第644話
「お名前から分かる通り、ドモン様は悪魔の上位種であり・・・」
「ブホッ!!えっ名前??俺の!?」
「ええ、グレーターデーモンでございます。この世界では最上位種となりますよ」
「いや最上位とか知らんけど、暮田土門ってまさか・・・クレタドモン、クレータドーモン、グレーターデーモンってか?・・・はぁ?冗談だろ・・・」
汚してしまったテーブルをせっせと拭くエルフ達だったが、ドモンはそれどころではない。
悪魔だというのは薄々わかっていたが。
だが問題はそこではなく、50年以上も前に、ドモンにそんな冗談みたいな名前をつけて遊んだ奴が、元の世界にいたということ。
目を瞑って腕を組み、頭の中で情報を整理していく。
「・・・だから、あの絶壁の六芒星の光がひとつ欠けていたのか。いつかは知らねぇけれど、50年よりももっと前にあの壁を通って、元の世界にやってきていたってことかその悪魔が。で、俺を作ったと。俺は1972年生まれだけど、73年からオイルショックになって、世界がメチャクチャになったのってそいつのせいじゃないだろな?」
「・・・・」「・・・・」「・・・・」
エルフ達も恐らくそうだとはとても言えない。
世界を混乱させることなど、グレーターデーモンにとっては、ほんのいたずら程度の話であるからだ。
「俺は父親の顔も名前も知らずに、いないもんだと思って育ってきたけど、いたんだなハハハ。ハァ・・・どうやって俺の母親と」
「あちらの世界でのことまではわかりかねます」
嘘のような話だが、あちらの世界にやってきた悪魔が『グレーター』に近い名字の女を探し出し子を作り、『デーモン』に近い名の『ドモン』と名付けるようにと命令して消えたのだろう。
ちゃっかり家中の金をすべて奪い、借金だけを残して。
「それで俺をここに呼んだ理由ってのは?そのグレーターデーモン様に媚びを売るためって理由でもないんだろ?」
「もちろんそれも少なからず理由のひとつとなります。私達は弱き者でございますから、お味方になっていただければそれだけで心強いですし。ですがそれだけではございません」
「なんだ?」
ドモンは少し怪訝そうな顔。
こういった時は大抵面倒に巻き込まれる事が多いが、今回ばかりは仕方ない。自身の命がかかっているのだ。
「我らを・・・ドモン様のお知恵で、我らを救っていただきたいのでございます!」言葉に力を込める長老。
「私達の娘が部屋から出なくなったのも、ある意味それが関係しているのです」娘の父親も深刻そうな顔。
「ひとつは人間達に常に狙われていること。怯え、そして隠れ住み、これではまるで逃亡者です。そして私達を巡って人々が殺し合いまで行ってしまう。それがとても耐えられません」
「ただただ虐殺されていたゴブリン達とは、これまた違った事情だな。争いまで起こるとなれば」
「えぇ・・・私達ではどうにもならないのです。どうか!どうかドモン様のお知恵をお貸しください!」
「知恵ったって、俺にだって出来ることと出来ないことがあるっての・・・こっちのデーモン様は大した力はないんだから・・・」
懇願した長老、そしてエルフ達。
エルフから見ればドモンは上位種の悪魔だろうが、ドモンにしてみれば自分は、向こうの世界のある程度の歴史と知識しかないただの遊び人だ。ドモンはウーンと唸り声を上げた。
ちなみにエルフとのやり取りで、魔物達がどうして自分に対してあんな態度を取っていたのかも、ドモンはようやくわかった気がした。
魔物達からすれば、ドモンは『魂と引き換えに願いを叶えてくれる悪魔』を呼び出したようなものなのだ。
だから媚を売ったり崇めたりする者もいれば、嫌悪し反発する者もいる。
多少のわがままやスケベなことに対し仕方ないと納得し、味方になってくれたことに感謝をしていたのだろう。
また、弱い魔物にはその気配しかわからず、ドモンに対して軽い態度で接していた。
オーガクラスともなれば、一族、そして一国をひとりで滅ぼすという悪魔の力はひしひしと伝わっており、その上のグレーターデーモンともなれば、主として崇めひれ伏すしかなかったのだ。
「ひとつはってことは、まだ他にも?」
「はい。長命により、元より出生率が低かった我らエルフですが、人と交わることを禁じたため、ますます数を減らしてしまったのです」
「人と交わるって・・・人間とセッ・・・スケベしてもエルフって生まれるの?ハーフエルフってやつになるんじゃないの?」
「えぇ。ですが我らの血は強いものですから、エルフとハーフエルフが結ばれれば、またエルフが生まれるのです。ハーフエルフ同士であっても、半分の確率でエルフとなります」
「へぇ~、クォーターってやつになるんじゃなく、エルフに戻るんだ」
人間であっても、遺伝子的に有色人種の影響力はかなり強く出るようになっている。
恐らくそのようなものなのだろうとドモンも納得。
「でも出生率が低くてそんなことやってたら、周り中が親戚同士になって近親婚ばかりになるんじゃ・・・そうだとしたらかなり危ないぞ?」
「はっきり言ってしまえばその通りです。それによって我らは更に数を減らしてしまい、近親婚も禁止したところ、もう手の打ちようが無くなってしまった訳です」
「先ほど紹介した私の娘も、私の弟に恋をしていたようですが当然叶わぬ恋であるため諦め、十数年かけてようやく立ち直り、今度はひとりの人間の青年に恋をしたものの、それはやはり禁じられた恋。で、立ち直れないほど落ち込んだところで・・・その」と気まずそうな顔をした娘の父親。
「そして白馬の王子様を待っていたら、おじさん悪魔がやってくるよって知らされたか」
「えっと・・・まあそのような感じで塞ぎ込んでしまって・・・」
「どの道その娘がいなけりゃ俺の命も尽きるだろうし、最初の相談もそうしないと乗れないからな。あとで一度話をしてみるよ」
ドモンはハァと大きくため息をつき、その娘の両親と共に早速家に向かった。
また膵炎らしき症状で倒れてしまい(前回の更新時間が妙な時間になっていたのはそのため)、ちょっとこの先の更新がどうなるかわかっていない状況。
症状的には軽いものだったのでほぼ回復済みなんだけれども、話のストックがほぼゼロになってしまった。
更新予定日に更新がない時は、間に合わなかったかぁくらいの感じで笑って許してやってください(笑)