第619話
「やっぱりこっちにいたのねドモン。私間違って一度寒い部屋に入っちゃって」
「おぉナナか。まさかそんな間違いはしないだろうなと思ってたけど、結局間違ったんだな。お前らしいよ。でもこのガウン着てりゃそこまで寒くはないだろ」
・・・とドモンが寝返りをうち、ナナの方を向き直した瞬間、時が止まった。
壁に忍者のように張り付いて、裸エプロンで立っていたからだ。
「お、お前、なんて格好で来てんだよ!」
「えへへ~すごいでしょ。これでサンにもシンシアにも勝ったわ」
「勝った負けたの話じゃねぇよ!まさかその格好で女湯から来たんじゃないだろうな?!」
「この格好で来たわよ?壁に背を向けて、さささって。大変だったんだから。でもサンには負けられないもんね」
「で、涼む部屋にその格好のまま入ったのか・・・寒いはずだよ」
ナナの場合、背中の方だけ隠せばいいという問題ではない。
どう見ても一番すごいのは、横の隙間から見えるはみ出した部分。
なんなら正面から見ても横から大量にはみ出しているのだ。
そもそも普段の服ですらボタンを全てとめられないので上からはみ出たり、服が持ち上がって下がはみ出たり横がはみ出たりしているくらいの話だ。
なのでナナやエリーは正直はみ出し慣れていて、多少見えてしまっていても何も思うことはない。
そんなドモンらの会話が耳に入り、何があったのかと薄目を開けて、チラチラと視線を送る他の客達。
「・・・もうバレバレだよお前。みんなもう気がついてるよ」
「へーきよ平気!すぐに横になってしまえば後ろは見られないし」
「ま、待て!」
ナナはそう言って、ドモンの横の岩盤に勢いよくゴロッと横になった。
裸エプロンのままタオルも敷かずに。
実際には鳴っていないが、ジュッ!という音が聞こえたようだった。
「あっつーーぅぅいぃぃぃ!!」
「当たり前だバカ!あ!こらどこ行くんだその格好で!」
飛び起き飛び跳ね、ナナはそのまま部屋を飛び出した。
ズレて、胸の隙間に挟まるエプロン。その姿に驚く休憩中の人々。
ナナは15度の涼む部屋に入り、エプロンを直すことも忘れてその場の床に横になった。
口をあんぐりと開けて、その様子を見守る椅子に座っていた人達。
「お前何やってんだよ。まず着てる物を直せ!捲れ上がってるしハミ出してるしで全部出てるってば」そこで借りたガウンを持ってドモンがやってきた。
「そんな余裕ない~!牛の丸焼きだよ、これじゃ・・・」冗談じゃなく本当にそれどころではないナナ。
「自分が牛という自覚はあったんだな。皆さん騒がしくしてすまないね。裸で寝転がって背中と尻をヤケドしてしまったみたいでさ」
「そ、そりゃ大変だね。でも多分この宿なら良い薬草があるから頼んでみては?下手な回復薬よりも効くよ。ここで採れる薬草なら」「私が頼んで持ってきてあげるわ」「しばらく冷やすといい」
「ずびばぜん~うぅぅ」
すぐに薬草を持って戻ってきてくれた奥さん。
すり潰した薬草はほぼ真っ黒で、ご飯にのせて食べる海苔の佃煮のよう。
「ほらうつ伏せになって」「あらあらお尻が真っ赤ね。一応回復魔法もかけてあげるわよ。私ヒーラーだから」「お父さん以外の男の人は一旦出ていってあげて」「さあ塗るわよ。少し染みるかも」
「お父さんじゃなく私の夫ですぅ~ヒィィいたぁい!!おおん!でもなんかちょっとぎぼぢいい~!」
「この薬草は効くけど、傷口に塗るとちょっと妙な気分になるのが難点なのよね」「そのおかげで痛みも忘れられるけど、三日は気分が治まらないわよフフフ」「敏感にもなるしねぇ」「ウフフ!旦那さんは頑張らないと」
「おっほぉぉお~!!ぬりぬり最高ぅぅぅ!!」
何がどうなっているのか?
薬草によって痛みも腫れもすっかり消えたはいいが、ナナは例のキノコを食べた時以上の快楽に身悶えた。
「どれ?試しに俺も塗ってやろうか」
「ほぉぉ!!ちょっとぉ!お尻のあ・・・そこはヤケドなんかしてないのよ!ぁぁああ~!!」
「あぁそんなところに塗っては」「ど、どうなの?」「私も旦那に塗ってもらおうかな・・・」
涼む部屋だというのにナナは汗だく。
妙な気分になってしまった奥様方の色気も五割増。
「くあっ!ドモンにも塗ってやるわ!お尻出しなさいよ!!」
「やめろバカ!ただでさえ俺は向こうで手術をしてから、下痢続きで痔になってて痛いんだから余計なことをするな!」
「そら捕まえた!」「お嬢ちゃん今よ!」「見せて見せて」「ねえあなたもっと向こうへ!よく見えないわ!」
「ぉおんっ!!もうおしまいだぁ!!・・・ってあれ?なんだか痛みが本当に無くなった気が」
こうしてこの世界に痔の治療薬が生まれた。
そしてなぜか治療をする時は、裸になってエプロンを着け、ガウンを着るのが習わしとなった。
副作用で発情してしまったドモンとナナは、もう我慢が出来ないとその場でスケベな事を始める勢いであったが、その頃には扉の外に大勢の人々と従業員が集まっており、すぐに追い出されることに。
『スケベ男と変態女』という不本意なあだ名まで付けられる始末で、客全員に知れ渡ってしまった。
そのせいで食事をする大宴会場にて、問題に巻き込まれることになる。




