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第640話

「ザックとジルのアップルパイも食べてきたのですねウフフ」

「あぁ本当に美味しかったよ。ゴブリンってのは本当に器用なんだねぇ。私達も器用な方だと思ってたのにさ」


王都への道中の道の駅で、ゴブリン達と会話をするサキュバス達。

ギドに入れ歯を作ってもらった母がいるゴブリン達である。


「それにしてもなんて素敵なお召し物!寸法を測ってもよろしいですか?」

「胸が大きいと似合わないってドモン様は言うんだけどさ、こうして胸の下で締めれば太って見えることはないでしょう?ドモン様ったら心配しすぎなんだよ」


帯代わりにしている服をキュッと締め直したサキュバスの姉。

謙遜してるのか自慢しているのかわからないけれど、すっかり打ち解けているのは確か。


ここら辺りまでくれば、騎士や侍女達、他の魔物との交流にもすっかり慣れ、その土地の名物を食べたり会話したりを楽しめるようになってきた。

何かと心配していた森に残る仲間達に、悪い気がしてくるほど。


あとは一般的な人間に慣れるだけだが、それは全てが解決するまではやはり無理。



「もう出発なさるのですか?」「もっとゆっくり・・・も、していられないか。その事情なら」チラッとサキュバス姉妹の一番下の妹を見たゴブリンの青年。

「仲間達を救うことが出来たら、また今度ゆっくりしにくるわ」「そうそう!今度こそゆっくり・・・ね?」モジモジしながら青年を見たサキュバスの妹。


小さな恋の予感を感じさせながら、一行は道の駅を出発し、ドモン達の家がある王都の近隣の街へ。


「あ、あれが噂のドモン様の塔?!」「想像していた何倍も大きい!」「すっごい人がいっぱい!」

「そうさ。あんな物を作らせるなんて、やっぱりあの人どうかしてるよハハハ。それと、あたしとあの人が出会ったのもこの街なんだ。あたしの人生はそれで全部変わっちまったのさ・・・良い方にだけどね」


懐かしそうに色街があった方角を見つめたエイ。


「初めてドモン様に出会った時はどんな会話を?」

「え?!そ、そうさねぇ・・・もう昔のことなんで忘れちまったよ」


血だらけで転がるドモンにおしっこをかけようとしていただなんて、今は絶対に言えない。

いつかバレそうな気もしているけれども。



馬車はそのまま王都の門を通過。

流石に今回は通行の許可など不要で、あっという間に馬車は通過したが、皆どこかの国のお姫様がやってきたのだろうとしか思っておらず、文句の声も出ない。


そしてそのまま馬車は王宮、そしてその中心の王城へ一直線。

異例中の異例ではあるが、ドモンの手紙があるのでそれも当然。


「アワワワ・・・本当にお城の中に入っちまった・・・」「護衛してくれてた人達もここまでは入れないんだ」「心臓が口から出ちゃう」

「ここはいつ来ても落ち着かないね」


ここではエイの口数も減る。

サキュバス達はギロチンに首を突っ込んだ気分。

何かをやらかしてしまえば人間ですら首が飛ぶのだから、魔物ならば尚更。


四人はそのまま謁見の間へと通された。


「よくぞ参った皆の者。手紙は預かっておるぞ」


威厳を示したトッポの前に跪いた四人。

向こうの街やドモンの前で話すトッポとは違っていて、エイも心を引き締めた。


「なーんて堅苦しいのはここまでにしましょう。ようこそいらっしゃいました。まあ僕もホビットの街から昨日帰ってきたところなんですけどね」

「こらトッポ!ダメじゃない!」「へ、陛下」


態度が急変したトッポに思わずずっこけた四人と、呆れたように注意したチィとミィ。

「まあいいじゃないですか」と、トッポは脱いだ王冠を執事に手渡した。


「エイさんは何やら傑作が出来そうだとか。それはもちろん譲っていただけるんですよね?」

「まだ完成しちゃいないよ。ただ出来上がった暁には、この子達のためにも高値で買ってほしいとは考えてるさ」

「まあそこはまず完成したものを見てからですが・・・自信あるその顔を見る限り、言い値で買い取るしかなさそうですねハハハ」

「なのでまた静かな部屋を一室と、画材を貸してもらいたいんだ。特に染料は特別なものを用意してほしい」

「わかりました。すぐに準備させましょう」


エイとはここで一旦お別れ。

サキュバス達は何度も頭を下げて礼を述べた。


「さて・・・ドモンさんからの手紙によれば、奴隷となっているあなた達の同胞を救い出してほしいとのことでしたよね」

「は、はい!そのためにはどうしてもお金が必要で、それで・・・」

「それでドモンさんを騙して襲ったと」

「うっ!」「・・・・」「お姉ちゃん・・・」


表情を変えずに淡々と語るトッポの雰囲気に恐怖を感じ、震えだしたサキュバス三姉妹。

やはりこんな所へ来るべきではなかったと後悔しながら、姉は妹達を抱きしめた。


「あの時は・・・あの時はそうするしか救い出せる方法が思いつかなかったのです。妹達は私の命令で動いただけ。どうか私の首ひとつで許してもらえませんか?」

「チィとミィ以外、出ていってもらえませんか?護衛の騎士の方ももう必要ありません。このふたりがいますからね。サキュバス達に少し問いたい事があるのですが、あなた方がいれば恐らく話しづらいと思いますから」

「ハッ」「かしこまりました」「ハッ!」「はい」


サキュバス達とチィとミィを残して人払いをしたトッポ。

更に静かになった謁見の間は緊張感に溢れ、サキュバス達も息をするのがやっと。


そこからしばらく間があった後、トッポは玉座に座ったまま重い口を開いた。




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