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第622話

「すごい・・・言うだけのことはある。悔しいけど流石としか言いようがない」

「よくあんなペラペラと・・・兄さんだっておしゃべりな方だってのに・・・」


芸人兄弟は驚愕し、飲み込まれて一気に萎縮した。

酒のコップを片手にそこまで言えるようになるには、一体どれだけ繰り返し練習したのだろうか?と尊敬もした。


「ねえドモン、あれってドモンがあの時やったやつだよね?」コソコソと耳打ちをしたナナ。

「シッ!黙っとけ。なんかややこしいことになりそうだから」ドモンはタバコに火をつけ知らん顔。


「ドモンもやってみせりゃいいじゃないのよ。あの得意気な顔見てたらイライラするし」

「出来ねぇよ。あの時も言っただろ?あんなのあの場で適当に考えたやつだって。本物ならある程度覚えてるけど・・・ここで披露したら、きっと俺の方が偽物って言われちゃうよ」


「もーもどかしいわね。あいつなんて『ドモンに弟子入りしようとした人の弟子の弟子』って言ってたわよ?そんなのにバカにされるなんて」

「黙って言わせておけって。あんな口上言えたからって、偉くもなんともならないってば」


ドモンにしてみれば、口から出任せで言った言葉の羅列にすぎないため、そこには何の価値もない。

ただの調子のいいおしゃべりが勝手に広まっただけだ。

いつもドモンとおしゃべりをしてるナナにとってもやはりそう。普段のおしゃべりよりはもちろん印象には残っていたけれども。


そんな会話をしてドモン達が前に向き直したところ、若者達が怒りの表情で睨んでいた。

次第に大きくなってしまっていたナナの声に釣られるように、ドモンの声も大きなってしまい、それがスイッチの切り忘れていた拡声器で拾われてしまったのだ。


「言っちゃいけないことを言っちまったなオッサン!」

「おーおー素人さんがイキりやがって」

「いるんだよなぁ~ああいうやっかいな素人さん。自分で出来もしねぇくせに文句言うだけ言うのよ」

「やめて差し上げろって!素人さんだってちょっと張り切ってみたいことだってあるよ!ねぇ兄さん?プッ」


元の世界でもたまにある、中堅芸人の『俺達は素人さんとは違いますよ』という、いわゆる上から目線での素人小馬鹿いじりを始める若者達。

これもドモンは大嫌いで、テレビを見なくなった理由のひとつ。


「本当にやめな、お前達。芸のわからない素人さんにも優しくして差し上げろといつも言ってるだろう。いやぁすまないね。そっちの大道芸人達ならわかって当然だろうけど、素人さんには・・・ね?ハハハ」と言う師匠格の男に、ナナはもうカンカン。


「ねぇ~もう正体明かそうよ!それやったのは俺だって!せめてドモンの名前くらい教えれば、あの人達だってわからせられるでしょ?名前言えば一発だよ」

「馬鹿言え。お前のせいで俺達がなんて呼ばれてるのか知ってんのか?『スケベ男と変態女』って言われてんだぞ?名前なんて知られたら、一生この街歩けなくなるぞ」

「い、いいもん別に!私悔しいよこのままじゃ」

「駄目だって。大体俺は本当に素人なんだから」


小声で言い争いをするナナとドモン。

ナナが暴走気味なため、逆にドモンは冷静になれた。


「いやよいや!」また徐々に大きくなるナナの声。

「こんなところで正体明かしたりなんかしたら、お前のお尻の穴のシワの数から、その横のホクロまで街の人にバレるんだぞ」

「えぇ?!私もお尻の穴の横にホクロあるの?!あんたみたいな???」ナナ大声。

「え?俺もケツの穴の横にホクロあんのかよ!小さいんだよな??うんちくっついてるように見えてたりしないよな?!」ドモンも大声。


幸いふたりとも小さくて可愛いホクロであった。が、この宴会場にいた全員にそれがバレてしまった。

こうなればもう何がなんでも名前を明かすことは出来ない。


妙なあだ名も相まって、宴会場はドッと笑いに包まれたが、ドモン達を小馬鹿にしていた若者達と師匠格の男は面白くない。

宴会場の笑いを打ち消す勢いで、若者達は更にバカにし始めた。


「あーあ。こりゃ勘違いしちまうぞ?偶然笑いなんて取っちまった素人さんは」

「笑わせることと笑われてることの違いもわかっていないだろうしなぁ」

「実際舞台に立たせてみれば、結局何も出来やしないんだよなぁハハハ」


その言葉で宴会場の笑いは、すぐに乾いた笑いに変わった。

場を盛り上げる方法を知っている者達は、場を白けさせるやり方も知っている。


いよいよナナの堪忍袋の緒も切れるかどうかという時に、反論は予想外なところから出た。

先程大立ち回りしていた元騎士のおじいさんだ。


「果たしてそれはどうかな?ワシはその素人ってやつだからわからないのかもしれないが、どうにもあんたらよりは、あっちの兄ちゃんの方が舞台でも上手く立ち回れるような気がするんだがな」

「ムッ!」「・・・・」


元騎士の情報網なのか、ドモンの正体を見抜いたと思われるおじいさんが、不敵な笑みを浮かべながらドモンに目配せをした。

突如追い詰められたドモンは絶望の表情。


「お風呂でも楽しかったものねぇ」「そうよそうよ」「ハハハ違いない」と数名が同調。

「そうよ!あんた達なんか足元にも及ばないくらいドモ・・・この人はすごいんだから!」ナナも同調。


「ほうほうなるほど。じゃあお手並み拝見しようか。俺達のうち、ひとりでも笑ったならあんたの勝ちでいい。宿代からなにから全部俺が持とうじゃないか。その代わりあんたの負けならば・・・そうさなぁ・・・今日から暫く荷物持ちでもやってもらおうか」と師匠格の男。

「宿代も何も・・・最初からタダなんだけども・・・」ぼそっと文句を言ったドモン。


よくわからないまま成り行きで、なぜかドモンは舞台に立つことになった。




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