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第590話

「カルロス領より早馬にて伝令です!」

「なんですかこんな夜更けに。今更謝ったところで僕は許しませんよ、まったく」


王都から披露宴に向かう道中、深夜だというのにトッポの寝床に騎士が飛び込んできた。


「深夜に失礼致します!ドモン様より書状を預かりお届けに参りました!」

「む?カルロスではなくてドモンさんですか?」

「はっ!」


封を開け、透けて見えるドモンの乱暴な字と迫力のあるドモンの印に、何故か震えが止まらないトッポ。

開いた手紙にはこう書かれていた。


『こっちに向かってんだろトッポ。用があるから

明日の昼までにヨハンの店までこい!人けんせ

んげんをするのにお前の力がひっようになた。

大いそぎだぞ!少しでもおくれたら、ふん水のとこみんなの前でクソ

もらすまで全いんしっばてくすぐりじごくにしてやるからな! ドモン』


「ひとけんせ・・・うぅ読みにくい。しかもなんだか血だらけだし・・・」大困惑のトッポ。

「何よこれ!きったない字!」横から手紙を覗き込んだオーガのチィもしかめっ面。

「私が代わりにお読み致しましょうか?以前サンからコツを学んだので」とミィ。


人差し指で手紙をなぞりながら、所々にあるぐしゃぐしゃと消された誤字の部分を指で押さえ、頭の中で翻訳を進めるミィ。

ウンウンと二度頷いてから、その内容を話し始めた。


「明日の昼までに陛下に来ていただきたいそうです。人権宣言を行うのに陛下のお力をお借りしたいとのこと」

「人権宣言?!何やらとんでもないこと思いついたようだね」と勇者のアーサー。

「王族も貴族も無くすってことなの?!」「まさか」「別のことかもしれないし、これだけではわからんのう」


勇者パーティーの面々も首を傾げるばかり。


「それであとは・・・なんと?」トッポでも、最後の方にある何か嫌な文字は読めていた。

「そ、それで・・・少しでも遅れたら、そ、そのぅ・・・」

「教えて下さい」

「恐らく広場か何かの皆様の前で全員縛り上げて、う、うんちを漏らすまでくすぐり続けるそうです・・・」


「ひっ・・」と声を上げたのは、その爪の被害にあったことがあるチィ。そして女戦士のミレイ。

屈強なふたりが震えだしたことで、それがただならぬことだと全員理解した。


「とりわけ皮膚が丈夫な私達だけど、まるで綿菓子に指を突っ込むように簡単に爪を突き刺して、体の中の神経を刺激して狂わせるのよあの人・・・」「はい・・・」深刻そうなチィとミィ。


「敵の剣を素手で止めるミレイが、手刀で斬られて入院したくらいだしな」

「手刀じゃないよ。指一本だよ指一本!脱糞だけで済めば御の字だろうね」

「あの馬鹿めが・・・また暴走しおって・・・」


アーサーとミレイの後ろに、いつの間にかカールの義父も立っていた。


「と、と、とにかく!僕が昼までに着けば問題ないんですよね?!ここからカルロス領まではどのくらいかかるのですか?」

「はっ!ここまで早馬を六頭乗り継いで、七時間半くらいでしょうか?」


現在、深夜二時過ぎ。

今乗ってきた馬達は、しばらくはもう使い物にならない。


そもそもこれから約三日ほどかけて馬車で向かう予定であり、その距離を半日で移動すること自体無謀である。

しかも国王のみが馬に乗り、駆けること自体あり得ない。乗馬も得意な方ではない。


「馬に回復魔法をかけ続けて二人乗りで進めば・・・一日もあれば到着すると思うけれど」とアーサー。

「丸一日もかかっちゃダメですよ!もっと真剣に考えてください!連帯責任なんですよ、あなた達も!」

「あたいはもう諦めてるよ。もう人間なんてやめちまって、身も心もドモン様に委ねちまえばいいさ」ミレイはこっそりドキドキ。

「そうね。もう終わりよ」「はい・・・」「私はイヤよ!アーサーなんとかして!!」


女性陣は賢者のソフィアを除いて諦めムード。

その罰を妄想すればするほど、頭の中のドモンがもっと酷いことをしてきて、最終的には数万人の前に全裸で磔にされ、生きているのが嫌になるくらいの快楽拷問を受けている自分を想像していた。


当然ドモンの冗談であり、なるべく急いでねというだけの話だったのだけれども。


「もうアーサーの作戦で行くしかなさそうですね。先に出発しますが、皆さんもなるべく急いで来てください」

「じゃあ二人乗り用の鞍にしてくるよ。あと陛下、不本意かもしれないけれど、なるべく装飾品は外して軽装に。軽い方が速いのと、目立たなくなるので」


そうしてアーサーとトッポは出発した。

百数十キロメートルほどの距離ではあるものの、全速力で馬を走らせれば、回復魔法を使用しても数キロで脚は鈍ってしまうため、常に余力を残しながら走らせなければならないのがもどかしい。それにアーサーの体力と魔力も無限ではない。


太陽が真上に来る頃、百キロメートルほど移動することに成功したが、馬もアーサーもトッポも予想以上に体力を消耗し、ピタリと馬の脚が止まってしまった。

二人乗りの負担は想像していた以上のものだったのだ。


「ハァハァ・・・これでもかなり頑張った方だと思うんだけど・・・予定より倍の速さで来たのに・・・」

「・・・・」


アーサーもこんな無茶な移動はしたことがない。

戦う体力まで無くしてしまっては本末転倒であるからだ。

自分でも驚くほどの速さでこんなにも移動することが出来たが、カルロス領は思いの外遠かった。トッポはもう話す気力すらない。


「乗り合いの馬車もあるみたいだけど、少しでも進むなら・・・」

「そうですね。そうしましょう。あなたは馬が回復してから向かってください。僕ひとりで十分ですから」

「護衛に付きたいところなんですけどね。馬を置いていくことは出来ないので」

「平気ですよ」


その時、馬から降りて腰を叩いているトッポの元へ、また別の伝令が駆けつけた。


「カルロス様より伝令です!昨日よりドモン様が失踪しておりまして、全力で捜索しているとのこと!ドモン様の置き手紙には・・・その・・・」

「な、なんですか?」

「ええと・・・国王陛下がいらしたら、女ボスの居る店で待たせておけと・・・急用が出来、奥様を連れどこかへ向かったらしく、それを知ったカルロス様が慌てて捜索している次第にございます。なので慌てる必要はないということです」

「・・・・」「・・・・」


騎士経由でドモンがトッポを呼びつけたことを知ったカールは、翌日早朝に大慌てでドモンの元へ向かったものの、ドモン達の姿はなく置き手紙だけを発見。ヨハン達もどこへ行くのかはっきり聞かされておらず、居場所が全くわからずじまい。


ただでさえ国王直々に叱り飛ばされるとビクビクしていたところに、このような事態となりカール達は大混乱。

これ以上怒りを買いたくないと気を利かせて、伝令を走らせたのだった。



「やっぱり自動車だと速いわね」とナナ。


朝までに無理やりワイパーを付けさせた車で、ドモン達は街を出た。

国王が来るまでに済ませておきたいことがいくつかあったのだった。




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