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第553話

一度大渋滞が起これば、その原因を取り除いたとしても、すぐには解消されることはない。

玉突きのように前から順番に少しずつ進むだけだ。

ようやく流れが戻り始めたと思っても、また何かしらのトラブルが起こりまた止まる。


当然それは盗賊が仕組んだことであり、護衛の騎士の到着を遅らせつつ、ドモン達を逃さない罠である。


盗賊はその渋滞を尻目に森の中に入り、慣れ親しんだ自分達だけのいつもの道を馬で進む。

その数、カルロス領側から200、少し遅れて王都側から300、裏手の山間部側から100の合計600人。


「野盗が前みたいに複数人いたら勝ち目ねぇぞ」

「わ、私だって今回は戦うわよ。良い剣貰ったし」「私も命を賭して戦いましょう」緊張気味のナナと騎士。

「サンが拐われた時は、ふたりが相手で逃げたんだぞ?その後仲間やってきて、俺なんてあっという間に死んじゃったんだからな?世の中そんなに甘くはない」

「せめて昨日いたオークさん達がいてくれたら良かったのですけれど・・・」「ですわね」


なんとか援軍をつけたいサンだったが、残念ながらオーク達は早朝に出発。


「まあそこまでの人数じゃないと思うけどな。こっちだって早馬で騎士がひとりようやくやって来れたくらいの話だし」

「目立つ街道を大人数で進めば、見回りをしている憲兵の目にも止まりますし、すぐに我らにもその報告が入っていることでしょう。ならば森の中を少人数でゆっくりと進むしかないですからね」と騎士。


盗賊が森の中をゆっくりと進んでいる間に、護衛の騎士達が先回りして到着するだろうという算段。

昨日の晩あたりに出発し、森の中を進んでいるならば、今朝の出発でも十分に間に合うとドモンも騎士も思っていた。


が、実際はまったく様子が違った。


ドモン達が王都を出発した時点で、すでにボスに報告が行っていたのだ。

その時点で野盗達が集められ作戦は開始されており、カールの街で探りを入れていたのは、その仲間のほんの一部にすぎない。

はじめの道の駅で捕まえた連中も、命令を聞かずに先走りした野盗の一部。


ドモンが思うよりも、盗賊はずっとそばに大勢いた。


ホビットのところへドモンが寄り道したのはボスも予想外であったが、その時間の分、盗賊は更に仲間を集めることに成功。

ドモンらがこの宿に入ったことを確認し、すぐに連絡、そして作戦が決行された。


「宿を燃やして燻り出し、裏切り者も含め、女子供全て皆殺しにしろ。ただしあの異世界人だけは殺すな。俺の手で始末してやる」身長2メートルはあろう髭面の盗賊のボス。


「こんな人数に囲まれてると知りゃ驚くでしょうな!ヒッヒッヒ」

「女達は殺す前に犯していいですかい?」

「えらいイイ女達を連れてるそうだな」

「ハメてる時に首を絞めて殺すと、キュッと絞まって気持ちいいんだよなぁイーヒヒヒ!!」

「あの生意気な嫁にちょん切った旦那の首持たせて、命乞いさせてみようぜ」


午後1時。

宿から100メートルほど離れた場所で周囲を取り囲み、身勝手で残酷な会話を繰り広げる野盗達。

その危険にいち早く気がついたのは、弱い魔物であるホビットのアイ。


「すごく・・・すごく嫌な気配がする。それもたくさんよ。ひとりふたりじゃないわ!」カーテンの隙間から窓の外を見たアイ。

「確かに様子がおかしい。宿に寄る旅人も来ないどころか、道を走る馬車とかも全くいないしな」ドモンも反対側の隙間から外を見た。


「援軍が到着する様子もない!何が起こっているんだ!?」道が空いているなら、もう到着してもいい頃だと考えた騎士。

「道を止められてんだよ。こりゃ本当に思っていたよりもずっとヤバいな」


そんな真似、ひとりふたりどころか、もっと大勢いないと出来るはずがない。

残念ながらアイの言っていることは間違いではないと、全員が悟った。


「こんな時、異世界物の小説なら、鼻で笑って余裕で相手するんだろうな・・・」

「ねぇちょっとあんた、な、なんとかするんでしょどうせ」

「話の通じる相手ならまだしも、ほらなんか五人くらいデカいの出てきたぞ?ボスかな?とてもじゃないけど話が通じる相手じゃなさそうだ」

「手下ね、あれ。もっと大きな人いっぱい出てきたわ。ねぇなんとか出来るんでしょ本当は」


絶望。

これをなんとか出来るくらいなら、先程ドモンが言ったように、数人の盗賊なんかに殺されてはいないのだ。

当然ナナもそれを理解していた。理解して、最期の冗談を言った。


窓から見えた野盗達は筋骨隆々で、最初に見えた二十人くらいだけでも、人気のプロレス団体が出来そうな雰囲気。

勇者パーティーのミレイがたくさんいるような感じだけれども、ミレイと違って全員殺意を持った男である。

相手がひとりであっても勝てる気はしない。


「なんか前にやってた結界魔法だかで、俺らを守ったり、あいつらを閉じ込めたりは出来ないのか??」

「あれは魔物や獣を近づけないってだけで、人は自由に出入りできるのよ。焚き火の火も通るし、雨も防げない。土ぼこりくらいなら抑えられるけど・・・」


馬小屋の掃除をしていた時、突風が吹いて藁や土ぼこり、そして片付け忘れて乾燥した馬糞が粉になって宙に舞い上がりかけたことがある。その時ナナは咄嗟に結界魔法で押さえつけた。

決して自分は粉になった馬糞を吸い込んではいない・・・と、信じたいナナ。


「あれって魔物の私でも普通に通り抜け出来るわよ」とアイ。

「確かにゴブリンさん達も結界魔法を自ら使うと言っていました」サンも続く。


「そもそもあんな大人数は無理よ。私の結界魔法、私のお部屋くらいの大きさにしか出来ないし。私達を守るにしてもギュウギュウ詰めね」

「それ結界っていうのかよ!蚊帳かなんかの間違いじゃねぇのか?!」ドモンのツッコミにナナは顔が真っ赤。

「私の魔法ならば、外の野営場を取り囲むくらいの結界なら張れますが、流石は全員は無理かと」と騎士がちょっぴり魔法自慢。


だからといって、今はそれがどうしたという話。人が通り抜けられるなら意味はない。

ナナが少しだけ不機嫌になっただけだ。


「結界張って、その中で大規模な土ぼこり魔法とか使って、目眩まししてる間に逃げるとか・・・」

「そんな魔法ないわよ!なによ、その土ぼこり魔法って!」


風に関する魔法があるならば、とっくに髪を乾かすのに使用している。


「おい異世界人!いるのはわかってんだぞ!10分以内に全員連れて出てこい!さもなければ宿に火を放つ!いいな!」大声で叫ぶボス。

「ドモンの美味しい料理とか振る舞って、なんとかならないかしら?材料ならたっぷりあったでしょ」

「10分で作れるわけ無いだろ!いい加減に・・・ん?」


ドモンの頭の中で何かが結びついた。




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