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第638話

「お姉ちゃん無理だよやっぱり」「そうそう!殺されるだけだわきっと!」

「そんなこと言ったって・・・」


ドモンが野盗に襲われてからというものの、街道沿いやその周辺の街には騎士や憲兵が劇的に増え、サキュバス達にとってはますます話しかけにくい状況。

人目から離れるように森の中へと入ったり、顔を隠しながら隠れるように移動したりを繰り返し、結局元の森へと引き返そうとしていたその時、一人の女性に声をかけられた。


「あんた達、随分と奇抜な格好してるねぇ。そんな格好でどこへ行こうっていうんだい?」

「こ、これは貰った服で・・・」「そうそう!これでもまだ目立たない服なの」「お、王都まで観光さ」


流石にサキュバス丸出しの格好や、ドモンから貰ったジーンズを穿いての旅は目立ちすぎるので、前日にドモンからいらない服を何着か貰っていた。

丈の長いガウンのようなワンピースで、どれもこれもナナ達には似合いそうもなく、荷物の奥にずっと眠っていたもの。

元々着ていた服を帯のように巻き付け、見た目はまるで着物のよう。


「へぇ~、ここから王都まではまだ遠いじゃないか。馬車にでも乗ったらどうだい?せっかくのキレイな服が汚れちまうし」

「い、いやその・・・お金もかかるだろうしね」


お金もないが、それよりも人間に話しかけられたり、どこかの検問で身分を尋ねられるのが嫌だった。

気持ち的には、ある意味逃亡者の心理。


「なら、あたしにあんた達の絵を描かせてくれないか?礼なら弾むからさ」

「時間もないし」「急いでいるの」「そうそう」

「そんなに手間取らせないからさ!頼まれてくれよ。この通り!」

「あぁもうどうすれば・・・」



サキュバス達に絵のモデルを頼んだのは、風景画を描くために小旅行をしていたエイ。

言わずと知れた天才画家ホークの娘である。


ただサキュバス達も正直途方に暮れていたということもあり、成り行きに任せモデルになることを了承。

人が少ない森の奥の草原に入っていった。


「あんたら姉妹なのかい。道理で揃って美人なはずだよ。普段は何をしてるんだい?客商売なら男の客がほっとかないね」おしゃべりをしながら筆を進ませるエイ。

「普段は森の中で作物を育てたり・・・」「果実やキノコを採ったり・・・」「歌を歌ったりしてるわ。楽器の演奏は得意なの!」一番下の妹はエイに少しだけ慣れた。


「おや、そりゃいい。その歌と演奏ってのを聴いてみたいもんだね。あ、そうだ!これをその楽器を弾くように持っていてくれないかい?絵の中じゃきちんとした楽器にしとくからさ」エイは拾った木の枝を手渡した。

「別にいいけど」「弾けるのは弦楽器だけだよ」「そうそう!私、こーんな大きなやつが得意!」

「へぇ~!じゃああんたには・・・そこにある大きな岩を楽器だと思って構えてくれるかい?みんなちょっと移動しておくれ」

「いいわよ!これをこうして・・・こんな風にするのよ!」「ほら、あまり動くと絵が描けないよ!ごめんね妹が」


エイの気さくさと、滲み出る優しさと包容力に、徐々に気を許してゆく三人。

あらかたデッサンも終わった頃には皆すっかり打ち解けて、深い話も出来るようになってきた。



「あらま!あんたら苦労したんだねぇ。で、その仲間のサキュバスってのを助けるために、その珍しい服を売るってわけかい」

「えぇ・・・騎士か憲兵にこの手紙さえ渡せば、高く売れるし協力もしてくれるからって言うんだけどさ、やっぱり緊張しちまって出来なくって、帰ろうかと思ってたんだ。サキュバスの私達には荷が重いよ」


「ん?騎士に手紙??なんだかどこかで聞いた話だ。もしかしてその珍しい服と手紙をくれた相手ってのは・・・待って!もう言わなくてもわかってるんだ、あたしには。ドモン様だろ?ハァ・・・あの人も酷なことしてくれるわ」

「え?!知っているの??」


エイは知っている。ドモンも、そしてそれがどれだけ緊張することなのかも。

更にドモンがそれを大した事がないと思っているということも知っていた。


「よし!あたしも乗りかかった船だ!一緒に手紙を渡して、王宮まで行ってやろうじゃないの!」パンと自分の膝を叩いたエイ。

「本当に?!あ、ありがとう!それに一緒に王都まで来てくれるなんて心強い・・・ん?王宮???」「え?」「うん?」


「あの人のことだ。どうせ王城にまで入ることになるから、今から覚悟しておいた方がいいよ」

「いやいやいや・・・なんの冗談?」


エイはサキュバスの姉から手紙を受け取り、そしてモデルの給金として、それぞれに金貨三枚ずつを渡した。


「今は持ち合わせがこれしかないから、残りは向こうについてから払うからさ。とりあえずはそれで美味しい物でも食べておくれ」

「待って!これ金貨じゃない!!」「なにこれキレイ」「お姉ちゃん、キンカってお金なの?」

「いいんだよ。あんたらを描いたこれがきっと高く売れるからね。こっちこそ感謝だよ」


その後この時描いた絵が、エイの代表作のひとつ『三曲合奏図』となり、当然の如くこの国の国宝となった。


友好の証として各国の有名美術館に貸し出しされるほどの人気作となったが、サキュバスの一番下の妹は「どうして私だけ後ろ向きなの!」と長い間、エイの家を尋ねる度に愚痴をこぼすのが恒例になってしまった。





是非『三曲合奏図』で検索して絵を見てほしい。

エイが描いた絵の中でもこれが一番好きかも知れない。

身分も職業もバラバラな女性三人が合奏してる様子はいつか紹介したくて、500話くらい前からずっと考えていた話。


変な話、本物の演奏家と主婦とホームレスがそれぞれプロフェショナルで、ひょっこり街で出会ってものすごい合奏始めたら最高だなって。

それを江戸時代に思いついてんだからエイはなかなかヤバい。



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