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第546話

「すっかり長居しちゃったな。ギドのとこまでは行けないにしろ、さっきザックに聞いたもう一つの道の駅の宿には着きたいところだな。いざとなったらこの中で寝られるけども」

「そうですね。日も暮れる頃になれば進みも速くなると思われますので、きっと日を跨ぐこと無く到着すると思いますよ」


今の運転手はサン。

道も広く運転がしやすいため、シンシアと交代することにした。

横でアイがものすごく不安げな顔。


「私絶対宿がいい!部屋はふたつ取ってよね。私とドモンの部屋と、あんた達の部屋と」座席で寛ぐドモンの腕に絡みついたナナ。

「そんなことは許されませんわ!ワタクシもドモン様と同室になるべきですわよ!」シンシアがパーンと座席の前の小さなテーブルを叩く。


「あんたなんかサンが居なけりゃ何にも出来ないじゃない!アイさんがサンと一緒に寝るっていうんだから、あんたもそっちの部屋に行きなさいよ!」

「う、うるさいですわね!では大きな部屋に皆で泊まれば良いのですわ」

「それじゃここで寝るのと変わりないじゃない!どうやってドモンと・・・すればいい・・・のよ・・・」

「ん?」「え?」「あ」「・・・・」


勢い余ったナナが妙なことを言いかけ、赤い顔して横を向き、いつもの鳴らない口笛。

呆れた顔をしたシンシアが深い溜め息を吐いて、眉間あたりに右手の中指を添えた。一般人には出来ない華麗なヤレヤレのポーズ。


「シンシア様!あのあの、実は今夜私の方から折り入ってご相談があったのです!披露宴の時の衣装のことなのですが・・・私の方が悪目立ちしてもいけませんし」

「そうですわね。衣装はもう仕上がっているものの、最終的な仕立てをお願いしなければとワタクシも考えていました」

「は、はい!」

「サンにはワタクシが考案しました殿方の視線が集まる、とーっても布地が少ないドレスに仕立てようと思っていましたの。サンの大事なところ、上手く隠せるかしら?オホホホ」

「は、はい・・・」


サンの咄嗟の判断で、ドモンとナナを二人きりにする作戦は成功したものの、したたかなシンシアにはとっくにその意図はバレていて、サンは大きな大きなしっぺ返しを食らうハメとなった。


もちろんシンシアなりの冗談だとサン自身もわかってはいたが、万が一ドモンがそれに賛成したならば、本当にそんな衣装になりかねない。

サンは以前ドモンに仕立ててもらった黒のドレスで披露宴を行うつもりでいたが、あれでもかなり露出度が高いというのに、更にそれの布地が半分になってしまったドレスを頭に想像し、顔から血の気が引いていった。


ドモンが妙なことを言い出さないように祈るのみ。なのに・・・


「ウヒヒいいなそれは。それならふたりとも裸に亀甲縛りで出たらどうだ?紐を使って亀の甲羅のように体を拘束・・・じゃなかった、着飾るんだよ。まあ大事なところはほぼ全部出てると言うか、余計目立っちゃうんだけどな」ドモンがニヤニヤ。サンはますます真っ青。

「だ、駄目よドモン!あれだけは絶対に!人間の尊厳を全て失うようなあんな恥ずかしい格好させちゃ駄目!惨めで悲しくて切なくて恥ずかしくて・・・あぁぁぁ」なぜか両手で顔を隠して悶絶するナナ。

「ま、まあ今夜その相談をいたしましょう」「は、はい・・・」「・・・・」


どちらかと言えば恥知らずで大胆でスケベなナナが、これほどまでに恥ずかしがるそれは一体なんなのか?

シンシアとサンの興味は尽きないが、アイは相変わらず怒り心頭。


車内ではそんなくだらない会話を繰り返しながら、夜もすっかり更けた頃に宿のある道の駅に到着。

ここはもう街が近いためなのか、今までの道の駅とは違い一軒の宿しかないただの休憩所のような雰囲気。

必要な物があればこの先の街まで行けといったところか?


宿を使用せず、野営をしているグループもチラホラ。

先程まで道路工事をしていただろうオーク達が焚き火を囲んで談笑をしていたり、腕の立ちそうな職人が、馬車の下に潜って整備しているのが見えた。


「御主人様、お部屋の方がふたつ取れましたぁ。ただし浴場の方は日が変わるまでしか入れないようで、あと一時間ほどで閉まってしまうようです。浴場はひとつしか無く、男女交代での入浴のようでしたが、他のお客様はもう入られないとのことでしたので、貸し切りにしていただきました」と出来る女のサンが何から何まで手配。


「それならみんな一緒に入れるな。いやぁ良かった良かった、早速行こう。腹は減ってるけど飯は後回しだ」

「駄目よドモン。アイさんもいるんだし、あんたはお風呂も後回し。みんなが上がったら私と一緒に入るわよ。ちゃっちゃと洗ったげるから」


ドモンはアイのことまで気にしていなかっただけだが、しっかりとナナに怒られた。


「え~!別にいいじゃないか。サンよりペッタンコの小さな子供みたいな大人なんて珍しいんだから。ナナも興味あるだろ?本当に子供を産んだのか、アソコもじっくり見て確かめてみようぜ」

「イヤァ!この変態悪魔め!」「ダメに決まってるでしょこのバカ!」「ドモン様!」「せめてサンので我慢してください・・・」

「じょ、冗談だってば・・・まさかそんな本気でみんな怒るとは・・・仕方ないナナので我慢するか」

「なにが我慢よなにが!大体なんで私がそんなことしなくちゃならないのよ!それにはっきり言って、私本人よりももうたくさん見てるでしょうが!前にも言ったけど、胸が大きくなってからは、自分のおへそすらもう何年も直接見てないんだから!」


ちょっと悪乗りしただけだったのに、ドモンは女性陣から非難轟々。

サンとアイはそっと自分のお腹の辺りを見て小さくため息。シンシアは「ワタクシも恐らく見えないですわよ」と見栄を張った。


部屋に荷物を置いた後、アイとサンとシンシアの三人が浴場へ。

煌々と照らされた照明になにか妙な雰囲気を感じつつも、気持ちの良いお風呂で旅の疲れを取りご機嫌。


「オホホホ!見えておりません!ワタクシ見えておりませんわ!オホホホホ!!」

「私は頭を下げなくてもおヘソ見えています・・・」

「ナナはわかるけど、あなたは少し前かがみになれば絶対に見えるはずよ!」

「ワタクシいつでも背筋を伸ばすようにと躾けられておりましたのでホホホ」


身分も種族も違うが、それこそサンの言っていた裸の付き合いですっかり仲良しになった三人。

ホカホカと髪の毛から湯気を出しながら、きっちり三十分で風呂を出てドモン達と交代。


更衣室で服を脱ぎ、ドモン達も早速浴場への扉を開けたが、その瞬間ドモンの左眉がピクリと動いた。




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