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第571話

「ザンギ二人前!いや三人前だ!冷えたエールもくれ!」「こっちが先よ!四人前!四人前お願い!!二人前は持ち帰りにして!」

「今日は仕込みが足りないから、悪いがひとり二人前までにしてくれ!おいドモンよ!そっちはどうだ?!」

「今手分けして漬け込んでるよ。冷蔵庫の鶏肉だけじゃ足りそうにないな。それにもう俺の手がもたないよ・・・手がザンギのニオイだ」


ひっきりなしに続く注文に、もうてんやわんやの厨房。

ドモンに調理法を教わったコック達も手伝ってはいるが、全く間に合わない。


「私がお肉屋さんまでお願いしてまいります!あと卵も!」「私は酒屋さんへ!もうあと50杯も出れば底をつきますから!」

「ふたりがいなくなっちゃったら、食器洗いが間に合わないよハァハァ。こんなの初めてだわ」

「すまないねぇ三人共。お願いよぅ」


例の侍女三人もこんな状況になったのは初めてで、息をつく暇もない。


店内、そしてテラス席も満席。そして店の前には百メートルを超える程の列。

テラス席で食べていた人や、持ち帰りの途中で歩き食いをしてしまった人により、ザンギの噂は一気に拡散された。


何よりも『あの異世界人が街に帰ってきて、新しい味の唐揚げを売っている』という情報が、人をより呼び寄せることになったのだ。


「あ、あの、私もなにか手伝えることある?」と恐る恐る厨房にいたドモンに声をかけたアイ。

「おおアイちゃん!じゃあ洗い物手伝ってやってくれないか?もう皿とコップが山になっちゃったって!」しゃがんで鶏肉を素手で漬け込みながら、首をクイクイと右斜め後ろの流し台の方へと向けたドモン。

「わかったわ!」「じゃあドモンさん、俺達は仕事があるんでこれで」「アイさんまたね」

「おお、じゃあほら、特別にお駄賃だ」


鍛冶屋と大工の男の子達に、揚がったばかりのザンギをひとつずつプレゼント。


「ありがとう!アチチチ」「ここの鶏肉料理には目がないんだ僕達。アッチャ!」

「ヤケドしないでよ?あなた達」

「大丈夫大丈夫!熱いのには慣れてんだ俺」「じゃあねアイさん」


まだ少し他人行儀なアイ達を見てドモンは首を傾げたが、今はそれどころではない。

しかし更にそれどころではないのはヨハンとエリーだ。


「ドモン、おめぇ・・・子供にだけは手を出しちゃ駄目だとあれほど言っておいたのに・・・うぅ、もう終わりだ」

「駄目よぅドモンさん!どうしてそんなことしたのよぅ!お姫様だけじゃなく、こんな小さな女の子まで抱くだなんて!サンちゃんでも満足できなくなってしまったの?!また無理やり押し倒してしまったんじゃ??」

「違いますよ!私は!」「違う違う違う!それに無理になんて俺はしたこと・・・あまりないし」


ヨハンとエリーの言葉でドモン達に冷たい視線が集中し、アイとドモンは全力で否定。

ただしホビットの評判はまだまだ低いため、この場ではそれを秘密にしなくてはならず、上手く說明できずに気がつけば泥沼化。


ドモンのそばではナナが「私は出会ってすぐに押し倒されたけどね」とジトッとした目でドモンを睨みつけ、エリーの横では涙目のサンが「ご満足していただいてますぅ!私は御主人様のご要望通りに、子供服だって着られますから!」と必死になって訴えていた。


「夜に御主人様から頂いたランドセル?と呼ばれたカバンを背負い、御主人様の娘や妹になったり」

「シーッ!サン!シーッ!!」

「幼児のふりをして『パパ許して!』とか『お兄ちゃん大好き』と言うと、御主人様はいつも嬉しそうにサンのことを」

「サーン!!」


そうしてエリーや客だけではなく、アイにまでジトッとした目でドモンは睨まれることになり、ドモンの評判はホビット以上に地まで堕ちた。

だがそのおかげもあり、アイに対しての誤解は解けた。


「私はそんなこと絶対にしません!」

「まあそうだったの。勘違いして悪かったわねぇ。でもドモンさんのことだから、抱かれはしなくても、裸を覗かれたりなんかはしなかったかい?」エリーとアイと侍女が、三人並んでジャブジャブと洗い物。


「いやそれは大丈夫というかその・・・裸は見ちゃったというか見られちゃったというか、まあそこはお互い様で・・・というより私、実はこう見えてサンよりも年上なんですよ」踏み台に乗りながら食器をすすぐアイ。

「えぇ?!ぜんぜん見えないですよ!」「本当ねぇ・・・でもやっぱり裸を見られちゃってたの。私も前に覗かれたのよぅ」手際よく食器を拭いていく侍女。そして余計なことを言うエリー。


女三人寄らばなんちゃらではないが、三人のおしゃべりは弾み、結局ドモンがこの侍女にした悪行までアイや客にバレてしまった。



この日の夜は、各方面から責められるのは必至。

ドモンは謝罪会見を待つ不倫男にでもなった気分であった。本当にそうなのだけれども。


「それはそうとアイちゃん・・・さっきの子供達のことなんだけどさ。な、名前とか聞いてみたかい?」仕込みを続けながら、さり気なく聞いたドモン。ドモンもあの子供達の名前は知らなかった。

「それがまるっきり言おうとしないのよ。ふたりともなんだか苦虫を噛み潰したような顔をして、名前は別にいいって。自分達の名前があまり気に入らないみたい」

「そ、そうか・・・」


いくら親の顔が分からなくても、五歳程度なら自身の名前くらいは覚えているだろうとドモンは考えていた。

それをきっかけに、お互いが気がつくのではないかと期待しつつ。


だがその言葉から察するに、誘拐された際に恐らく別の名前をつけられ、そしていつしか忘れてしまったのだと推察される。

大人だったアイですら記憶が飛ぶほどのショックだったのだから、子供達も同じだったのかもしれない。


似たような境遇のサンにそれとなく聞いてみたが、「私の場合と違い、誘拐などで奴隷商などに売られる子供の場合、足がつかないように何度も名前を変えさせたりすると聞いたことがあります」と説明を受けた。



もうドモンはアイとその子供達が親子だと確信をしていたが、確たる証拠が見出だせない限り、本人達には伝えられない。

万が一それが勘違いだった時、もしくは本人達がお互いに認めなかった時も、やはり傷つけるだけとなってしまうからだ。


そういった場合、元の世界ではDNA鑑定といった便利なものがあるけれど、当然この世界にはない。

そのような状態で第三者が「あなた達は親子だ」といくら言ったところで、「ハァ?」となるだけだ。


ドモンも父親の姿を見ずに育ったが、その事情を知ってるスナックのママなどに、ドモンのような酒飲みでスケベな客のオヤジを紹介されて「あんたら親子なんじゃない?」などと冗談を言われたこともあった。

けれども、その度に「ハァ?」という反応をする他なかったのだ。


いくら自分と似てようが、いくら気が合おうが、そしてもしそれが本当に父親だったとしても、確固たる証拠がなければ所詮は赤の他人である。


「あのさ・・・アイちゃんのとこも男の子ふたりだったよな?名前はなんていったの?言いたくなけりゃ別にいいけどさ・・・」ザンギのニオイのついた手を洗いつつ、平常心を保つドモン。アイと目も合わせず、あくまでさり気なく。

「・・・別に。上の子がアントニオ、下の子はガウディよ」

「へ、へぇ~・・・そりゃなんだか、将来凄い建物を建てそうな名前だな。ふたりで一人分のような気がしないでもないけど・・・」

「???」


ようやく得た少しだけのヒント。

あの子供らに直接聞くのは多少リスクが高い気がしたので、あとで親方連中にさり気なく聞いてみようとドモンが思っていたところ、タイミングよく「ドモンさんはいるかい?!」と大工の親方がやってきた。





親子関係について、なんともまどろっこしいやり取りや説明があるけれど、リアルドモンさんの実話というか実際にあったことなので書かせてもらった。

俺の場合は顔も名前も知らないまま、突然父親が死んだという報告だけ横浜の役所から連絡だけきたけども。


実際突然親が現れても、DNA鑑定でもしなけりゃ信じるはずないよなぁ(笑)



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