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第591話

「ゴブリンの村って、車で来るとこんなに近いんだな。あっという間だ」

「一時間半くらいかしらね?嘘みたい」


運転席と助手席のドモンとナナ。

目的地はまだ先だけども、とりあえずここを素通りすることは出来ない。

人権宣言を行う際に、是非長老にも協力をしてもらおうと思っていた・・・というのは建前で、一番の目的は混浴である。


「うおっ!で、でけぇ!村じゃなくもう温泉街だなこれは」

「それにすごい人!ウッソみたい!」


大きな建物がいくつも建ち並び、以前の面影はまるでない。

距離的には百数十メートルほどしかない道だが、その両側にびっしりと建物が並び、車が入ることが出来ないほど大勢の人々が、笑顔で往来しているのが見える。

駐車場となっている草むらに車を停め、そこからドモン達は歩いて向かった。


やってきたのはドモンとナナ、そしてアイ。

サンとシンシアは昨日のことで余程疲れたのか部屋で就寝中。

何故かドレスを着たままなのは、ドモンがやたらと気に入ったため。深夜何があったのかは、先に寝てしまったナナは知らない。そしてサンとシンシアもドモン達の行き先を知らない。



「私なんかが行っても大丈夫かしら?また・・・」と不安げなアイ。

「他のゴブリン達と違って、ここは大丈夫よきっと。それにその格好なら他の人にもバレないだろうしね」

「そうかしら?もういい歳だけども」この日は淡いピンクのワンピース。

「ああ平気だ。それにここの温泉に入ればもっと若返って、子供どころか赤ちゃんになっちゃうよ」


途中の店で買った名物のアップルパイと生パスタを頬張りながら歩く三人。

街の規模はまったく違うが、どことなくホビットの街と雰囲気が似ていて、アイは少し安心した。


「よう長老!元気にしていたか?」

「ドモン様、ようこそいらっしゃいました!さささ、皆様こちらへ!」

「こっちはホビットのアイちゃんなんだけど、問題ないよな?」

「もちろんですとも!私達はどちらの方でも大歓迎ですよ。ようこそいらっしゃいました」


自分達はドモンのお陰で今がある。

ひとりの人として、ひとつの人種として、人間達に認めてもらった恩がある。

そんなドモンがそうしているのだから、当然自分達も見習うのみ。


「話があるんだけどさ。その前にひとっ風呂浴びてもいいかな?久々に」

「えぇもちろん。宿をひとつ貸し切りになさいますか?」

「いやいや別にいいよ。それよりも混浴は・・・?」

「ならば私がご案内致します」


宿の廊下を歩きながら、コソコソとドモンと長老がなにやら相談しているのを、ジトッとした目で睨む勘のいいナナ。

長老がブラウスの胸元のボタンをひとつ外したのを見逃してはいなかった。


「こちらでございます」

「え?あんた達が混浴の話をしていたのはバレバレだけど、前はそれでも脱衣所は男女別になってなかった??」

「こちらは特別なお客様を迎え入れる、特別な貸し切り温泉となっております。ドモン様もよくお知りであるあの方のたっての希望で作られたものでございます」

「ジジイか・・・あのエロジジイ、たまには気の利いたこともしやがるなハハハ」


貸切風呂の説明をしながらドモンの前にしゃがみ、慣れた手つきでさっとズボンと下着を脱がせていく長老女将。

あまりの手際の良さにナナが呆気にとられている横で、特に気にもせず服を脱ぎ始めたアイ。


こういった浴場では『恥ずかしがる方がかえって恥ずかしい』といった習慣がホビットにあるのと、はっきり言って男がドモンだけならば今更の話である。もう全てを見ているし、見られてもいるのだから。


「・・・で、長老さんも一緒に入ろうってわけ?」

「ドモン様のお背中を流すのは私達にとって、当然の務めでございますから」

「私がやるっての!ちょっとドモン!なに元気にしてんのよ!!」


今にも何かを始めそうな長老に、ナナも大慌てで服を脱ぎ、全員で貸し切りの浴室へ。

初めに大きな声を上げたのは、ドモンであった。


「貸し切りってちょっと大きな家の風呂みたいな、いわゆる俺の世界では家族風呂ってやつみたいなのを想像してたけど、すげぇじゃねぇか!風呂が3つにサウナまであるのかよ!」

「やだドモンこれ見てよ!窓から外のお風呂が見下ろせるようになってるわよ?!覗き放題じゃないのよ、これじゃ」

「え?ちょっと見せて見せて!」高い位置に窓があるため、アイの背では見えず、ピョンピョンと跳ねている。

「そこの扉から階段を降りれば、今見えている混浴露天風呂の方にも行けるようになっております」

「一昔前の層雲峡温泉かよハハハ」


この仕組みを考えたのは当然カールの義父。

貸切温泉の利用料金はもちろん超高額で、一般庶民ではとてもじゃないが手は出せない。


その昔北海道にもこういった感じの混浴があった。

建物に囲まれたど真ん中に混浴があり、そこに入っていると窓から大勢の人が覗いてくるのだ。


「ほらアイちゃん」とドモンがアイの両脇を抱え、そのまま左腕一本で抱っこした。

サンとは違う甘い匂いとキメの細かい肌質に、うっかり間違いを起こしそうになってしまったドモンが、ブンブンと頭を振る。


「す、すごいわね・・・」

「ほん~っとうにすごい趣味してるわね、まったく。何を考えてんのよ、もう・・・」義父に対して呆れるナナ。


「そうじゃなくて・・・あれはオークでしょ?こっちはゴブリン。男も女も人種も関係なく、あんなに仲良く楽しそうにしてるなんて・・・ねえ、私も行ってみたい!行って『ホビット族のアイです』って言っても、みんな仲良くしてくれるかな?」

「もちろんでございますよ。ここでは愛し合うことは許しても、差別は許しておりませんから」


理想郷がそこに見え、思わず涙を浮かべたアイ。

そんなアイの気持ちが痛いほどわかる長老は、間髪を入れずにそれに答えた。

決してそんなことはもうさせないと、力強く気持ちを込めて。





ホテルの建物の真正面に混浴露天風呂があり、当時の18歳の彼女と入った。

上手いこと隠れるようになってるのかな?と思っていたけど、数十人から百数十人くらいの人達と目が合い、大慌てで温泉に飛び込んだら、どうやら沸かすタイプの温泉だったらしく昼間はほぼ水風呂(笑)


まだ雪が残る北海道。叫びながら温かそうな温泉まで全裸でダッシュ。

なぜタオルとか持って行かなかったのか?


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