第538話
「あ!ドモン、随分遅かったじゃない。一体今日は何を作るの?」
「ちょっとナナ!話はまだ終わってないわよ!ここに来て座りなさい!」
何やら揉めている様子のナナと美少女改めアイナノア。
「もう私が悪かったって言ってるじゃない!許してよ、ごめんなさい」
「ダメよ。あなたには女性としての振る舞いを覚えてもらいます。どうしてあんな酷いことを言ったの?」
「だってあれはドモンが・・・」
「男と女は違うでしょ?じゃああなたは男の人のように、堂々と立っておしっこする?しないでしょ?今は納得できないかもしれないけど、女性として女らしさを守るということは、自分にとっても大切な・・・」
「冒険中なら立ってすることだってあるわよ!蛇にお尻噛まれたくないもん!じゃあね!」
「あっ!待ちなさいナナ!話はまだ終わってないわよ!もう仕方のない子ね!」
ドモンの後ろに隠れて舌を出したナナを睨みながら、アイナノアは腰に両拳を当ててプンプンと怒っている。
居ない間にすっかりと打ち解けたらしい。
アイナノアの見た目は幼いけれど、やはり出産と子育てを経験しているだけあって、年相応のしっかり者であった。
第一印象から感じてはいたが、遊び人のドモンにとって、冗談が通じない正直一番苦手なタイプである。
その真面目さ故にあんな事があってもまだ人間を信じようとし、ドモン達を助けようとしてくれたのだけれども。
「婦人警官を押し倒すようなもんだぞこりゃ・・・」
「ん?なんか言った?」
「いやこっちの話だ。さあ飯にしようか」
ジトッとした目でナナがドモンの顔を覗き込むも、ドモンは素知らぬ顔で視線をずらす。
そのずらした方向から、丁度サンとシンシアも戻ってきた。
「お待たせいたしましたわドモン様。ワタクシ覚悟は出来ております」「サ、サンも出来ます・・・」
「何の話だ??」
「ドモン様が・・・をお捧げになった今、確かにワタクシも同じ気持ちを味わうのが妻の務めというもの。ドモン様からお叱りを受けて当然ですわ!」「はい」
「なになに??何がだよ?!何のこと???」
シンシアとサンの態度に嫌な予感しかしないドモン。
真面目なアイナノアを誘うには、今はとにかく誠実であることを示さなければならないというのに。
「ドモン様のご要望どおり、な、中の方まで綺麗にしてきましたわ!」「サンもしました・・・」
「だ、だから何の話だよってば」もうすべてを察したドモン。口は災いの元。
「ワタクシはもうどちらでも・・・、ドモン様にご満足いただけるよう心がけておりますわ」「サンも出来ます。泣いちゃうかもしれないですけど、気にせず体を押さえつけて貫いていただければ・・・」
「何がどうなってそんな話になっちゃったんだよ、お前達は!俺がそんなことするわけ・・・まあ無くはないけども・・・しかも外で、大きな通りを横断しながらなイヒヒ」
「え?!まさかそんな・・・」「えぇ?!」
どこかの悪魔が口を挟まずには居られなかったようで、ドモンはすっかり余計なことを口にしてしまった。
先程の冗談がドモンの要望だと勘違いしたふたりは、あまりの衝撃的な内容にその場で崩れ去り、その場には般若のような顔になったナナとアイナノアが残った。
「いや違うんだよナナ、アイちゃん。ちょっと人混みの中でスケベしてみようかなと思ったら、なぜか違う方へズッポシしちゃって大きな声が出ちゃったから、慌ててそのまま逃げたというか・・・ほら、抜いちゃったらみんなに大事なとこ見えちゃうだろ?」
「グギギギギ・・・そもそもどうして人混みなんかでそんなことすんのよ!」「誰がアイちゃんですか誰が!」
「若気の至りだったんだよ!まだ18歳くらいの頃だぜ?今から30年以上も前の話だってば!」
「いつとかそんなの関係ないわよ!今夜覚えてなさい!」嫉妬で怒り狂うナナ。フンフンと赤い顔ですごい鼻息。
「あなたには少しお説教が必要なようですね。私も今夜話があります」恐らくアイナノアの怒りの方向は、ナナとは真逆。
「え?あぁはい・・・まあそんな怒るなよアイちゃん」
「・・・・」
またアイちゃんと呼ばれ、キッとドモンを睨みつけたアイナノア改めアイ。
妙な流れになったとはいえ、今夜話し合えることになったのは、ドモンにとって願ったり叶ったり。
「さてさて、それでは子供が喜ぶものと言ってたけど、大人から子供まで大人気の庶民の味方のあれでも作ってみようか」
「なになに?!もしかしてあれ?チーズのハンバーグ??」
「それじゃないけど、きっとナナも喜ぶと思うよ。これを嫌いだって言った学生に俺は会ったことがない」
「学生??」
ぎゃあぎゃあとうるさい女の子達を見て、ふと思い出したあの光景。
店内でタバコが吸えなくなってからはすっかり足が遠のいたが、ドモンもその味が恋しくなったのだった。




