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第616話

「キャッ!な、なんでしょうか?!あ、あの・・・近寄らないでください・・・私には御主人様が・・・」


両手で大事な部分を隠し、身を捩りながら縮こまったサン。

サンが制止をしたにも関わらず、男達はニヤニヤとしながら周りに集まってきた。

サンは恐怖でもう叫び声も出せない。


「う、うわぁぁん・・・助けて・・・御主人様・・・」

「呼んだ?さあ早速サンの体洗おうか」

「ご、御主人様、今は周りに人が・・・見られてしまいますぅ」

「いいんだよ、俺が呼んだんだから。それに見てるのは俺の方で、この人達にサンの体を洗ってもらおうかと思ってさ。ほら、傷つけないようにするって言っただろ?」

「え?!」


ぞろぞろとサンの周りに集まる男達。

イヤイヤと身体を更に捩りながら視線をドモンに向けるも、ドモンは冷たい目でサンを見つめるだけ。


「イヤッ!怖いです!」

「まあ体を洗ってもらうだけだから。万が一サンが気持ち良くなっちゃったりしたら、どうなるかはわからないけどな」

「あり得ません!御主人様以外の人に!心が通い合っていなければ、痴漢と一緒ですから!」

「そうだよな。その辺もじーっくり確認させてもらうよ、ここで。じゃあ皆さんお願いします」


手に石鹸をつけた男達が、椅子に腰掛けたサンの両手、両腕、両足、両腿、背中とお腹を同時にゆっくりと擦りはじめ、サンは思わず「ほぅっ!」と声を上げたが、すぐに歯を食いしばり堪えた。


ぬめぬめヌルヌルと体中を男達の手が這う。

その感触は想像していたよりもずっと優しく、そして丁寧で、サンは何度もその心地良さに心を持っていかれそうになってしまった。


「・・・・(御主人様が見ています。すごく冷たい目で・・・)」

「んっ・・・(声なんか出しちゃ駄目!そんな事をすればきっと御主人様に呆れられ、捨てられてしまうの)」

「あーあーあー・・・(御主人様のオイルマッサージに比べればこんなもの・・・大事なところも触られてないんだから・・・まだ触られてもいないのにこんなにも??)」

「ヨダレ垂れじゃうぅぅ・・・待っで!行がないで~・・・(あーあーあーあーあー!!)」


無感情な視線をサンに送ったドモンは、その場を去っていった。

ついに捨てられてしまったと絶望したサンだったが、ドモンの蔑んだような目や捨てられてしまったことにさえ、興奮してしまう自分自身を呪った。


「もう終わりです。どうぞ皆様のお好きなようにしてください。サンは捨てられてしまいました」

「・・・」「・・・」「・・・」「・・・」

「もっと乱暴に扱ってもいいんですよ。むしろもう乱暴に扱ってもらって滅茶苦茶にしていただけたらウッ・・・ウッウッ・・・」

「そんな事はせぬから安心せい」「そうですな」「うむ」「ええ」

「???」


サンの体にフワッとかけられた、柔らかな高級バスタオル。花の香りがする王族仕様の物。

これから乱暴されるものだと思っていたところに優しくされ、サンの頭は大混乱。

そこにガラガラと扉が開けられる音が聞こえ、ドモンが歌いながらやってきた。


「ハッピバースデートゥーユ~♪」

「へ?」


手には持つのも大変なくらい大きなケーキ。ドモンに合わせるように歌う男達。

サンは体にバスタオルを巻いて、ポカーンと口を開けて見つめている。


「誕生日おめでとうサン。まだ少し早いけど、今月だったよな?おっと、ケーキがでろ~んってなってきちゃった」

「ちょ、御主人様?!もうっどうして・・・!こんな温かな場所に持ってきては溶けてしまいます!そんなことじゃなくて、ありがとうございます・・・って、バカバカバカ!もうもうっ酷いですぅ!フゥー・・・」

「おめでとう」「おめでとう」「おめでとうございます」「おめでとうございます!」


笑顔で涙と鼻水を垂れ流しながら、ろうそくを吹き消したサン。

絶望感と幸福感と安心感、羞恥心や怒り、嬉しさと興奮、全ての感情が一気に湧き出て、サンの感情はもうグッチャグチャ。


サンは慌ててドモンからケーキを受け取り、脱衣所にある冷蔵庫の中へしまいに走った。

途中で体に巻いていたバスタオルが落ちて裸になってしまったけれど、今のサンはもう気にもならない。


ちなみにケーキは某国のお妃様へのものだったが、ドモンが理由を話して譲ってもらった。

現在厨房では、大慌てで作り直し。



「もうっ!皆さん最初からグルだったんですね。もう~」

「ワハハ」「ハッハッハ!」「すまぬな」「頼まれたもので・・・」


頬を膨らましたサンは、体にバスタオルを巻き直し、男湯の一番大きな湯船にドモンと並んで浸かっていた。

確かに辱めを受けたいとは言ったが、まさかこんな事になるだなんて露程も思っておらず、今思い出すだけでも心臓が破裂しそうになるくらい。


「ウフフフ!ハァ驚きました。だから腫れ物を扱うような触り方をしていたんですね。でもそのせいでかえって・・・声が出てしまいました。お誕生日のお祝いにも驚かされましたし」


サンにとって、生涯忘れることが出来ないくらい強烈な体験となった。

あの時の悪いトラウマを押しのけるほどの。


これからもドモンによって辱めを受けることがあるかもしれないが、その心の根本にあるものは悲しい気持ちではなく、これからは優しく嬉しい、そして幸せな気持ちになるだろう。

時折見ていた悪夢も、この日の出来事に変わるはず。


トラウマを消すことは容易ではないが、ナナに対して行った時のように、より強烈な思い出である程度の上書きは出来る。

ドモンもこんな事をする予定ではなかったが、発情しつつも何か苦しそうなサンの表情を読み取り、大胆な賭けに出たのだった。


その理由も皆に話し、協力してもらった。

ただしサンだけが今も知らないのだけれども。


「あーあ。そうとわかっていれば、皆さんに大事なところも洗ってもらえば良かったなぁ~。折角の機会ですし」わざと大きな声を出すサン。

「いや流石にそれはちょっと遠慮してもらったよ。サンがどうしてもして貰いたいってなら別にあれだけど・・・」なんとなく口ごもるドモン。

「え?宜しいのですか?では皆さんお願い出来ますでしょうか?向こうの洗い場の方へ来てもらって・・・あ、恥ずかしいので御主人様だけはこちらでお待ち下さいね」

「ん?俺だけ??」


大きな風呂にひとりポツンと取り残されたドモン。

ソワソワとしては格好が悪いので、素知らぬ顔を作りながら聞き耳だけを立てる。


するとその十数秒後、サンの大きな声が浴場内に響き渡った。


「あ、ああ~!!はぅぅ気持ち良すぎますぅ~!みんなでペロペロしちゃ駄目ぇ~」

「え?!」ドモンも思わず湯船で立ち上がる。


「皆さん大きすぎますぅ~!裂けちゃう~!あぁ~そこは今夜御主人様に捧げようとしていたのにぃ~。口づけは順番ですよ~」

「待て待て待て!!ちょっと待てぃ!!」


湯船を飛び出し、大声を出しながらドモンが洗い場にいるサンの元へ向かうと、右手で作った小さな握りこぶしを口に当て、イッシッシ~と悪戯な笑みを浮かべるサンが立っていた。周囲の男達もニヤニヤと笑っている。


「みんなで騙しやがったな・・・」

「ウフフ、仕返しです」「すまんのぅ」「申し訳ない」


この日ドモンとサンはここで一泊したが、当然一睡もすることはなかった。




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