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第615話

「サンも男湯の方へ入るのですか?!う、嘘ですよね??それとも貸し切られているのでしょうか?!」

「いいや、普通に男の客が2~30人入ってるみたいだよ」本当は10名ほどだが、ドモンは少し話を盛った。


「わ、わかりました!浴衣を着たまま、御主人様のお背中などを流す感じですね?」

「いや普通に脱衣所で一緒に裸になって入ろうよ」


「大きなタオルを身体に巻いて・・・」

「俺と同じ小さなタオル一枚だね」


「混浴があると仰られていましたよね?せめてそこで待ち合わせて・・・」

「ほらさっきのお風呂でも、普通に男湯に入ってた女の子もいただろ。サンなら小さいから大丈夫だよ。・・・・多分」


男湯の暖簾の前でサンは絶望の表情・・・をしたつもりだった。

脚はガクガクと震え、手にも力が入らないくらいであったが、サンは知らず知らずの内にうっとりとした目でドモンの顔を見つめ、笑みを浮かべてしまっていた。


女将がいれば注意されたかもしれないが、幸い今はホークの部屋。

今のうちにと男湯の脱衣所に飛び込むと、顔がわかる王族と数名の男性が服を脱いでいる最中で、サンは両手で顔を隠した。

が、鼻の中に入ってくる男性特有のニオイは防げず、自分が男湯にいるということを自覚させ、思わず「うぅ」と声を漏らしてしまった。


「だ、大丈夫です。垢すりをしている方も女性ですし、先程この中をお掃除をされていた方も女性の方でした。大丈夫大丈夫・・・」

「まあそいつらはみんな服着てるけども」


「これはタオルですか?!まるでハンカチじゃないですか!」

「タオルだってば。縦に使えばサンならギリギリ・・・はみ出るくらいで済むと思うよ。ナナなら片乳が精一杯かもしれないけど」


フゥフゥと荒い息を繰り返し、サンもようやく覚悟を決めて服を脱ぎ始めた。

いつの間にか男性達は更衣室には居らず、サンは少しだけホッとした。


「す、全てお見通しだったのですね、御主人様・・・サンがあの日のことが忘れられないということを」

「え?あの日?あ、ああ、もちろんわかっていたさ」当たり前だけども、正直ドモンにはさっぱり。


「あの日、ゴブリンさんのところの温泉で、御主人様のお膝の上でサンの脚をパカって開かれ辱めを受けた・・・あの日のことが忘れられないのです。その後すぐに拐われてしまい、御主人様があんな目にあったというのに」

「あー・・・なるほどな。そういうことか」


あの日立て続けざまに起きた衝撃的な事により、サンは心に深い傷を負った。いわゆるトラウマというもの。

羞恥、恐怖、後悔、そして絶望。それらがごちゃ混ぜになりながらサンの心の奥に入り込んだ。


ドモンがその殆どを取り除いてあげたが、残ってしまった傷の隙間にサンの強烈な性的体験が入り込んでしまい、脳内に欲求として残されてしまったのだ。


つまり小難しい話を簡潔に説明するならば、何かの拍子のハプニングで裸を見られてしまった女性が、その強烈な体験と衝撃を忘れられず、露出狂になってしまったようなものである。


それはドモンが考えていたものよりも、ずっと深刻な問題であった。



「ああ~皆さん見ている気がしますぅ」ドモンの後ろに隠れて浴場に入ったサン。

「そりゃあ見るよ。こんな可愛い美少女が裸で入ってくれば、男はみんな」

「か、隠しきれない!せめて胸だけは・・・うぅ」


ナナのような胸ならば別の所を隠していたかもしれないと考えながら、サンはドモンの背中にくっついた。

お尻だけならばなんとか平気。披露宴でもお尻を出したくらいなので。


「くはぁもう駄目!御主人様、一度あちらの洗い場の方へ・・・」

「先に体を洗うのかい?まあさっきの銭湯ではろくに洗えなかったからちょうどいいか」


いくつかの壁があり、姿を隠せる洗い場の方へ避難した二人。

死角に入ったことで、ようやくサンも少し落ち着きを取り戻した。


「では御主人様、お背中お流しいたしますね。こちらの椅子にお座りになってください」

「うん、いつもありがとう」


爪が鋭すぎるドモンは、昔からあまり自分で体を洗わない。

うっかり自分の頭や体を引き裂くことがあるからだ。


ドモンはそれでもまあ仕方ないと昔から諦めているけれど、ナナは絶対にそれを許さない。

なのでナナが体調不良の時などは、ナナがサンにドモンの体を洗うことを頼んでいた。


サンはナナに頼まれドモンの背中を流している時が、二人の役に立てていることを実感できて、とても幸せで落ち着く時間。

二人に自分の存在が認められたように思えるのだ。


「フフフ~ン♪」

「ようやく気持ちが落ち着いてきたみたいだな」

「お、落ち着いたってわけではないですけれど・・・まあこうしていれば、御主人様とふたりで混浴に入って、たまたま女性客がいなかったようにも思えます」

「じゃあ今度はサンを洗ってやるよ。今日ぐらいはいいだろ?傷つけないようにするからさ。ほら椅子に座って」

「は、はい」


サンが持っていたタオルを受け取り、ドモンはどこかへ。

その一分後、洗い場の小さな椅子に裸で座っていたサンの元へ、十人の男達がやってきた。




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