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第556話

「う、うわぁぁ・・・」

「サン!動けるかサン!助けるぞ!」

「は、はい・・・」


炎に包まれた百名以上の盗賊の半数は、もうピクリとも動いていない。

動いている残りの半数も最早虫の息で、正直助かるかどうか難しい状況。


ドモンはサンのところまで行って、腰が抜けてガタガタと震えているサンを無理やり立たせた。

サンの顔は唇まで真っ青。ドモンはその腕を掴み、引きずるように強引に玄関へと進む。


「た、助けるったって、これじゃとても無理よ!」とナナ。

「それに助ける義理もありませんわ!」シンシアも止めた。


「何が何でも助けるんだよ!・・・・サンをな・・・・」

「え?」「あ」


サンが行ったのは、小さな火の魔法を一発飛ばしただけであるが、結果的にそれが引き金となったことには変わりない。

それによりこんな凄惨な状況となった。


死刑を執行する刑務官ですら、精神的負担を分散するため、三人同時に執行ボタンを押す。

そうすれば皆『きっと殺したのは自分ではない』と思い込めるからだ。


ドモンはこうなることを予測できず、その役をサンに押し付けてしまった。

本人に知らせないまま、死刑執行のボタンを押させてしまったのだ。

当然サンのショックは計り知れない。


「熱ぅぅいぃぃ!!」「痛ぇよぉぉ!!」「誰かもう殺してくれ!頼むぅぅ!」

「あ・・・あ・・・」


玄関の扉を開けた瞬間、サンはシャワシャワと自身の脚と床を濡らした。


「サン大丈夫だ!みんな息があるぞ!急ぐんだ!」

「は、はい」精神崩壊寸前のギリギリで、ドモンの言葉に反応したサン。

「誰か回復魔法使えるか?!」

「少しだけならば私が!」と外へ飛び出す騎士。


「古いポーションならいくらかあったはずだけども」よろよろと立ち上がるオーナーの奥さん。

「ドモン様のために頂いた薬草ならば、自動車の荷物の中にまだいくらか残っておりますわ!ワタクシ、取ってまいります!」シンシアも飛び出した。


被害に遭わなかった残りの盗賊は、その殆どが大爆発を見た瞬間に逃げ出しており、この場に残っているのは数十名ほど。

ただしドモンらに復讐しようとか、仲間を救い出そうといったことではなく、腰が抜けて動けないだけ。

皆次になにかすれば、今度は自分がこうなるとしか思えなかったのだ。


「おい!お前らの中に回復薬持ってる奴や、回復魔法使える奴いねぇか!いるなら手伝え!!」

「ひぃぃぃ!!」「み、見逃してくれぇ!!」「うわわわ・・・」


腰を抜かしている盗賊に向かってドモンが叫んでみたものの、当然手伝う者はおらず、その場にポーションや薬草などを放り投げ、這いつくばって逃げていく野盗達。


「チッ!人の手が足りねぇ!ナナ、アイちゃんも呼んできてくれ!無事かどうかも心配だし」

「わかったわ!」

「サンは泣いてる場合じゃないぞ!お前にかかってる。お前なら出来るはずだ」

「うぐっ・・・はいっ!」


サンの治療と癒やしの祈り。

他の者達も負けずに救護に励む。

薬草を取りに行ったシンシアと、部屋に飛び込んできたナナに大事なところをバッチリ見られたアイも子供らと一緒に合流。


全員の懸命な救護活動により、この場にいる約70名全員が一命をとりとめた。


それから少し経った頃、カールが寄越した騎士団が到着し、治療した野盗全てを捕縛。そして王都へと送られていった。

その後盗賊がどうなるのかは、正直もうドモン達の知ったことではない。

サンの気持ちが救われたことが全て。


「サン、よくやった。よく頑張った」サンの頭を抱き寄せたドモン。

「うぅぅ~」

「サンが気に病むことはないですわ。ワタクシ達に出来る対処をしたまでですもの。討伐も治療も。あとは然るべき者達に任せたら良いのです」とシンシアは慣れたことなのか、案外冷静。

「でもぉ・・・あの方達の中にも、こちらのようにご家族がいたかもしれないのに・・・親の帰りを待っていた子もいるかも知れないのに私・・・うぅぅ・・・」


何を言われてもサンのショックは抜けない。

仕方ない、最善を尽くした、と言われてもどうしても後腐れが残る。


有名な『トロッコ問題』の当事者になったかのような気分。

簡単に自分を正当化出来るわけがない。


ただ一人を除いて。


「大丈夫だサン。俺が忘れさせてやるから。俺がいるからな?」

「はい・・・はいっ」

「サンのせいなんかじゃない。それに襲ってきたのはあいつらだ。サンは悪くなんかないんだ」

「はいっ!御主人様・・・ありがとうございます!ありがとうございます!」


ドモンはあっさりと、その罪全てをサンに擦り付けた。

まるで自分は何もしていないかのように。


ドモンは気がついていた。

気がついてしまったゆえに、心の逃げ場をサンに求めたのだ。


「もっといたかと思ったけど、70人くらいだったのね。みんな体が大きいから多く見えていたのかしら?」ナナが首を傾げる。

「・・・ああそうだな」

「あの爆発で遠くに飛ばされて、そのまま逃げ帰ったのよ。それよりもみんな、掃除よ掃除!宿の中はもう滅茶苦茶なんだから!」とアイ。

「安心したらお腹が空きましたわ。ひとまず食事をしてからにいたしましょう。それまで騎士の皆さん、しっかりと頼みましたわよ?」他所の騎士を顎で使ってしまうシンシアはやはりお姫様。

「はい!」「お任せください」「御意に」


ゾロゾロと宿に戻る一同を見ながらふとドモンは足を止め、タバコを咥えて火をつけた。


「俺は久々に腹いっぱいだぜ。ごちそうさーん」


盗賊のボスを含む48名もの遺体は、爆発後の土煙が流れた後、いつの間にか消えていた。

ドモン以外の一同はそんなことになっているとは一切分からず、逃げたのだと判断。一部始終を見ていたはずの周囲の野盗らですら、ボスが死んだことすら分からなかった。


唯一ドモンだけがパチプロ時代に培った違和を感じる能力で、遺体が消えたことに気がついたのだった。




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