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第583話

「ドモン!」「おお無事戻ったかドモン殿!」「遅い!」「ドモン様!」「おかえりなさいませドモン様!」


約一名を除き、嬉々としてドモンを迎え入れるカールの屋敷の人々。

とりわけコック長の鼻息が荒い。


「事情はサンから聞いた。着替えは用意してある故、ドモンと一緒に部屋の方まで・・・」「ドモン様!厨房へ!厨房の方までいらしてください!」「お風呂のご準備も整っております。ご要望であればお背中をお流しいたしますが?」「サウナが新しくなったぞドモン!」

「いっぺんに話すなよ、鬱陶しい」


カールを押しのけるようにドモンの元へ殺到した屋敷の者達。

これにはアイも「大歓迎ねあなた。どうなっているの?」とキョトンとした顔。


結局カール達貴族はサウナで話をすることになり後回し、ドモンは厨房へ向かい、アイと子供達はサンと一緒に着替えの出来る部屋へと向かった。



昼食を終えたばかりの厨房は後片付けの洗い物がある程度で、夕食の仕込みはしているものの少しのんびりした様子。

普段ならば数人だけが居残り、残りの者達は休憩時間であるはずなのだが、ドモンが来ることを知り、全員が厨房に揃っていた。


散々ドモンの噂を聞いていた新入り達は、期待と不安が入り混じりソワソワしている者が半分、疑心暗鬼の目で睨む者が半分。

どう考えてもコック長の方がスキルが上と思われたからだ。


「ド、ドモン様!まずはカルボナーラと暗殺者のパスタと呼ばれるもののパスタの詳細をお聞きしたいのです!それに本物のラーメンとは一体?!」とコック長。

「詳細もクソもないよ。機会があればその内作るかもしれないけど、今日はヤダ。乾麺のパスタも持ってきてないしな。そもそも面倒臭いよ」

「うぅ・・・」


普段知識も威厳のあるコック長が落ち込んでいるのを見て、訝しげな目になる新入り達。

中にはこっそりとこの場を去ろうとしていた新人達も数名いた。


「そ、そういえばこのマヨネーズはいかがでしょう?あれから試行錯誤を重ね、改良を加えてみたのですけれども・・・」

「マヨ単体じゃ味の違いなんか、俺にはよくわかんねぇと思うけど・・・どれ」

「卵黄のみを使用し、最近出来た酢を使用してみたのですが・・・」


コック長が何度も注文を出し、試行錯誤の末辿り着いた至高の逸品。

この味がわからないならば、本当に新入り達はこの場を後にしようと思っていた。


「おっほー!これはまた濃厚な。これはこのままマヨネーズでもいいけど、タルタルソースにしてもいいな」

「タルタルソースですね!!もちろんその事は聞き及んでおります!今すぐに準備を致します!!」冷蔵庫にすっ飛んでいったコック長。

「じゃあそのタルタルに合う料理を一品作ってみるか。どうも俺のことを疑わしい目で見てる奴もいるみたいだしなハハハ」

「あ、いや・・・」「そんなわけでは」


鶏肉に塩コショウと小麦粉をまぶし、溶き卵にくぐらせたものを油で揚げていくドモン。

チキンカツを作るのとは違う工程に、新入り達だけではなく、元からいた料理人達もざわつきはじめた。


「はて?チキンカツとは違うものなのでしょうか?」

「今回はちょっぴり違うな。気にいるかどうかは知らんけど、一応作り方を覚えておいてくれよ」

「それはもうお任せください。おい!お前達もしっかり見ておくんだ!」


ノートに書き記すのは新入り達の仕事。

ベテラン達は肉の揚げ具合や衣のつけ具合、見た目や調理中の音まで頭の中に叩き込んでいく。


肉を上げている間、醤油と酢と砂糖を鍋に入れて、小さく輪切りにした唐辛子をパラパラとひとつまみ。

いわゆる南蛮酢と呼ばれる物を作り、揚がったばかりの肉をそこにさっとくぐらせたドモン。


「折角揚げたものを湿らせてしまうのですか?!今まで油で調理する時は、カラッと仕上げるのが大切だと教えてきていたのですが・・・」新入り達に何か言われる前に、コック長が先に牽制。

「卵で閉じるカツ丼も、ある程度湿っぽくなるだろう?まあこれはあれよりもしみちゃってるけどな。だからパン粉は付けていないんだ・・・知らねぇけど多分」


衣に南蛮酢がしみた鶏肉を切って皿に盛りつけ、たっぷりのタルタルソースをその上に。

その様子を見ていた料理人達は、揚げた鶏肉に酢が合うのかと侃々諤々の様子。


「ほらよ、これが『チキン南蛮』だ。カールもいないしコック長が味見してみるか?」

「で、では僭越ながら私めが・・・」

「これが飯にも合うんだよな。キャベツの千切りもあればさっぱり食べられるぞ」

「なるほど・・・んぐ・・・む?!おぉ!これはチキンカツとは全く違う!複雑な味わいでなんと食欲をそそるものなんだ!!」


慌てて駆け寄るベテラン調理人達。

小さくカットしたものを十数人で味見をしていく。


「こんな調理のやり方もあっただなんて!!」

「これならいくらでも食べられそうだ」

「酢によってサッパリとしてるのに、濃厚なタルタルソースと合わせることによって、こんなにも調和するのか!」

「カ、カルロス様を今すぐ呼んできます!!」

「え?ちょちょちょ待てって!あんなうるさいの呼ばなくても・・・」


試食している様子を呑気に見ていたドモンだったが、カールを呼ぶことになり慌てて止めた。

今のイライラしているカールが来れば、怒られるか嫌味を言われるかのどちらかになる予感しかしないからだ。


ツカツカと厨房へやってきたカールは、皿の上のチキン南蛮を見るなり怒鳴り散らした。


「何だこれは!一切れしかないではないか!!」

「そりゃまあ一人分しか作らなかったからな。みんなで味見したら無くなるよ」ドモンの返答に、カールから目をそらす料理人達。

「とにかく寄越すのだ。大体貴様という奴は、なぜ昼食を食べ終えた後にやってきてこんなものを・・・む・・・」

「口に合わなかったか?酢が駄目って人もいるもんなぁ」

「こーの大馬鹿者目が!!貴様のせいで、もう一度昼食を取らねばならなくなったではないか!!!コック長!同じものを作れるな?!」「はい!今すぐに!!おいお前達!!」


何やら厨房が騒がしいと聞きつけやってきたグラや伯父貴族、そして他の貴族達や奥様達。

皆、俺も私もとチキン南蛮を注文し、二度目の昼食を取ることになってしまった。


当然そんな事は異例中の異例のことで、驚きの視線をドモンに向ける新米料理人達。

そのドモンは飄々とした表情で「晩御飯まで待てばいいのにね」と新入り達に声をかけ、厨房を後にした。


新入り達がドモンの料理に驚愕したのは、その夕食後のまかないで、ようやくチキン南蛮にありつけた時であった。

この時の新入り達が後の三ツ星レストランのシェフになるということなど、当然いつものようにドモンには知る由もない。





風邪による発熱で数日前から寝込んでいて、鼻水がポタポタ。肌ヒリヒリ関節いてぇ!

その結果、次回と次々回もまた幕間用に書いていたものでお茶濁しとなります。

本編進まなくて申し訳ない。



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― 新着の感想 ―
[一言] しっかりと養生なさってくださいな
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