第617話
「は、裸にエプロン一枚で街までケーキを買いに行って、男湯で裸になって食べたですって~?!」
「違います違います奥様」「何を言っているのですナナは」
シンシアとサンが行った事を自分もすると言いだしたナナが、ふたりの話を聞いて盛大な勘違い。
明日の昼には旅に出発するため、予定の確認に店にやってきていた勇者パーティーも、ナナの様子に呆れ顔。
「百人の男達に体をペロペロされながら料理を作るなんて・・・立っていられる気がしないわ」ナナの勘違いは当然続く。
「本当ですの?!サン!」「十人です十人!それにされたフリをしただけで、本当にはされていませんから!確かに少し裸は見られてしまいましたけど、その後混浴の方に行って奥様方とも御一緒しましたし」
混浴露天風呂に集まりみんなで例のキノコを分け合って、胸の揉み合いや体の触り合い、ナニかの大きさ比べや角度比べ等をしたことは、その場にいた者達だけの秘密。
ちなみにサンの誕生日祝いに、ちょっとした家が建てられるほどの価値がある超高級酒を頂戴したが、酔ったサンによって従業員が王族やドモンを叱るほどの粗相をしてしまったことを、サン本人は知らない。
もし記憶に残っていれば、もうドモンですらそのトラウマを払拭することは出来ないくらいの粗相をみんなの前でしてしまったのだ。
混浴露天風呂は、完璧に掃除を終えるまで営業停止。
一番の被害者であるドモンも、しばらくは酸っぱい物を食べられそうにない。
キスの味は甘酸っぱい恋の味・・・という話なら良かっただろうに。
「それじゃみんな行ってくるわね!明日の昼前には戻るから」
「ふぁああ・・・俺はほぼ丸二日寝てないんだけども・・・」
「うるさい!さっさと行くわよ!」
ドモンとナナは、スーパー銭湯でも高級宿でもないその中間の、いわゆる温泉のあるホテルのような場所で一泊。
ここにはオーガが持ち込んでくれた溶岩石の岩盤浴が用意されている。
場所も少しだけ街の郊外の方で見晴らしもよく、カールもここを勧めていたので、いつか行ってみようと話をしていた場所だった。
肩を寄せ合いヨダレを垂らし、送迎車で揺られること1時間と50分。
ゴブリン達の温泉よりも秘境とも言えるような山を上り、中腹辺りまで来たところに、この場所にはあまりにも似つかわしくない五階建ての大きな建物が突然現れた。
元々は敵襲に備えるための城だったらしいが、その城を壊してホテルにしてしまったとのこと。
ドモンにとっては、どう考えても城の方が客も入るし豪華だと思えたが、この世界の人々にとってはただの見張り台か、要塞的な建物の一つとしか思われていなかった。
「見てよドモン、この景色!冒険でも見たことないかも!」案内された部屋の窓から見えた風景に心を踊らせたナナ。
「俺達のあの高層ビルよりもぜーんぜん高いな。こりゃ凄いわ。それに天然温泉なんだな」
「これで食事もついてお風呂も入り放題で、ひとり銀貨20枚だって。私達の部屋はもう少し高いみたいだけどね。タダで良かった~」
「ふたりで銀貨40枚ってことは4万円か。食事や風呂次第だけど、これならまあありだな。どうりでこんな田舎だというのに混んでるはずだ」
スーパー銭湯ほどではないが、このホテル館内も大勢の人々で賑わっていた。
特にヨハンとエリーのようなやや年配の夫婦に人気で、新婚旅行以来の初めての旅行場所として、ここを選ぶ夫婦が多い。
「混浴がないのは残念だけど、岩盤浴は館内着を着て、男女一緒に入れるみたいだな」館内着はタオル生地のガウン。
「秘境だからって、あんたみたいなのが混浴でハメを外したら大変だからね」
「ハメを外すというか、どっちかと言えばハメる方だけどな。ハハハ」
混浴も作られる予定ではあったが、風紀的な問題と、ゴブリン達の温泉の客の入りも考えて中止になった。
混浴に入りたい場合はあちらの温泉へということ。
そんな話をしながら昼食を済ませた。
「じゃあ早速風呂に入ろうぜ。その後岩盤浴で待ち合わせってことにして」
「そうね。んじゃ三時にしよ」
「一番温度の低い岩盤浴な。多分先に入って寝てるかも?」
「わかったわ。楽しみね、イッシッシ」
ナナは妙な含み笑いをして、女湯へ向かった。