第536話
「いいのか?みんなの前であんなこと言ってしまって。まああんたらに恥をかかせて追い出そうとした俺等が言えた義理ではないけれど・・・」
「ホントだよ。あんなとんでもない罠まで作りやがって。それにお前だろ?俺をハメやがったのは。色んな意味でな」
「お、俺だけではないぞ!」
「俺だけではないって、俺もやったってことだろ。それについては今は貸しにしといてやる。ナナ達を犯さなかったことだけは感謝するよ。百倍返しのところを十倍返しで許してやるけど、娘の目の前でテメェもキャンキャン泣かせて恥を晒してもらうからな」
「何でもするから娘の前では勘弁してくれ・・・」
「ん?今何でもするって言ったよね?」
森の中に響くドモンの恨み節。
そっちの趣味はなかったというのに、勝手に目覚めさせられた恨みは忘れない。しかも三人の嫁に見守られながら。
「こ、これが自動車ってやつなのか?!動くというのか?これが??」
「動かなきゃここまで持って来れないだろうに。じゃあほら、そこらを一周してやるから横に乗れ」
「いいのかい?!いやぁ信じられん・・・人間にもこんな技術を持った者がいるのか・・・」
「乗ったらドアを閉めろ。動かすぞ」
湿地とも言える草原をぐるりと一周してみせたドモン。
その横でホビットの長は大興奮。
「うぉぉ!!馬もなしにどうやって動いているんだ!なぜこんなにも揺れないんだ!」
「危ないから座れっての。もう戻るぞ」
「驚きすぎて小便チビッちまったよ。人間ってのは凄いんだな」
「人間がってより、その技術を持ったものが凄いだけだ。あんたらもきっとその素質は持っているんだろうよ。それと汚したなら、後ろで水浴びできるから体を洗ってこい。そして服は脱いだまま、四つん這いになってベッドで待っていろ」
「勘弁してくれよ、もういい加減・・・」
自動車を元の場所へ停めた後、ホビットならではの視点で隅々まで観察を始めたホビットの長。
ベッドがあったりや水浴びが出来ることよりも、車両の長さが変更できる仕組みやそれを動かす歯車など、普通の人間が見ないような場所を見ては感嘆の声を上げていた。
特に動力となる魔石を使用したモーターや車体の材質、そしてサスペンションに対して興味津々の様子で、服や体が汚れるのも気にせずに、車体の下に潜り込んであちらこちらを調べている。
「うひょー!なんて車体の組み方してるんだ!なるほど、こうして裏側にこいつを持ってきて、鉄で覆って強化したわけか。それにこの歯車ときたらハッハッハ!こりゃすごい!なぁあんた」
「いや、俺にはさっぱりだよ。こんなのが欲しい、こうして欲しいと言っただけで。設計したギドって奴が天才でさ、それと大工と鍛冶屋が優秀だったんだよ。弟子もドンドンと育って、今ではもう親方も顔負けだなんて言っていたくらいだそうだ」
仰向けになって車体の下に潜り込み、下半身だけ出してドモンと会話をするホビットの長。
ドモンはこんもりと膨らんでいるホビットの長の股の部分にイタズラしてやろうと思ったが、やけに真剣になっていたので、湿った葉っぱを数枚乗せる以外のことは止めておいた。
「こんな発想が生まれること自体がすごいんだよ。あんたはもっと誇っていい」
「その発想だって、さっき言った通り、向こうの世界にあったものの受け売りだ」
もう三枚、ドモンはホビットの股間に湿った葉っぱを乗せた。
「別にそうだっていいじゃないか。技術者だって発明家だって、先人からの知恵を授かって利用してるんだからな。うっひょー!これがさっき言ってたサスペンションってやつだな?!なんてものを作りやがるんだ!仕組みが理解できても作るのは簡単じゃないぞ?」
「それは大工と鍛冶屋の渾身の力作だぜ。今は弟子達が受け継いで作っているようだけど、作っても作っても注文が多くて間に合わないとか」
「そりゃあそうだろう。そこらの素人じゃその意味すらわからないだろうけど、技術者から見ればこれは『この世界を変える物』だぞ。大発明だ」
「まあそれも元の世界にあった物だけどな。だけどこれに関しては、本当に大工と鍛冶屋を褒めてやって欲しいよ。ちょっとだけ俺もなハハハ」
揺れが少なくなった車体を褒めるものはいても、サスペンション自体を褒められたのはドモンも初めて。
よく見てくれたものだと、ドモンも悪い気はしない。
「こんなのを作るんじゃ・・・そりゃ女もほっとかないって訳か」
「それは関係ないよ。たまたまというか成り行きというか・・・どうしてこうなってしまったのか、俺にもよくわかんないし」
「何かひとつ秀でていたり、頼りにできる男ってのはモテるもんだ。やはり俺の娘も貰ってやってくれないか?そうなりゃ俺もあんたの知恵にあやかって・・・おや?サスペンションのこれは一体・・・?」
「だからこれ以上無理だって。俺の寿命も怪しいし・・・あと26日って本当かよ。ん?サスに何か問題でもあったか?」
サスペンションについていた泥を払ってみると、薄っすらと何かが描かれているのが見え、ホビットの長が小さく声を上げた。
 




