突き返された。

ポケットから何か探しては差し出し、突き返されるの繰り返し。


その中でひとつだけすぐに返ってこなかった物。ドモンが予備に持ち歩いていたスマホである。


てらてらと光る黒い画面に反射している自分の顔に、胸が踊るなにかを感じたらしい。

ドアの向こうから小さく「なにこれ・・・」とようやく声が聞こえた。


「右側にボタンがふたつあるだろ?それは確か下の方のボタンかな?5秒くらい押し続けてみろ」

「・・・・キャッ震えた!あ・・・」娘も思わず声を出してしまった。

「なにか文字が出た後色々出てくるから、画面を横になぞってみろ」

「キレ・・すごっ・・・ムグググ」


明らかに慌てて口を手で押さえたのがわかり、ドモンも口に手を当て笑いを堪えた。


「下の方に4つ絵が描いてあるだろ?カメラの・・・ってわからないか。四角の中に丸が書いてある絵が確か右下にあるはずだから、それを人差し指でポンと押してみろ」

「ひっ!!・・・ムグググググ」

「あっはっは!自分の部屋が映っただろう?じゃあ今度は、その中にさっき言った絵に、丸い輪っかがくっついたような絵があるから押してみろ」

「あっ私!!ウググググググ!!!」


もちろんドモンが指示をしたのは、自撮りのやり方である。

その後少し悪戦苦闘しながらもシャッターの切り方を教えると、部屋の中から何度もカシャッというシャッター音が響き渡り、アルバムの見方を教えると、今度は何度も何度も「ムフ」というなんとも言えない笑い声が聞こえてきた。


少しだけ開いた心の扉。ただし実際のドアはまだ開けてはくれない。

スマホの使い方に対してのみ簡単な返事は返ってくるが、普通の話はやはりまだ駄目。


時刻はもう0時前。リビングからはまだパチンパチンと石を置く音が響いている。


「ホーム画面への戻り方はもう覚えたな?そこに戻って、真ん中あたりになんちゃらCHATってのがあるだろ。英語わからないかな?手を握ってるような絵があるだろ?それを押してくれないか?」

「・・・・」

「それで離れた場所の人と文字のやり取りが出来るんだ。向こうの若い女の子達は、そうやって友達で話したりするんだよ。やってみないか?」

「・・・・」


オフラインでも使用できるチャットアプリを、この前向こうの世界に戻った際にフリーのWi-Fiスポットで全てのスマホに入れてきた。

遠距離では使用できないが、Bluetoothが繋がる距離であればメッセージの送信が可能なので、なにかに使えるのではないかとドモンは考えたのだ。


戻ってきた時に早速使用してみたが、10メートルも離れれば接続が切れてしまい、ナナに「大きな声で呼んだ方が早いわ」と笑われて終了。

しかし今日この日、ようやく出番が回ってきた。


使い方や文字の打ち方を口頭で説明すると、すぐに『わかった』とメッセージが飛んできた。


『面白いだろ』

『すごいじゃないこれ!手紙を飛ばせる魔法みたい!ちょっとドキドキしちゃったわ(*^^*)』

『文字打つの早っ!それに顔文字まで』

『こんなの簡単よ、顔文字ってここに書いてあるじゃない。おじさんは苦手なんでしょうけどね(ノ∀`)アチャー 女の子はこういうの得意なのよ』

「えーっと、とつ・・・」急ぎすぎて思わず声を出してしまうドモン。

『早く文字打ってよ!やっぱりおじさんって遅いのよね!』

「早すぎだろマジで・・・」


驚くべき速さでメッセージを飛ばしてくるエルフの娘。

ドモンがメッセージを打ち込んだ数秒後には、何倍もの文字数で返事が返ってくる。一体どんな方法で打っているのか?

それにしてもチャットだと案外おしゃべりである。


『突然押しかけてきて悪かったな。にしても俺と同い年って、お前もおばさんじゃねーか』

『は?失礼ね!あなたと同じ歳だって言ってもエルフは違うもーん。はいこれ私』


先ほど自撮りした画像をどうやったのか、ドモンに送りつけてきた娘。

若いエルフ達は皆美人だったが、その中でも桁違いの美しさと可愛らしさ。

ナナやシンシアも美人であるが、サンでようやく抵抗が出来るかどうか?のレベルであった。


『え?!エルフってどうなってんだよ。これで俺と同い年って・・・お前の親達は一体何歳なんだ。俺よりもかなり若く見えてたってのに』


エルフのお肌の曲がり角は、大体80歳くらいから。

それが人間でいうところの20歳なのだから、エルフの50歳は人間の女子高生程度と変わらない。

ドモンは占いをしていた婆さんエルフ達の年齢が気になった。関係を持ってしまった手前、実際に聞きたくはないが。



時間は午前三時。流石に石を打つ音も聞こえなくなり、耳に入るのはお互いの吐息のみ。

ドア越しに背中合わせで二人は床に座り、スマホでやり取りを続けていた。


ふと見れば、ドモンのスマホのバッテリー残量は残り17%。ドアの向こう側からもブブッ!という音が聞こえたので、恐らくバッテリーが切れかけているのだと思われる。

ようやくお互いの距離が縮まってきて、これからだというところだけれども、もう本題に入らざる得ない。


『もうはっきり言うよ。俺を助けてくれないか?必ずエルフ達に恩は返すから。このままじゃ数日ももたないんだ』

『私、あなたのことなんて知らないわ。みんなは救世主が来たとばかりに大騒ぎしてるけど』

『俺だって知らないよ。でもお前の気持ちは良くわかってるつもりだ』

『あなたに何がわかるっていうの?!ふざけないで!!』


午前三時に始まった無言の喧嘩は、空が薄っすらと白味がかってもまだなお続いていた。

バッテリー残量は3%と5%。





体調も良くなり・・・・飲みに行ってた(笑)

話のストックはふたつくらい出来たから・・・



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