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第544話

翌日早朝。自動車まで数十人のホビット達が見送りにやってきた。

たった一日でドモン達はすっかり打ち解け、今は別れを名残惜しんでいる。


ドモン達に一緒についていくアイは、その光景を不思議そうに見ていた。

人間達とまた仲良くして欲しいと願っていたが、実際にそこにいるのは悪魔と思われる者だったためだ。


サンを、そしてホビット達と人間達を、悪魔から守らなければならない。

その使命に駆られてこの場にいるのだが、その元凶であるドモンを囲んで皆が談笑しているのだ。


「残った串と炭は置いていくから好きに使ってくれ。あと一応これが炭の作り方だ」とホビットの長にメモを渡したドモン。

「やあ何から何まですまないなあんた。あと娘をよろしく頼むよ」

「それは任せておけ。例の件はどうなるかわからないけど、娘さんはきちんとまたここへ送り届けるから」

「次は全員で大歓迎するよ。また蒸し風呂でなワッハッハ」

「あれはあれで良い経験だったよ。ナナとシンシアなんてその時のこと思い出して興奮しちゃって、夜は大変だったんだから。俺が疲れて横になった後、お互いにイタズラしあって、ダメダメって罠に嵌ったゴッコやってたぞ」

「ちょちょっと!それ言わないでって言ったでしょ?!」「酷いですわドモン様!」


焦るナナとシンシアを見て大笑いをするホビット達。

アイはニコニコとそれらを見守るサンと手をつなぎ、フゥとひとつため息をついた。


「あの人いつもあの調子なの?」とアイ。

「はい!御主人様はいつでもあんな感じです」サンはニコニコと笑ったまま。

「お父さんがあんなに笑うところを見たの久しぶりだわ」

「お父様の方も、アイさんが変わったとおっしゃられていましたよ」

「そうかしら?なんだか怒ってばかりのような気もするけど」

「御主人様のお側に居れば、同じように笑える日がきますよきっと。私もそうでしたから」


サンはアイよりも長い間、心の底から笑っていなかったことを思い出す。

今はもう笑っていなかった日々を思い出すのが困難なほど、笑顔が絶えず幸せだ。

ドモンならばアイもそうしてくれるとサンは信じ、アイにそう言った。


ナナとシンシアには、ホビットの長からアイへのカルロス領の観光案内を頼まれたと誤魔化し、無理やり納得させた。

もちろんスケベは禁止。そしてアイがサンを守るという成り行き上、サンからもしばらくは愛し合うことは出来ないとドモンは告げられた。



皆と別れ、アイを含む一行はホビットの街を出発。草原を抜けて元の道へ。

カルロス領に近づくにつれ、馬車や人々の渋滞は悪化していたが、途中から道幅が広がって片側二車線となり、それまでとは打って変わってスムーズに流れ出した。


道幅を広げる作業をしている人々も見えたので、恐らくいずれ全線片側二車線のような大きな道となるのだろう。

一緒になって作業をしていたオークやオーガの姿も見えた。


「なんか随分と雰囲気が変わった気がするんだけど・・・半日も行けばギド達がいた村だよな?」とドモン。

「流石に半日じゃ着かないわよ。誰~もいなくてもっと早く走れたら着くかもしれないけど」山や森などの位置を見て、大体の現在地を確認した冒険者のナナ。

「交通量が王都のそれと変わりがありませんわ。ワタクシも何度か旅をしておりますが、このような田舎の道中で、ここまで賑やかな道は覚えがないですわね」運転手は相変わらずシンシアの担当。サンとアイは助手席に並んで座っている。


昼食のため途中で寄った道の駅は、最初に寄った道の駅よりも規模が大きく、人間達はもちろんゴブリンやオーク、そしてオーガなども交えて、やんややんやと交流を深めていた。

その様子はもうちょっとした村か街のよう。


日本の道の駅と言うよりも、テレビでも紹介されるような有名なサービスエリアのような大きな建物があり、その横の通路には十数軒の食事処や道具屋、馬車の修理を行う工場などが並んでいる。

裏手に行くと大浴場を備えた宿やヨハンの店のようなバーがずらり。更にはここに引っ越してきた住人達の家もたくさんあった。


「折角なら泊まってひとっ風呂浴びていきたいところだけど、流石にまだ早いかぁ」

「まだお昼をちょっと過ぎたくらいよ?カールさんも待ってるだろうし、私もお父さんとお母さんの顔を早く見たいよ」


宿やお風呂に興味がないわけではなかったが、ここまで来たならばナナも早く一度家に戻りたい。


「そうだった。カールにサンの結婚披露宴の準備しとけって言っちゃったしな」

「あらドモン様、ワタクシのことをお忘れになられておりますの?まあワタクシの披露宴は、お城の方でも行う予定ですけれども」

「忘れちゃいねぇけど、嫁をふたり並べて披露するって流石にどうなんだ?恥ずかしいだろうよ、俺もお前らも」

「そんなことはございませんわ。ね?サン。存分に披露なさってくださいまし」

「はい!むしろ私なんかがシンシア様と一緒に行ってもいいものかと恐縮しております」


どちらかと言えばシンシアが横入りしてきたような状況なのに、サンはそれがさも当然といった様子。

身分で考えれば確かに一国の姫とただの侍女なのだから、優先されるべきはシンシアの方なのだが、ドモンはどうにも腑に落ちない。

カールもまさか他国の姫が自分の屋敷で結婚披露宴を行うことになるとは思っておらず、そう告げられた時には大混乱を起こしていた。


そんな中、ドモンよりも更に腑に落ちていないのがアイ。

詳しく説明をすれば恐らく納得してくれるはずだけれども、それではカルロス領まで連れていけなくなる可能性が出てくるため、ドモンとサンはやんわりと否定しつつ、やんわりと肯定もしていた。


「『ケッコンの披露』ってまさか本当に結婚式を披露することなの?」サンに問うアイ。

「ど、どうでしょうか?あーでも私に出来るでしょうか?とっても恥ずかしいです・・・」上手く濁すサン。

「何が恥ずかしいのです。サンにはドモン様に身も心も捧げる覚悟はありませんの?ワタクシはありましてよ?恥じることは何もありませんわ」現在のややこしい状況を知らないはずなのに、シンシアは見事にサンの援護射撃を行った。


ぐぬぬぬ・・・とドモンを睨みつけたアイだったが、ドモンに両脇を持たれてひょいと持ち上げられ、そのままナナの大きな胸へパス。

ナナに抱っこをされてこの世のものとは思えない柔らかさに包まれながら、皆で甘い匂いのする店に入ると、混雑した客の向こうに驚きの人物達が待ち構えていた。




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