第574話
「領主ってこのカルロス領の?そのカルロス様だって言うの?!本当に知り合いだってのはわかったけど、どうしてその領主様があなたを訪ねてくるのよ??おかしいじゃない!!」
「暇でいつも街をウロウロと徘徊してんだよ。大方、女の尻でも追っかけていたら、たまたま近くを通りかかったから寄ったんだろ」
「貴様はまた勝手なことを!」
矢継ぎ早に質問をしたアイ。
半信半疑であった様々なことが、次々と本当のことだったのだとわかり、感心するやら呆れるやら。
「とにかく傷を見せてみろ。ヨハン、医者を上げても良いな?」ドモンの冗談に一瞬額に青筋を作ったが、すぐに気を取り直すカール。
「ああそれはもちろん構わないけど・・・ドモンお前、また怪我をしていたのか?」「えぇ?本当かい?!」
「平気だよこんなもの」
ヨハンは外で待機しているという医者を呼びに一階へ、エリーはドモンの服を捲ってみせた。
血はすでに止まっているが、ザックリと斬られた脇腹がなんとも痛々しい。
「やだもう何よこの傷跡!少し怪我したとは言ってたけど、大怪我じゃない!!」
「笑うと痛い程度だよ。その証拠に普通に働いていただろ?」
「く・・・」
カール、痛恨の極み。
ドモンを守るために雇ったはずの憲兵達が、結果的にドモンを傷つけてしまった事を後悔した。
大きなカバンを持った医者が慌ててやってきて、ドモンの傷を診る。
医者は例のボッタクリ医者ではなく、ドモンも見たことがない若い医者。
いつもの医者は病院長としてたくさんの患者達を受け持っており、どうしても来ることが出来なかったらしい。
「傷口は塞がってますが、ここから菌が入っているやもしれません。一応消毒だけしておきましょう」
「大丈夫だってのに。俺はそういうのは平気な方なんだ」
「頼むから医者の言うことを聞いてくれ、ドモンよ・・・」
「・・・・」
十数針は縫う大怪我だったにもかかわらず、傷口は完全に塞がっていて、医者も首を傾げながら消毒を済ませる。
「この人普通じゃないから。こうなればもう心配はいらないわよ」と、ソファーでうっつらしていたナナも、あくびをしながら様子を見に来た。
一方まだ深刻な顔で心配をしているカールを見て、ドモンはやや申し訳ない気持ち。
医者を帰したあとの部屋の中、残ったカールがソファーへ。
「すぐに来なかったってことは、やっぱり仕事も忙しいのか?随分街に人も増えたもんな」
「それもあるが・・・まあ実際以前のように、自由に街を視察して回るようなことが出来なくなってしまったのだ。身の安全も守らねばならぬからな」
「だからこそのあの門か。これだけ人口が増えたら、カールの命を狙う悪い奴らもいないとも言い切れないし」
「うむ」「当然ですわね。それによりドモン様を傷つけたことは許しませぬが」
それについてはシンシアも納得。
そもそもシンシアはかなり自由になった現在でも、ひとりで街を出歩いたことがただの一度もない。
「へぇ~カールくらい強けりゃ、多少襲われても平気だろうに」
「盗賊程度には負ける気はせぬが、暗殺者などに不意を狙われれば、私でも対処はしきれぬであろう」
「気をつけてくれよ?カールもいい歳なんだから。今から飯にするところだけど、カールも食っていくか?どうせザンギの噂も聞いてんだろ?その他にもう一品、珍しくて美味いのを作るぞ」
「当然であろう。そのもう一品は何を作ろうというのだ?」
行列を整理していた騎士から、もちろんその報告は受けている。
怪我をしているドモンに無理をさせるのもどうかと考えたが、食べられるものならなんとか食べたいと思っていた。
他の者達はドモンに「そろそろ休んではどうか?」と言おうとしていたが、珍しくて美味いものを作ると聞いて予定変更。
大丈夫そうなら作ってもらおうと黙っていた。
「もう一品はパスタだよ。あるところから、とあるパスタを貰ったんだ」
「ほぅ?まあ貴様が作るものだ。どんなものでも安心しておるぞ」
ウンウンとお茶を飲む一同。ドモンの作るパスタに間違いなんてない。
「その名も・・・『暗殺者のパスタ』だ」
「ブッ!」「ぶはっ!」「ハァ??」「なんかぜんっぜん安心できないんだけど!」「やだ!カールさんが危ないわぁ」
皆に盛大にお茶を吹かせてから、ドモンはサンを連れてキッチンに入った。




