第592話
「じゃあ行ってみようか」「うん!」ドモンに抱っこされたままのアイ。
「待って待って!身体を隠すタオルとかはないの?!」
「体を洗う以外、タオルを使用することは禁止しておりますので」
手で必死に身体を隠そうとしたナナだったが、エリーやエミィの次くらいに素手で隠しきれないボディーを持つナナは、全くの無駄。
長老からタオルの使用が禁止されている旨を伝えられたものの、そもそもナナの身体を隠せるくらい大きなタオルはここには存在しない。
「む?女将と一緒に居られるのはドモン殿か?」とどこかのお偉い様。
「え?!ホントだわ!!ドモン様是非こちらに・・・って、随分とお元気でおられてホホホ」とオークのムッチリ熟女。
「あちらはサン様??」「いえ違うわ。サン様はあの子よりもう少し大きかったような」ゴブリンの女性達も湯けむりの中、目を凝らす。
「みんなあんたの元気な何かを見て指差してるわよ。だからスッキリしてから来れば良かったじゃないのよ。わ、私だってもう別に・・・良かったんだから」もっと早くドモンと出会えていればと思うアイ。
「余計なお世話よ!ほらドモン、私のお尻でそれ隠しなさいよ」
ナナが自分の大きなお尻を利用してドモンを隠す。一番にドモンと出会えたことを神に感謝しながら。
サンとシンシアにすら嫉妬で狂いそうになることがあるのに、もうこれ以上は耐えきれない。
「うるさいな。ならこうすりゃ目立たなくなるだろ」
「え?!ちょ、ちょっと待って!!脚を閉じてよ!!」
アイの両膝を後ろから抱えるように持ち替え、アイの脚を全開にして階段を降りていくドモン。
サンとおしゃべりをしていた時に聞かされた『混浴丸出し事件』を、結局アイも経験することとなった。
「まあ!何もかも小さくて可愛い!」「私も昔はああだったのよアハハ」「子供のはきれいねぇやっぱり」反応したのは女性達。こういった時は案外男性の方が直視が出来ないものである。
「ち、違うんです!私実はホビットで、子供もふたり産んでるんです・・・」こんな形でホビットだと告白する予定ではなかった。
「まあそうなの!羨ましいわぁ~、出産を経験してもそんな若い身体でいられるなんて」「ねぇ~」
「お前のはもうすっかりビラ・・・いやなんでもない」「ちょっとあんた!聞き捨てならないわね!そりゃ私のはあんな閉じちゃいないけどさ!」
ポカポカと人間の男性の頭を叩くゴブリンの女性。
それを妊娠しているらしいお腹の大きなオーガの女性が、屈強なオークの男と一緒に笑っていた。
アイはまた涙を流し、その場にいた皆にその涙の理由を話し始めると、ゴブリンの長老女将は似たような境遇のアイに共感し、一緒になって涙を流した。全てが丸出しだけれども。
「それは淋しいでしょう。アイ様はドモン様からご寵愛頂いておりませんのですか?」
「この人、私が子供みたいに見えるからか、全く手を出そうとしないのよ。ってもしかしてあなた、この人と?!」
「えぇ」
「背格好がどうのの前に、いくらドモンだって節度ってもんがあるわよ!よくもまあ目の前に奥さんがいるってのにそんな話が出来るわね!」
水面を叩きつけ、バシャンと大きな水飛沫を立てたナナ。
「じゃあもし私がナナと同じような身体だったとして、それでもあなたは我慢してた?」振り向いてドモンの顔を睨みつけたアイは、温泉が深いところだったのでドモンの膝の上に座っている。
「うっ!それは無理かもな・・・こんないい女、とてもじゃないけど我慢できる気がしないよ。特に裸なんか見せられたら・・・やっぱりナナが一番なのは変わりようがないからな」今のドモンの素直な気持ち。
「ほらご覧なさい」「ほ、本当に仕方のない人なんだから!私のことが好きすぎてもうっ!」アイの言葉も聞かず、更にバシャバシャと水飛沫を立てたナナの顔は、もう茹でダコのように真っ赤。
「湯の中で準備を済ませ、身体をくるりと反転させて、狙いを定めて一気に腰を落とせば良いのですよ」
「ちょっと長老さん!余計なこと言わないでくれる?!ほらドモン早く、貸し切りの方へ戻ろうよ」
昼過ぎ、満足げなツヤツヤ顔で浴場の床に大の字に眠るナナを横目に、ドモンと長老とアイの三人で、ドモンが考えた人権宣言について深く話し合った。
当然長老も賛同し、それぞれの種族の長や人間の有力者に協力を依頼してみるとのこと。
「ありがとね・・・ド、ドモン様・・・」
「いつも通り『あんた』でいいよ。もしくは呼び捨てにでもしてくれ、今更照れくさい」
「呼び捨てって・・・それはまた今度にする。今はまだいいわ」
ドモンの首に腕を回して、チュッと軽く口付けをしたアイ。
エヘヘと照れ笑いを浮かべた表情は、本当に幼く、何も知らない少女のよう。
「それでは私もついでながら・・・」
「レロレロぶばぁっ!!まずいって長老それは!!ああもう頭が・・・」
「ぐぅぅ!!ぐぅぅぅ!!ぐぅぅぅぅ!!!」
アイのことを思い、少しの間だけ目を瞑ろうと思っていたナナが、額に青筋を立てながら大きないびきをかいた。




