第540話
器に盛った米にホワイトソースとミートソースをかけ、たっぷりとチーズを乗せたあとに窯で焼き、ドリアが完成した。
パスタの方は奥様方が茹で、ドモンがミートソースをかけ、こちらもすぐに出来上がった。
「待たせたな。ミートソーススパゲティと、サイゼ・・・いや、俺の世界の有名なレストランの・・・ミラ・・・どっか風ドリアだ」
「なんだか歯切れが悪いわね??」ドモンの説明に首を傾げたナナ。
「うるさいな、仕方ないだろ!とにかくさっさと食え!」
結局ドリアだけを食べるのはドモンだけで、他全員がどちらも食べることに。
皆食べ慣れたパスタの方から・・・というより、ドリアはまだグツグツと煮えたぎっており、まだ手をつける勇気がなかったと思われる。
「不思議だねぇ・・・トマト味のパスタならいくらでも食べてきたというのに、こうまで違うもんかね??」「ねぇ?」「じゃのう・・・」
「お、おかわりをくれ」
「ちょっとお父さん、まだ全部食べてないじゃないの。それにもうひとつお料理あるんですよ?」
ミートソーススパゲティの時点で皆もう夢中で食べ、侃々諤々の大騒ぎ。
数人の奥様達がドモンから調味料とひき肉機を借り、早速追加のミートソースを作り始めていた。
「んぐっ!!ねえどうして今まで作ってくれなかったのよ!」
「いやこっちの世界のパスタの方が本格的だったというか、俺の国ではあまりに普通の食べ方なもんだから、気にもしてなかったんだよ。こっちで例えるなら『どうして鶏を塩で焼いてくれなかったの?!』と言われてるような感じで」
「なんかドモンが焼いたら、それすら美味しくなりそうで怖いわ」
「んー自信はなくもないかな?」
後先を考えず山盛りのパスタを平らげたナナは、ポコっと膨れたお腹を両手で擦りながらドモンに文句。
この世界ではスタンダードな鶏の塩焼きでも美味しく出来ると言ったドモンに、目をキラリと輝かせた。ホビット達と一緒に。
「わかったわかった!それは後でまた作るから、今はこのドリアを早く食べろよ。冷めちまうっての」
「絶対よ?じゃあみんなもこれ食べましょ。見た目はまあ・・・なんかあれだけど、ドモンが作ったんだからきっと美味しいわよ」
「なんだよ。熱そうだから後回しにしたんじゃなく、美味しくなさそうと思ってたのかよ」
「だって出来上がった見た目が想像してたよりも・・・なんかほら・・・炎天下の道に落ちてる馬の・・・」
「おいやめろ!なんてこと言い出すんだ!」
ミートソースを焼くとやや茶色くなり、ひき肉を使用したブツブツとした見た目と相まって、ナナは馬のとんでもないものに例えはじめてしまった。
他の者達はそんなことを全く思っていなかったのに、ナナのせいでうっかりその姿を思い出してしまうハメに。
ハァと深いため息をついたアイがまずドリアを一口。シンシアとサンもすぐにそれに続いた。
「まったくナナときたら・・・あなたが変な事を言いだしたおかげで、私はこれから道端で馬の『ソレ』を見かけた時に、いちいち『あそこに落ちているのは、この世で一番美味しい食べ物じゃないわ』と考え直さなければならなくなったじゃない」
アイはドモンに喜ぶ自分の顔を見られたくないのと、ナナに説教をするため、すました顔のまま皮肉たっぷりにドリアを褒め上げた。
「あなたやりますわね。ナナは恥を知りなさい」
シンシアも対抗してすまし顔。
庶民が落ち着いているのに、身分が上の自分がはしゃいでしまってはドモンに恥をかかすこととなると考え、ここはぐっと堪えた。
「んん~!とっても美味しいです御主人様!皆様も是非すぐに食べてみてください。こちらは間違いなく熱い内に食べた方が良いものです!んー!ハフハフ」
無意識に左右に揺れるサンの体。いわゆる『美味しいダンス』である。
普段冷静なサンがこうなるということは、いつにも増してこの食べ物が美味しいという何よりの証拠。
ドモンとナナは一度目を見合わせて、自分達も食べ始めた。
「あぁこれだこれだ・・・う~んまいなぁ!やっぱこれは。あぁ懐かしい」
「んんー!!んぐんぐ、んぐ~ぐっんがっんぐ!!」
「久々に出たな巨乳語。慣れてきた俺にも今回はさっぱりだ」
「んがっ・・・ぜんぜん馬糞じゃなかったわ!って言ったのよ!わかるでしょ普通!」
「わかんねぇし、お前まったく反省してねぇな!それにずっと濁してきたのに、ついにはっきり言いやがって!あーうめぇ」
いつも通り下品な会話をしながら、ガツガツとドリアを貪り食うドモンとナナ。
ホビット達も顔を見合わせコクリと一度頷き合い、ドリアに手を付け始める。
部屋の中はカチャカチャとスプーンが食器に当たる音と、ハフハフと口を冷ます音のみ。
ホビット達には、ドモン達のように感想を言っている余裕はない。
冷静にあんな感想を述べたアイは凄いと思い、ちらっとアイの方を何人かが見たが、そのアイも今はもうドリアに夢中だ。
父であるホビットの長は、そんなアイの姿を数年ぶりに見て驚いた。
そこにいるはずもない想像の子供達のことも忘れ、まるで自身が子供に帰ったかのように夢中になって食べていたからだ。




