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第618話

「うっわ!こりゃ絶景だな!そりゃカールも勧めるはずだ」


大きな風呂の横にある大窓から見えた絶景に、思わずドモンも感嘆の声をもらす。

北海道生まれで、絶景の温泉にはいくつも入ってきているが、それを超えるくらいの絶景。


雪が残るアルプスの山々の風景写真をそのまま切り取ったような景色と、遠くに見える綺麗な街並み。

済んだ青い空と流れる白い雲。


「ここは良い湯だろ兄ちゃん。昔はカルロス領の街並みもあんなに大きくはなかったんだが、今ではあんなに大きくなっちまって、まるで王都のようだよ」と、やたら屈強な体つきの爺さん。

「兄ちゃんって歳でもないよ、俺ももう50だし。昔というかつい最近だろ?街が大きくなったのは。ふぃ~良い湯だ」

「なんだ、もっと若いのかと思ったよ。ワシは昔ここにあった城で、騎士として長年見張り番をしていたんだ。それがまさかこんなになっちまうなんてなぁ」

「やっぱり城のままの方が良かったかい?」

「ハハハ、嫌なら風呂を入りになんて来ないよ。最高さ」


聞けば城があったと言ってもそこまで立派な城ではなく、見張り台と生活空間を魔物や獣に襲われないよう塀で囲んでいたようなものだったそう。

温泉もここまで温かくはなく、体を拭くのに辛くない程度の温かさだったとか。

それを聞いてドモンも少し安心した。


露天風呂も最高で、ドモンが冷たい風を頭に浴びていると岩の壁越しに「うっわぁ~すっごいこれぇ!景色なにこれー!おっぱい寒っ!」というナナの大きな声が聞こえてきて思わず苦笑。


「ナナー!岩盤浴は汗かくから下着はいらないからな!ガウンだけ着てこいよー?」

「ドモン隣にいるの~?こっちはすごい景色よ~!」

「いやわかってるよ、隣りにいるんだから。話聞いてんのかって」

「聞いてる聞いてる~!おっぱい寒いみたいだから戻るわー。じゃああとでね」

「なぜ自分の胸が他人事みたいになってんだよ。意思でもあるのか、その胸は」

「そりゃあるわよ」

「あるんだ」


壁越しに行われた夫婦漫才にクスクスと笑い声が溢れ、ドモンはいたたまれない気持ちになり、早々と退出して岩盤浴に向かった。



浴場の出入り口の向かい側にある廊下を10メートルほど進んだところに薄暗い洞窟のような入口があり、そこから更に10メートルほどトンネルを潜るような形で先に進むと、オレンジ色の優しい光に薄っすらと照らされたロビーのような場所が出現。

そこで皆大汗をかきながら椅子に座ったり寝転がりしつつ、水分補給をしていた。


その休憩場所にいくつかある扉には、15度、38度、45度、52度、65度などと書かれていて、ドモンは約束通り38度の部屋へ。

15度の部屋は明らかにクールダウンするためのものなので、いくらナナでもわかるだろう。


「うわぁ・・・完全再現とはこのことだな。ヒーリングミュージックがかかってないくらいだよ、違いは」


実際にはもう一つ違いがある。

岩盤浴用のタオルを敷いて寝転がるのではなく、タオル生地で出来た館内着のガウンのまま皆寝ていた。

ロビーには無料の飲み物や、汗をかいた時用の着替えのガウンもたくさん用意されていて、至れり尽くせり。


従業員に話を聞いたところ、はじめは普通の館内着とタオルを提供していたらしいのだけれど、自分でタオルを敷く行為が召使になったようで気分を害すると苦情が入り、このような形態になったのだとのこと。

ある意味この世界特有というか、この時代背景特有の感情である。

一応元の館内着とバスタオルも用意されているけれど、使用している人はやはり少なめ。


「・・・んぐおっ・・・ヤバい、イビキが出ちまった」

「ホホホ!ここは気持ちよく寝られますものね。うちの人もほら」「ん・・んごぉぉ・・んごぉぉお~」

「いやぁ失礼。それにしてもどうして男のイビキってのはこうもデカいんだろうねハハハ」


ナナもぐぅぐぅとイビキをかくが、ドモンと比べれば可愛いもの。サンとシンシアはほぼ聞いたことがない。

赤い顔をしながらドモンは隣の夫婦に頭を下げ、一度部屋を出て小休憩。

よく冷やした水を一気に流し込み、もう一度同じ部屋へ。


先程のイビキの話が聞こえていたのか、寝ていた人らが出ていって、一時的に中は少し空いた状況。

ドモンは部屋の隅っこに陣取り、またゴロッと横になった。


その瞬間「うー寒い寒い寒い!!」と叫びながら飛び込んでくる女の声。

声の主は当然、待ち合わせ場所をしっかりと間違ったナナの声だった。


横向きに壁の方を向いて寝ていたドモンは、この後目玉が飛び出るほど驚くことになる。




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