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第539話

「この人に料理が出来るとはとても思えません。それに私タバコの匂いが嫌いですから、今から料理がタバコ臭くなるんじゃないかと心配で。それに大体タバコ吸う方は味覚音痴でしょう?」

「酷い言われようだな・・・タバコで味覚音痴になるだなんて、どこかのアホが思いつきで言っただけだ。それを信じる方もどうかしてるよ。舌の粘膜なんて次々に再生されるし、タバコ辞めたら飯が美味く感じるようになっただなんて、飯を食う時にもバカバカタバコ吸うバカだけだぜ?入院中ずっと禁煙していたけど、まるっきり変わりゃしないよ」


難癖をつけてきたアイに反論するドモン。


「タバコ吸う人は必ず屁理屈を言うわ!肺も煙でドロドロになって死ぬって聞いたんだから!」

「肺も再生されるに決まってるだろ。そんなもんでドロドロになってたら、この世から手持ち花火が無くなるっての。ま、煙くてニオイが臭いのは間違っちゃいないから、その点は俺も気をつけるよ」

「子供達にも気を使ってください。もう」

「・・・・ああ、そうだな」


ホビットの長とアイが住む家には、灰皿があった。

ただふたりとも喫煙している様子はないので、恐らくアイの旦那が喫煙者だったのだろう。


今ドモンはタバコを吸っていなかったが、アイは可愛い灰皿をコトンとテーブルに少しだけ嬉しそうに置いた。

その昔、旦那と同じような喧嘩をしていたのかもしれないなとドモンは考えていた。


「御主人様、なにかお手伝いできることはありますでしょうか?」とサン。

「じゃあ牛肉と豚肉でひき肉を作っておいてくれ。アイちゃんは玉ねぎと人参の皮を剥いてくれるか?」

「はい!」「・・・いいですよ、そのくらいなら」

「奥さん方は火にかけられる小さな器を人数分用意してくれ。それと米を炊いてもらえたら助かる」

「任せてちょうだい」「ええじゃろ」


サンとアイがドモンの手伝いをし、シンシアは優雅にティータイム。

とは言ってもシンシアは本当に休んでいるわけではなく、客としてやってきていたホビット達を相手に、歓談の場を設けていた。

奥様方もせっせとお手伝い。ドモンが何も言わなくとも、テーブルクロスを敷いたり飲み物を用意したりと、せわしなく体を動かしている。


「ドモン、私は?」とナナ。

「おう、ナナは・・・応援係だ」

「あー言うと思った!言うと思ってました!始まったわまた。そうやっていつもいつも私を除け者に・・・」

「冗談だよ。じゃあナナは俺と一緒に、剥いてもらった玉ねぎと人参のみじん切りをしよう」

「どういう風の吹き回し?まあそういうことなら私も張り切っちゃうかな?フフフン」


ホビットからエプロンを借りたナナがドモンの横へ。

当然その規格外な胸はエプロンの両脇からはみ出ていて、エプロンの意味があるかどうかはわからない。


「しっかり覚えておくんだぞ?玉ねぎはまず半分に切ったあと、こうやって縦に切込みを入れて、横向きにして刻んでいくんだ。もし俺が居なく・・・」

「いなくならないわ!私がいるもの。サンだっているし、まあシンシアも一応ね?うぅ目が痛い。うっうっうっ・・・」

「そうか。なんだか俺も目が痛いやハハハ」

「もう目が開けられないわ。絶対ドモン笑ってるもん!エヘヘ」


何の涙かわからないまま、笑顔で涙を拭ったドモンとナナ。

アイは黙ってそれを見ていた。


「さてまずはミートソースを作るぞ。刻んだ玉ねぎと人参に火を通して、ひき肉も入れて炒めていくんだ。にんにくもここで入れちゃおう」

「なんだかもう良い匂いがします」とひき肉を持ってきたサンがクンクン。


「まだまだこれからだぞ?塩と胡椒と小麦粉を入れて軽く混ぜたら水を加え、ひと煮立ちしたらここにトマトを入れて潰していくんだ」

「嘘?!すごく手際が良いのね」と驚くアイ。

「エヘヘすごいでしょ~。きちんと量を計らなくても、見た目や匂いで調味料の加減が出来るのよ。食べたらまるで魔法みたいに思えるわよきっと」


話すスピードと同じくらいのタイミングで、用意していた調味料などを鍋にぱっぱと入れていくドモンの姿を見て、アイも思わず目を丸くした。ナナはいつものように鼻を高くしながらドモンの自慢。


「流石にここからは味見するよ。トマトがどのくらい酸っぱいかわからないしな。で、塩と砂糖と、ほんの少しの醤油ととんかつソースで味を整えていく。10分くらい煮立たせて水分を飛ばせば完成だ。手が空いたならアイちゃん続き頼めるかな?」

「ええ、ゆっくり混ぜていてばいいのね?」

「うん頼む。俺はホワイトソースってのも作るから。サン、作り方わかるよな?手伝ってくれ」

「はい!お任せください御主人様!グラタンの時のあれですね?」

「そうだ」


ここまで来ると、ナナだけではなく他のみんなも腹の虫が大合唱をはじめ、あちこちからゴクリと唾の飲み込む音も聞こえ始めた。

唯一ホビットの長だけは、ドモンと一緒に持ってきたひき肉機の構造に夢中。

今作っているものを見て、何が何でも同じ物を作らなければならないと決心したからだ。


「こんなものかしらね?」ドモンに鍋の中の様子を見せたアイ。

「うん、ミートソースは出来たみたいだな。で、これをパスタにのせて食べるのも美味しいんだけど、今回は米と一緒に食うことにする。この前、隣街で美味しいチーズたくさん買ってきたしな」

「はいはーい!私パスタの方も食べた~い」と、やはりいつものナナの決まり文句。


「まーたはじまった!パスタなんて用意してないだろうが!今から小麦粉練って茹でていたら、飯食う頃には朝になって腹減って死んじゃうぞお前」

「良かったらうちの麺を持ってこようか?」「うちにもあるぞよ。乾燥した麺じゃが」実は自分達も食べてみたかった奥様方。

「え?!乾麺のパスタがあるのか??へぇ~もう存在してたのかぁ。いやぁそりゃ助かる」


例の件で今はもう乾燥パスタを作る工場もなくなり職人もいなくなってしまったが、作り方のノウハウだけは受け継がれており、各家庭で保存食として天日干しで乾燥パスタを作っていた。



「なんかミートソースが足りなくなる予感しかしないんだけど・・・」奥様方が持ち寄った乾燥パスタの量を見て愕然としたドモン。

「また作ればいいのでしょう?作り方は見ていたし、味見だけさせてもらえれば同じ物を作るわ」「そうじゃの」「私にも味見させてちょうだい」「んじゃ私も」「ではワタクシもさせていただきますわ」「サンも良いですか?御主人様」と群がる女性陣。


「どうぞどうぞ・・・としか言えなくなる流れじゃねぇか!まったく・・・」

「オホッ?」「なんと!!」「うわっ!すごっ!」「一体何ですのこれは?!」「普通のトマトのパスタの味じゃないですぅ!」


小さなスプーンでミートソースを一口食べた瞬間、想像してたものを遥かに超えた味に皆驚きが隠せない。

かなり雑に調味料を放り込んでいたようにしか見えなかったのに、想像を遥かに超えた美味しさがそこにあった。


「・・・本当に魔法の料理ってあるのね」


アイはドモンの顔を見て、初めてニッコリと微笑みかけた。

それを見たドモンは危うくその魔法にかかりそうになり、顔をブンブンと横に振ったあと、外へたばこを吸いに行った。




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