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第523話

「何をしているのかと思えばまったく!」「呆れますわ!」

「返す言葉もございません。煮るなり焼くなり・・・」

「大体あんた体の調子も良くないというのに、どうしてそんな無茶したのよ」

「いやその・・・そうしなきゃって思ったらもうつい・・・」


床に正座をしてシュンとした顔の母娘と、その横で覚悟を決めてナナのお尻叩きを待ち、四つん這いになるドモン。

その結果、全裸に姉の下着一丁で四つん這いという、あまりにも情けない変態おじさんの出来上がり。


しかしナナはいつものように怒ることはなく、静かに怒りを抑えている。


実はナナも何かしらの違和と危機を察知していたのだ。

ドモンよりも更に薄っすらとしたものだが、今まで何度も経験したのと似た気持ちを先程から感じていた。

経験を積むごとに、それがどのようなものかも少しだけわかるように。


ナナはドモンが今回こうした事によって、何かしらの危機を回避しようとしているのではないかと考えた。

そうでなくてはあまりにも強引で、リスクが高い浮気の仕方だからだ。目が少し赤くなっているのにも気がついた。


ただそれでも湧き上がる嫉妬は抑えきれない。それほどゴブリンの母娘は、反省しながらも幸せそうな顔をしていたからだ。


「あんた、まだまだ元気そうねそれ」ベッドにドモンを移動させたナナ。

「例のキノコをつい多くかじってしまって・・・」

「シンシア、あとそこのふたりも早く来なさい。サンが帰ってくるまでよ!」

「えぇ?!本気ですの??」「私達も??」「お情けを?!」


もう一度照明を消して、サンが戻るまで五人はひと塊となった。

ドモンの目からは一筋の涙。だがもう誰もがなにかに夢中で、それに気がつく者はいない。


『結局お前が似たようなことをやったんだな!何人の女を不幸にするのやらイッヒッヒ!』


頭の中に聞こえた声は、自分のものなのか悪魔の囁きなのかはわからない。

ドモンは救ったつもりでも、実は違う不幸を与えただけなのかもしれない。

そう思えた瞬間から、ドモンはどうしても涙を堪えきれなかった。


「大丈夫よ。私が罪を許し、サンが癒やして、シンシアが救うわ」


ようやくドモンの異変に気がついたナナが、ドモンの耳元でそう囁いた。

ナナもどうしてそんな言葉が頭に浮かんだのかが分からなかったが、その言葉だけが、今のドモンの気持ちを落ち着かせることが出来るように思えた。



「ただいま戻りましたぁ!ってあれ?なぜ奥様が御主人様の服を着て、御主人様がシンシア様のドレスを着ているのでしょうか??」


慌てた様子で階段の途中まで下りてきたドモンとナナにばったり会ったサン。

子供達はドモンの格好を指差し笑い、ゴブリンの青年とオーガの男女は思わず顔を背ける。


「う~っ!」


ツヤツヤなナナの顔を見たサンが何かを察し、ドモン達を押しのけ階段を駆け上がり、二階の寝室へ。

ドアを開けるなりベッドの上でうつ伏せになって、ゴブリン母娘にマッサージを受けるシンシアが目に飛び込んできた。


「あ、あらサン、早かったのね。今このふたりに体をほぐして貰っていたところですのよ。ね?」とシンシア。

「え、えぇ」「う、うん・・・」目をそらす母娘。


「裸でですか?それも施術をする方まで・・・あとシーツが随分と湿っているようですが、いかがなされたのでしょうか?」ジトッとした目のサン。

「き、気持ちがよくて体の力が抜けてしまったのですわ!このふたりもワタクシにつられて漏らしてしまったの。そう!それで服も下着も汚してしまって服を脱いだのですわ!そうよそう!そうよね?あなた達」

「漏らしたと言いますか飛ばしてしまったと言いますかその・・・」「シンシアさんもう無理よ」


シーツどころか、壁や窓まで汚してしまっていることに気がついて、もう誤魔化しきれないと思いつつも話に乗った母親と、完全にあきらめムードとなった姉。


「サン、話を聞いて!私達もドモンを叱ろうとしてたのよ。ただその・・・ドモンがまだ元気だったからつい・・・」寝室まで戻り、言い訳にもならない言い訳を言ってしまうナナ。

「・・・・」

「みんな、サンとふたりきりにしてくれ。話があるんだ」ドモンも戻り真剣な顔。だがその姿はシンシアのドレスを着た女装姿。

「・・・・」


着替えを済まし、ドモンとサンを残してすごすごとその場を去る。

その際小声でナナが「何があっても今回ばかりは目を瞑るわ。サンをなんとかしてあげて」と、人生数十回目か数百回目の『今回ばかり』を言って階段を下りていった。


寝室でドモンとふたりきりとなったサン。

自分だけが除け者にされた悔しさと寂しさはあったが、実はナナと同じように怒りはあまりない。



オーガのところへ向かう自動車の運転中、闇の中で猪の子供の群れを狩る怪しげな男達の姿を発見し、サンは全身の毛が総毛立つほどの悪寒が走った。


「あんなことをしては親の大猪を怒らせてしまうだけだ。残酷なことかもしれないけれど、狙うなら親の方を狩らなければ駄目なんだ。これから狩りを続けていくことを考えてもね」と青年。

「ねえ、なんかひとりこっちに向かって来てるよ?」と助手席に座る子供が指を差す。

「この中に居れば安心ですよ。大きな岩が当たってもびくともしませんから。鍵は掛けていますよね?」サンは自分にも言い聞かせるように子供達を落ち着かせた。


「鍵は大丈夫だよ!まあいざとなったら俺のこのナイフで、心臓を一突きにしてやる!」

「わっ!」「キャッ!」


男の子が自慢のナイフを懐から取り出した瞬間、サンは胸の真ん中を押さえて思わず急ブレーキ。

急停止した自動車に男の子も驚いてナイフを床に転がしてしまい、「危ないだろ!」と青年ゴブリンに怒られてしまった。


結局怪しげな集団はこちらには手を出さず、まっすぐ休憩所の方に向かっていったのだが、サンの中に生まれていた強烈な違和感は、何かしらの確信めいたものへと変化していった。


『きっとまたあの人が救ってくれたのね』


今まで何度も経験したこの感覚。

その正体がサンには徐々に見えはじめていた。



抱いて誤魔化そうとしていたドモンだったが、サンにその話をされて、ドモン自身も今わかる全ての事を話した。


「ゴメンなサン、きっとこうしなければならなかったんだと思うんだ。浮気の言い訳にしちゃ最低の言い訳だけども」

「いいですよ。ドモンさんはドモンさんの思うままに行動していたら、きっとうまくいきますから」

「・・・・」

「ただし!今晩はサンのお相手もしていただきます!エヘヘ約束ですよ?御主人様」

「あ、ああ・・・」


こうしてドモンが思い描いた理想的な一日が今日も過ぎていく。

恐らく今までもずっとそうだったのだろう。


全てはドモンが思うままに。


『全部が全部世の中が思い通りになれば、つまらない思いしかしねぇってギャンブラーのお前が一番わかってんだろ?そろそろ終わりにしようぜバカ息子』


「何かおっしゃられましたか?」トントンと機嫌良く先に階段を下りたサンが振り向いた。

「ん?いや俺は何も・・・」ドモンもトントンと階段を下りていった。




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