第599話
「人権宣言ってそんな話だったのですか?!いくらドモンさんの頼みでも、僕ひとりでどうこう出来ることではないですよ!」
「大馬鹿者めが!!貴様がやろうとしていることは、王政をひっくり返そうと企てている、反王政勢力の革命運動と変わらぬではないか!!」
「全ての王族側と貴族側に就く軍隊と戦争になりますよ。そうなれば僕はもう、ドモンさんとの関係も断ち切らなければなりません」
「こうなるならば、やはり初めに貴様を・・・く・・・」
カールの屋敷で合流し、ドモンから話を聞いたトッポと義父は頭を抱えた。
百歩譲って、自分ひとりならばまだいい。
だが、他にも大勢の王族や貴族がいて、その下に就く者もたくさんいる。
それによって養われているその家族も。
フランスの人権宣言、つまりフランス革命の時もそれにより多くの血が流れた。
更に魔物にも人間と同等の人権を与えるということは、やはり大問題である。
今でこそ街で会っても平気にはなったが、以前は街にゴブリンがやってきただけで取り囲まれ、石をぶつけられたのだ。
元の世界の白人・黒人などの差別問題と同様、今もそれを良しとしない考えの人が少なからずいるのは事実。
なにせ『魔物』とついこの前まで呼んでいたくらいなのだから。魔の『物』であり、『者』にも至らない・・・。
なので簡単に行くはずがない。各地で反発が起こり、内戦勃発も必至。
故に認められるはずもないのだった。
カール達貴族と勇者パーティーも難しい顔で下唇を噛み、アイは不安げな表情でナナの手を握りしめていた。
「なぜそんな無茶なことを急に・・・魔物のことも、百年二百年かけてお互いに信頼を築き上げ、それからの話ですよきっと」というトッポの言葉に、ホビットのアイですら頷いた。恐らく魔王ですら頷くことだろう。
「やっぱり無茶よドモン・・・」ナナはピッタリとドモンに寄り添う。すぐにドモンが斬られないように。
「何故ってそんなもん、決まってるだろう」タバコに火をつけたドモン。
「なぜですか?」
「気に入らねぇからだよ!!なにもかもが!!!」
ドモンの怒鳴り声に慣れているナナと、大賢者の威厳をなんとか保ったソフィアは耐えきったが、女戦士のミレイは胸の前で腕を組み仁王立ちしながら、バシャバシャと豪快に失禁。
魔物であるチィとミィ、そしてアイはドモンの怒気が籠もった覇気にやられ、失神しながらおもらし。そばにいた侍女達も、尻もちをついて床を濡らす。男達も数名、脚に温かいものを感じた。
この世界の何かの異変に気がついた勇者は、震える手で剣の柄を掴もうとしたが、いち早く察知したドモンがその手を押さえて悪魔の爪を立てた。青い目の光を放ちながら・・・。
「貴様・・・ついに本物の悪魔に目覚めおったのか?」と警戒する義父。
「この件を通すためなら俺は悪魔でもなんでもなってやるよ。ま、元々そんなようなもんだってのはわかってんだろお前らは」
「そんな・・・ドモンさん・・・嘘ですよね?」トッポは不安げな顔。
「お前らに本物の悪魔を怒らせたらどうなるかを思い知らせてやる」
ドモンは懐からスマホを取り出すと、今度はナナが頭を抱えた。
ただ、ドモンから消えかけていた強烈なオスの匂いが復活していることに気が付き、少しだけ興奮していた。
この場でナナは今すぐドモンを押し倒したい気分。
「な?!な、な、なんですかこれは!!」「貴様!どういうことだこれは!!」
「へへへ。もし俺の言うことが聞けないなら、この様子が世界中に流れることになるぞ」もちろんはったりであり、そんなことにはならない。
トッポの愛妻達であるチィとミィが失神していたのは、トッポにとって幸運だった。
でなければ、トッポの尻は数日の間、倍の大きさに腫れ上がっていただろう。
何故かソフィアはトッポの映像に異常なほど食いついて、アーサーに対し「あなたやってみたい?やってみたいでしょう?フゥフゥ・・・いいわよお店に行ってきて。一部始終見せてもらうけどね!」と大興奮。
自分でも知らなかった新たな性癖に目覚めることになった。
「これで脅すつもりか貴様!」と義父。
「脅すつもりなんてないってば。でもちょーっと協力してくれないかなぁって。信じてくれよ俺を。悪いようにはしないからさ。多分だけど」
「信じられるかそんなもの!」
「なにも王族や貴族を解体しろだなんて言ってないよ。不敬罪を完全に無くせとも言ってない。ただ俺等と同じ人間なんだって宣言をして欲しいのと、こいつらを助けてやってほしいんだ。頼むよ」
柔らかな絨毯に転がるアイとミィの頭を撫でたドモン。
下着丸出しの大の字で気持ちよくいびきをかき始めたチィはとりあえず放置をしたら、何故かナナが怒った。
「・・・必ず反発はありますよ」妻達のためと言われ、覚悟を決めたトッポ。
「承知の上だ・・・・なーんて言うと思ったか?そこはお前がなんとかしろ。でなきゃこの映像を・・・まずはチィに見せてみようかなぁ?」
「わかりました!わかりましたよ!!僕が全部の王族と貴族の家を一軒一軒回って、土下座でも何でもして納得してもらいますよ!住民達にも演説して回りますから!もうっ!!」
「そりゃ良かった。あ、そういえばこの後、トッポがスッキリしながら屁を漏らして、女の子達に土下座するところも見れるけど、みんなで見る?」
「見ませんよ!!!」「見ます」「み、見てみようか」「なんと情けない!確認せねばならんな」「私達も見せてくださいドモン様!」
もう何も捨てるものが無くなったトッポは、その後数ヶ月の間、馬車馬のように街や国を駆けずり回り、平和的に人権宣言を成功させることになる。
それには、ずっと付き添ったオーガのチィとミィの功績も大きいのだけれども、道中度重なるドモンの匂わせ手紙によりあの秘密がふたりにしっかりとバレ、毎晩反省させられた結果、チィとミィのふたりとも子供を授かることになった。
・・・が、ドモンがそれを知ることは出来なかった。