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第543話

声の正体は戻ってきたアイのものだった。が、しかし・・・


「無駄よ。だってこの人、好き勝手しかしないスケベな悪魔だもん。美味しいもの作るから許したげて。ほらドモン、早く食べましょ」

「ワタクシにはもっと好き勝手していただいて構いませんわよ?ドモン様。世間知らずなワタクシをもっと躾けていただきたいものですわ」


全く意にも介さないナナとシンシア。

他の者も唖然としつつも、今は目の前の焼き鳥に夢中。

ドモンだけが嫌な予感を感じつつ、冷や汗を垂らしていた。


「し、躾けならサンにも・・・」

「ダメよサン!騙されてはダメ!安心していいわ。あなたのことは私が必ず守るから!」


困惑した顔のサンをギュッと抱きしめたアイ。

ただしアイの方が低身長なため、子供がサンに抱きついているようにしか見えない。


「ねえもう食べるわよ?出来てるんでしょこれ。エールも温くなるし、これも冷めちゃうし」

「そうですわね」「うむ」「食べてからにしたらどうだ?」


ナナの言葉を合図に、皆焼き鳥に一斉に手を伸ばした。

その様子に呆然としたアイと、困惑した表情で見つめ合うドモンとサン。


「アイちゃん、まあ落ち着いてよ。ほら、さっき言ってた鶏肉料理も出来たからさ。まずは座って食べて」

「これが落ち着いてられますか!大体鶏の塩焼きなんて私だって得意だと何度言えば・・・ちょ、ちょっと触らないで!」


無理やりナナの横にアイを座らせたドモン。

アイは体をくねらせて、異常なほどドモンを警戒していたが、ナナを含め皆が狂ったように焼き鳥を頬張っているのを見て、渋々自分も焼き鳥を口にした。


「ンフッ?!何これ知らない味??これで焼いたからだというの?やっぱり魔法・・・それとも悪魔の?!」一口食べて、ダーンと立ち上がったアイ。

「ンガッ・・・もう魔法でも悪魔でもなんでもいいわ・・・これが食べられるなら」ナナは両手に焼き鳥。

「塩をふりかけただけで・・・」「無限よ無限!無限に食べられるわ!」「この備長炭ってのも何とか作れないものか?」


シンプル且つ究極。鶏肉料理の最高峰。

食べても食べても腹が減り、エールの美味さを何倍にも増幅させる。

これが人々を堕落させるための悪魔による所業であるならば、甘んじてそれを受け入れよう。そんな気持ちにさせられるほどの至高の美味さ。


皆が我先にと焼き鳥に手を伸ばしているのを見ながら、ドモンがサンをちょいちょいと手招き。


「どうもおかわりが必要みたいだから、手を貸してもらえるかなサン」

「はい!かしこまりました!」


わざとらしく大きな声でそう言うと、全員素直に笑顔を見せた。

ただもちろんこれは、サンとふたりきりになるための口実である。

ドモンとサンはすました顔でキッチンへ。


「どうなってんだよサン、体中ペロペロしてスッキリさせて、サンに惚れさせる作戦はどうなったんだ??」

「そんなこと言っていませんっ!裸の付き合いで仲良くなっていただこうとしただけですぅ!・・・まあ少し酔っていたせいもあって、今考えるとそれもどうなのかと、とても恥ずかしいですけど・・・」

「なんだ、ペロペロはしていなかったのか」

「・・・し、していないですよ・・・サンからは・・・」


ホビット族は、女性達も男性に負けず劣らずスケベであった。

ドモンも蒸し風呂でナニをイタズラされたくらい積極的である。


「それがどうして俺がサンを襲うだの何だのと?」

「はい・・・何がどうしてそうなったのか私にもわからないのですが、どうやらいつも私が御主人様に無理やり抱かれているのだと勘違いしているのと、そ、そのぅ~・・・違う方も近々捧げろと脅されていると勘違いされてしまったのです」

「違う方って、あぁシンシアも勘違いした後ろの方か」

「は、はい。あ、あの・・・サンは御主人様が求めるのならば、いつでも捧げる気持ちはあるのですよ?ううん、サンは本当に捧げたいの」

「バカバカ!そんな態度だから勘違いされちゃったんだろ!八の字眉で困った顔して、そんな上目遣いで見つめられたら、俺ももう我慢できなくなっちゃうよ」


手に鶏肉の刺さった串を持ちながら、可愛すぎるサンをギュッと抱きしめたドモンであったが、突如キッチンへの出入り口からアイが顔を出し「きちんと見張っていますから!許しませんよ!この悪魔め!」と怒鳴りつける。

ドモンはへの字口になって両手を上げ降参ポーズ。


「で、その悪魔がどうとかってのは?」

「はい。特に私からそれについて言ったわけではないんですけど、どうも御主人様が私の・・・を犯して血みどろにさせ、大悪魔のいけにえとして捧げるところを、カルロス様の屋敷で披露されると勘違いしてしまったのです・・・結婚式の披露宴だと何度も説明したのですけれど」

「なんじゃそりゃ??」

「わかんないですぅ」


ドモンもサンも、なぜそうなったのかがさっぱり。


実はこの世界では結婚式はあるものの、披露宴というものが一般的ではなく、アイには結婚と披露が結びつかなかった。

その結果『血痕を披露する宴』が行われるとアイは思い込み、ドモンは悪魔扱いをされた。

サンがいくら説明してもすでにドモンによって洗脳されていると高を括り、全く信じてくれなくなってしまったのだ。


「お父さん!私思うところがあって、あの人達についていこうと思っています。戻るまでの間、子供らのことお願いします!」

「え?!あ、ああ任せておきなさい。そうか・・・そうかぁ。うぅぅ」

「なによ?寂しいの?泣くことないじゃない。大丈夫よ、すぐに戻るわ」

「いやなんでもないんだ。なんでもないんだよ」


父の隣からキッチンに居るドモンを睨みつけたアイであったが、父の意外な反応に少し戸惑った。

ホビットの長は、殻に閉じこもったままだった娘が、また小さな一歩を踏み出したことを神に感謝した。

悪魔なのだけれども。




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